16話 呪いを解きたくても解けない!
1
それは寒い冬の日のこと。
リビングでアリスとお茶を飲みながら世間話をしていた時。
「悠斗、あなた呪い解かなくていいの?」
「…あん?」
不意にアリスに聞かれ、俺は呪いを解きたくないんじゃなくて解けないんですけど?略して「あん?」と返事する。
どこにも「あ」がねぇな。
「……今思ったんだけど俺の後悔ってなんだろな」
「はあ?」
「だってだいぶ前に思ったことだぞ?しかもその時の記憶も曖昧だし」
我ながら見事な開き直りっぷりだ。
だがちょっと待ってほしい。
死んだ直後でさえうろ覚えだったのに半年以上経った今思い出せるわけがない。
「呪いなんでしょ?解かなかったらなんか大変なんじゃない?」
「いや、そこら辺は俺もよくわからんけど…」
『問題大アリなんだけど!』
頭の中で声が響く。
こいつやっぱ覗いてるんだな。
声の主であるルウが続ける。
『君が困らなくてもこっちが困るの!未練タラタラの不完全燃焼じゃ天界に送れないんだよ!』
(んなこと言われてもなぁ。さっきも言ったけど後悔とか具体的なことは抜け落ちてるんだよ)
『堂々と言わない!とりあえず君のやりたかったことを思い出してよ』
ルウに言われて思い出してみる。
えーとたしか……
依頼こなして海に行って温泉入って祭り行って…。
ってこれ全部転生後の思い出じゃん。
思い返せば異世界満喫してるな俺。
たしかにちょっと呪いを解く姿勢が見えないな。
うん、俺悪い。
このままじゃダメだな。
2
リビングに全員が集まり【第1回!沖谷悠斗の後悔を探そう!会議】がこうして開かれた。
「1つ聞いていい?」
ルミナが手を挙げる。
「たしか、死なない呪い?だったよね?それって解かない方がいいんじゃないの?ほら、死なないって良くない?」
ルミナの言ってることはごもっともだった。
「まあ色々あってな、少しでも解かなきゃいけないんだ。じゃあ思いついた人からどんどん意見出してこう!」
無言の中、それぞれのシンキングタイムを経て、アリスが「あ」と声を出し、手を挙げた。
はい、アリス。言ってみそ。
「どこかに旅行、とか?」
「お、いいね採用」
手元の紙にメモしておく。
「どんどん行こう!次!」
今度はイリカが手を挙げた。
「ん、おにいが、イリカ、と、遊ぶ、こと」
「どうしてそうなった」
俺が死に際に思ったことがそれだと。
んなわけあるか。
こいつが遊びたいだけだろ、たぶん。
さらにルミナが手を挙げる。
「あの、悠くんはご両親って心配じゃないの?気がかりとかってないの?」
「そういえば…」
ここにきてから親のことなんて考えてこなかった。
俺がいなくなってから、あの2人はどうしたんだろうか。
もしかしたらそれが後悔なのかもしれない。
でもそれが後悔だとして、どうやって親たちの安否を確認すればいいんだろうか。
うーんと悩んでいると、頼りになるあいつが声を上げた。
『それなら僕に任せてよ!』
3
会議が終わって解散した後、俺は部屋のベッドで仰向けになっていた。
家族の今を見ようにも俺は前の世界にはもう行けないので、ルウを通じて今の家族の様子を見ることになった。
『じゃあ行くよ!』
(ああ、頼む)
急に視界が暗くなり、気がついた時にはルウがいるあの部屋にいた。
「またここで会うのは久しぶりだね」
目の前には前と変わらない姿のルウが。
このぬいぐるみが本体なのだろうか。
まあそれはどうでもいい。
「さあ見よう見よう」
ルウが指差す方向にはテレビが。
「あれで見るのか?」
「うん。わかりやすくていいでしょ」
雰囲気ぶち壊しだが、見れるならこの際なんでもいい。
ルウが電源を入れ、テレビに映像が映し出される。
「ああ、懐かしっ!俺ん家だ」
そこには懐かしの我が家が。
どうやら今は夜のようだ。
自分の家がテレビに映ってるなんて不思議な感じだ。
「えっと、ご両親は2人とも家にいるみたいだね。見てみよっか」
画面が切り替わり、リビングが映る。
そこには半年以上会ってない父さんと母さんがいた。
そしてリビングの端にあったのは。
「うわ、俺の仏壇がある」
写真立てには俺の高校の入学式に撮った写真が入っており、線香が手向けられていた。
『悠斗が死んで、もう半年か…』
父さんがポツリと呟く。
『ええ、今でも信じられないわ……』
母さんも若干声が震えていた。
『……まさか家に誰も線香をあげに来ないとはな』
父さんはため息を吐きながら言ったこの一言は、俺の心に致命傷を与えた。
『そうね、お葬式にはお友達も来てくれたけど、それ以来誰も……』
「もうやめて!それ以上言うのはやめて!全然友達いたから!大丈夫だから!」
これのせいでまた新たな後悔が増えそうだった。
同級生が死んだんだよ!?
みんな来てあげてよ!
全然遠慮なんかしなくていいんだよ!?
『まあ、今更後悔しても仕方ないな』
おい親父、それお前が言うセリフじゃないから。
むしろそのせいで今の俺があるんだが。
おい何清々しい顔してんだ。
枕元に出てやるぞ。
『そうよね、じっとしててもどうにもならないものね!』
2人揃って能天気すぎる。
まあ両親が元気なのはいいことかな。
そうでも言わないと俺がかわいそすぎる。
すると親父が突然口を開いた。
『し、しかし、この家に2人っていうのもなんだか寂しいなぁ』
『え、ええ。そうよね』
なんかここから先は息子は見てはいけない気がする。
そういう雰囲気を子供ながらに察した。
だが無慈悲にも、テレビは俺に真実を突きつける。
『母さん、その、また3人に戻らないか?』
「!?」
おいおいおいおい!
何言ってんのほんとに!
『えっ!それって…』
息子にとって、この映像は地獄だ。
複雑な気持ちで見ていると親父が切り出す。
『その…今晩どうだ?』
そう言って親父は手を差し出す。
母さんは親父の手を取り遠慮がちに言った。
『あの、途中で疲れて寝ちゃったらごめんなさい』
すると親父はぎこちなく笑いながら返した。
『俺も寝かせなかったらすまん』
そうして2人は二階へと上がり……
「はいストーーーーップ!もう無理お腹いっぱい!これ以上はいけません!」
耐えきれなくなった俺はテレビを消した。
最後の親父の決め台詞で、俺は完全にノックアウトされてしまった。
親父のくせにちょっとカッコいいこと言ってんじゃねーよぉ。
親父のくせに…………
「もういいの?むしろこっからじゃないか」
「いや!もういい、もういいから!これ以上はほんとに!俺がどうにかなりそうだ!!」
まだ見ようとするルウを必死になって止める。
「まあたしかに呪いは1つ消えたみたいだけど……」
こんなんで呪い解けたのか。
なんか嫌なもん見ちゃったなぁ。
「何がともあれ、4つ目の呪いクリア、おめでとう」
「むしろ増えた気がするけどな」
なんかもう精神的に疲れた。
「じゃこれで終わりだね。帰ってからも色々頑張って〜」
「ん?ああ」
なんか意味ありげなことを言ってルウは消えた。
引っかかるけど、まあいいか。
そうして徐々に視界が明るくなってきて、目の前にはルミナの顔が……
ん?ルミナ?
なんで?
「ど、どうしてルミナがここに?」
奥には壊れた部屋のドア。
だんだんルミナが気まずそうな顔になってきた。
「そ、それは……」
ルミナは、今までの経緯を話し始めた。




