~考察~
~考察~
PPPPPP
目覚ましだ。枕元にある目覚まし時計を止める。すぐに携帯を見る。表示は9月8日。
「夏樹?今日学校休むの?行くの?」
母親からだ。
「今日学校休むよ」
「わかった。私はもうちょっとしたら出かけるから後よろしくね」
行うべき項目は3つ。一つ目はトラックの事故の回避。二つ目は青野さんと付き合い、須藤と別れさせる。そして三つ目が青野さんの家の爆発事故の回避だ。
だが、二つ目が出来ていない。いや、違う場所が爆発しただけだった。つまり爆弾は移動しただけだ。ということは、移動先を知る必要がある。ある程度の場所は把握している。まず、その場所を探すためにこのループを捨てようと決めた。
電車に乗り青野さんが住む町まで移動する。駅を降りて歩きはじめる。目印になるジャストコに向かって歩いていく。
マンションの上からだと近いと思っていたが、歩いていくと違う駅の方が近いことがわかった。大きな庭がある家の表札を見る。
予想通りだった。そこには「柚木」と書かれている。そう、「柚木ゆきな」を助けないといけない。だが、どうして爆発先が変わったのかはわからない。庭が広いため中に入って爆弾があるのか確かめる方法はない。事前に爆弾を撤去するだけで解決なのだろうか。
確かに9月1日の爆破事件では爆弾を撤去するだけでタイムループからの脱出は出来てしまった。
今回もそうなのだろうか。わからない。それに、爆弾は2か所だけなのだろうか。爆弾犯は爆弾の場所を警察に見つかる前に違う標的先に移動させているだけなのかもしれない。
そうなると9月1日のように自分で爆弾を持ち出すしかないのか。だが、釘が出てくる銃で撃たれたことを考えると自分ひとりでは危険すぎる。
それにまず、彼女たちが○○駅に来なくなったキッカケをしらないといけない。変えたことは『1.犯行声明を追加したこと』『2.警察に爆弾先を伝えたこと』だ。
『1.犯行声明を追加したこと』は一度取り消して、そのまま警察に連絡をしてみる。一度タイムリープを発動させて、これを試してみた。
結果的に彼女たちは○○駅に来なかった。つまり、この犯行声明の追加は大きな問題ではない。
では、僕がどのタイミングで警察に連絡をするかだ。色んな時間を試した。ホテルから家に戻ってきた時、○○駅に降りた時、16時少し前。試せたのはこの3つだ。結果的にジャグリングをする前に公衆電話から時以外で警察に電話をすると、二人は○○駅に来なかった。
だが、この電話の結果は爆弾の撤去はされず、青野さんの家は爆発をした。警察に信じてもらえなかったのだ。
納得がいかなかったので坂下さんに聞いたら、「色んな情報が錯そうして警察はすべての情報に対応ができない状態なのだ」と言われた。
つまり、警察に電話をして撤去をしてもらう選択は取れないことがわかった。自分で撤去をするには今の対応では間に合わない。朝に商店街まで行って、その後に祝園さんたちと会う。場所が反対過ぎる。だから僕は選択をまず変えてみようと決めた。
9時前に○○駅に行き、アタッシュケースをコインロッカーに預ける。9時過ぎに祝園さんと会い、中央広場の使用許可を取る。ここで祝園さんは峯島さんと話しがあるので僕は自由になる。
そこでプリペイド携帯を購入して、携帯からカエル急便に電話をして書き込みをする。
携帯はそのまま破棄する。そのまま電車に乗り青野さんの家に行き爆弾を撤去する。この時に気を付ける時は時間だ。爆弾犯に攻撃されないように素早く僕は逃げないといけない。
ネットで調べたら駅前にレンタル自転車があるのを知った。これを使ってできるだけ車が通れないような場所を使って駅に向かう。顔を見られないように帽子を深くかぶる。防犯カメラを気にした行動だ。
計画を立てたら実行だ。まず、祝園さんにラインを送る。
「ちょっとお願いがあるのですか?今日○○駅の広場で夕方少しだけジャグリングをしてからそちらに行こうと思うのですが、保証人になってもらえませんか?」
予想通りすぐに返事が来る。
「いいよ。何時に○○駅で待合せ?こっちはいつでも大丈夫だよ。夕方も体開けてよね」
夕方の予定。話しをするのではない。祝園さんはみきちゃんをお披露目したいのだ。
「9時近くでお願いします。後、ジャグリングは16時からしようと思っているのでその少し前ならいいですよ」
それまでに○○駅に戻ってこないといけない。大丈夫。できるはずだ。
「いいよ。坂りんにも言っておくね」
またすぐに返事が来る。
祝園さんは同じ行動を取らない。ラインだって前と若干違うように感じる。一体この人は何を感じ取っているのだろう。
気にしたら前に進めなくなる。アタッシュケースを取り出して僕は駅に向かった。
○○駅は人通りが多い。コインロッカーは駅構内にもある。本当は改札を出た所の方が使い勝手がいいのだけれど、祝園さんに見つかると色々聞かれる。それが怖い。
そのため一つ早い電車に乗ったのだ。コインロッカーにアタッシュケースを仕舞い、時計を見て電車に合わせて改札に向かう。
改札前にムーミン体系なのにぴちっとしたTシャツを着て、よれよれのジーパンをはいているよくわからないビニールの袋を持っている。Tシャツの柄を見て僕は愕然とした。前は「やる気スイッチ故障中」だったはず。午後に会う時は「絡むな危険」だった。今回は一瞬遠くから見たら「たいへんよくできました」に見えるのだが、よく見ると「たいへんやらかしました」になっている。前回との違いなんて少しだけ時間が違うだけだ。
それだけでなんでTシャツが変わるのかわからない。まだ、それ以外の変化がわからない。
事務所に行って峯島さんに話しをしている。この行動も今まで通りだ。
「外塚くんさ。これ書いたら準備あるよね。ボクはちょっと奥でこの峯島さんと大事なお話しがあるんだよね。ちょっと時間かかるかも知れないから先に行って準備してね。時間だけれど15時過ぎでも大丈夫?」
そう言われて時計を見る。まだ10時半だ。今からなら大丈夫だ。電車でここから駅まで45分。往復しても90分。駅から20分くらいだけれど、自転車で行けば時間は短縮できる。
「わかりました」
そう言って僕が出て行こうとした。いきなり祝園さんにこう言われた。
「まあ、何か大事な用事があるみたいだね。そんなに気負わなくてもいいんじゃない?」
どきっとした。この人は本当に怖い。
「ありがとうございます」
そう言って僕は立ち去った。事務所を出て少し早歩きになる。電車に乗り青野さんの家の最寄駅、八千代に行く。
駅前にレンタル自転車がある。こんな住宅街にと思っていたら段々畑の奥に公園がある。その公園に行く人向けにあるのだと教わった。
そう言えば、春のアニメでこの近くがモデルになったのが放映されていたのだ。そのアニメで公園が出ていたらしい。
それに、その公園にはサイクリングロードがあるのだ。青野さんと付き合ったらその道を自転車で漕いで行くのもいいと思った。
ゆっくりと自転車を漕いでいく。周りを見る。住宅街なのか監視カメラが付いている家が多い。青野さんの家の近くに自転車を止める。
どこにカメラがあるのかわからない。時間をかけていると失敗する。急いで路地に入っていく。壁をよじ登り爆弾を発見する。爆弾を見て僕は失敗したことがわかった。この爆弾はガスメーターに取り付いている。
ガスメーターから電源を取っているのだ。無理にはずしたら爆発するかもしれない。そう思っていたら足音が聞こえた。
早すぎる。よく見るとガスメーターの奥にカメラがあった。カメラで確認して、何かあったらすぐ人が来るようになっているのか。僕は打ち付けられる釘を体に浴びながらタイムリープした。
PPPPPP
目覚ましだ。枕元にある目覚まし時計を止める。すぐに携帯を見る。表示は9月8日。
「夏樹?今日学校休むの?行くの?」
母親からだ。
「今日学校休むよ」
「わかった。私はもうちょっとしたら出かけるから後よろしくね」
母親の声を聞きながらこのタイムループの脱出方法がわからなくなってしまった。どうすればいい。その時、何かが頭をよぎった。ずっと引っかかっていた違和感だ。
「そうなんだ。気を付けてね」
柚木さんからのラインだ。
いや、もう一つある。
「うん、ちょっとゆきなに言われて来たんだ。まあ、あんまりいい話じゃないんだけれど。まあ、明日ゆきなから聞くからいいよ」
柚木さんは何かを知っているのではないのか。僕は今まで柚木さんに注意を払っていなかった。
どうせ捨てるタイムループなのだとしたら、柚木さんと仲良くなって彼女から聞き出す必要があるのかもしれない。
抜け出せない時は情報が足りないのだ。爆弾に関してはどうにかしてプロを動員させないといけない。
確実に。
でも、それにはまだ解決のためのピースが足りないと思った。それに爆弾の撤去については思いついたこともある。かなりバカげたやり方だ。でも、これしか思いつかない。
でも、まずは柚木ゆきなについてだ。このタイムループは足りないピースを埋めるために使おう。僕はそう決めたんだ。
柚木さんと話すタイミング。それは16時からするジャグリングだ。僕は時計を見た。
16時少し前。ジャグリングをする時間だ。開始するのは慣れているカラーボックスからで、徐々に難易度を上げていく。何人かの足が止まり、見てくれる人も出てくる。携帯で僕を撮っているお客さんもいる。
SNSに上がるのだろう。そこで誰かが「あれって外塚夏樹じゃない?」って書き込みが出る。一度気になって確認したのだ。
カラーボックスの次はクラブを使用する。少しずつ本数を増やしていく。お辞儀をするたびに拍手をもらう。
後2分後に青野さんと柚木さんがこの近くを通る。僕に気が付くのはいつだって柚木さんだ。
二人が歩いてくる。僕のジャグリングに柚木さんが気付き、青野さんの腕を引きこっちに来る。
彼女たちがやってきたので僕は難易度を一気にあげる。すでに足下に円柱のロールと板は用意してあり、その上に乗る。
「誰か僕にボールを投げてもらえませんか?」
周りを見渡す。仕込みじゃないとなかなか手伝ってもらえない。
「そこのかわいい女子高生の二人にお願いしてもいいですか?」
ハキハキと通る声で僕はそう言って青野さんと柚木さんに手を向ける。
ジャグリングをしながら手を向けるのはものすごく注意が必要だ。失敗すると大変なことになる。
「用事があるのであれば、無理にとはいいません。僕も見ての通り高校生です。歳が近いので声をかけてしまいました」
柚木さんの表情が変わる。確信にかわった表情だ。
「やっぱり、天才少年の外塚さんですよね?投げます。というか、こずえ投げてよ。私写真撮りたい」
青野さんはゆっくり足元にあるボールに手を伸ばす。僕はとびっきりの笑顔を青野さんに向ける。
「うん、わかった。このボールを投げればいいんですね」
「はい、できるだけ山なりで投げてください」
青野さんにボールを投げてもらう。ちょっとバランスを崩したように見せるのもひとつのテクニックだ。
ジャグリングが終わり、まずは『ルージュ』に行く。これは二人ともテンションが上がるのだ。今回は柚木さんに出来るだけ話しかける。元々僕のファンなんだ。なんとかなると思っていた。
「お二人はよくこの○○駅に来られるんですか?」
僕はいつもなら青野さんに話しかけるのに、柚木さんに話しかけた。
目鼻立ちがはっきりしている。というかメイクの加減なのかもしれないが少し顔つきが濃く見えるのだ。
もう少し薄く化粧をすればかわいいのにと思ってしまう。ただ、本人にとっては違うのだろう。女性が思うかわいいやきれいは男性のとは違う事が多い。
「あんまり来ないんですよね。人ごみが苦手なので」
そう言って柚木さんは青野さんを見る。柚木さんの方が時間を気にしている。青野さんはもうおいしいものを食べたい思いが勝っているのがわかる。いつだってそうだった。
「でも、この店は来てみたいってずっとゆきなと話していたんです。いつも行列なのであきらめていたんですけれど、この店って事前予約できるんですね?」
「いや、普段はできないよ。ちょっとこの店のオーナーと知り合いだからできたんだよね」
この店自体予約は基本受け付けていない。並んでいる人に悪いからという理由だ。今回は特例ということで受け付けてくれたんだ。
「ほかにもこういうお店に詳しいんですか?」
青野さんは甘いものになると目がない。スフレを食べ終わるとすぐに柚木さんが僕を一瞬見てから青野さんに話す。その話し方は少し強い口調だ。
「こずえ、どうするの?」
青野さんが僕を見ている。悩んでいるのがわかる。少しの行動の違いで間が産まれた。
「ゴメン。私もう少し外塚さんと居たいの。ゆきなだけで行ってもらったらダメかな?」
そう言って青野さんがゆっくり柚木さんを見上げる。
「どうなっても知らないからね」
そう言って柚木さんが店を出て行く。
「何か用事があったんじゃないの?」
「うん、ちょっとね」
理由も聞きだせなくなっている。ほんの少しのしぐさで変わっていく。怖いものだ。
「じゃあ、気分転換にカラオケでも行く?」
何度繰り返してもここで柚木さんは去っていく。だから僕は電気街でちょっとした発信器を購入したのだ。そして、柚木さんの鞄に忍ばせている。
「私、ちょっとマニアックな曲好きですけれど大丈夫ですか?」
「問題ないよ。僕だって結構マニアな曲好きだし」
そう言って思った。この切り替えしは初めてだ。何がきっかけで行動が変わるのかなんてわからない。
そして、カラオケに向かう。好きなアーティストの曲で盛り上がってからトイレに行くと言って携帯で柚木さんの鞄に仕込んだ発信器を調べる。この近くだ。ログを見るとあまり移動していない。
ちょっとだけ走って見に行こう。すぐに戻ってくればいい。失敗したらまたやり直そう。そう思った。走って行くと雑居ビルだ。
どこかでこの雑居ビルを見た記憶がある。テナントを確認すると古着屋、中古屋ショップ、武具・防具店、雑貨店に看板のない空室っぽい場所だ。
そうだ。彼女たちがどこに行くのか確認した時に唯一確認できなかった場所だ。そして、雑居ビルの入り口で柚木さんを発見した。男性と話している。その男性の顔を見てびっくりした。短髪で体格が良く整った顔立ち。
だが、今その表情は見たことがないくらい醜くゆがんでいた。忘れない人間。そう、青野さんを苦しめている彼氏。須藤和也だ。どうして、須藤と柚木さんがここに居るんだ。
その瞬間後頭部を殴られた。薄れゆく意識で誰かに殴られ続けているのがわかる。
「誰だこいつは?」
限界まで耐えて相手を確認しようと思ったが、その直後に刃物で背中を刺されたため、自らタイムリープを発動させた。
世界が暗転する。僕はまだ探し切れていないピースを追いかけないといけない。
それだけしかわからなかった。