ゼロの剣
店の地下は薄暗い空間だった。
奥で揺れる竈の炎が室内を照らす。
「こんな暗い空間でいつも商品開発してるのか?」
「んー?まあそうだね。この方が物質の光を感じやすいし。」
道具を机の上にごちゃごちゃと広げながらウィルは間延びした声を出す。
「光?」
「さあってと。」
僕の言葉ウィルのその声に遮られる。
「作るのは剣でいいかな?」
まだ何を作るのか話していないにも関わらずウィルはもう決まっているかのようにそう言った。
正直特に武器の形態についてのこだわりはなかったから銃でも剣でも良かった。
だから元々ウィルかリリハにおまかせにするつもりではいたので頷く。
「構わないけど...なんで剣?」
数ある選択肢の中でウィルがなぜ剣を選んだのかが妙に気になりそう問う。
「あれ?違った?」
違ったも何も僕はそもそもどんなのがいいのかなんて......
「店の紹介のとき、やけに剣をお気に召したように見てたからてっきりそうだと思っていたんだけど。」
それを聞き先ほどまでの行動を思い返す。
...そう、だったか...?
確かによく目についたしカッコイイとも思った。銃よりかは剣かなともなんとなく考えたりして......
「いや。違わない。剣にするよ。」
今ので分かった。
武器の形状がなんでもいいなんてことはなかったんだってこと。
僕は自分で気づかないうちに銃より剣のほうがいいって考えてたんだな。
もし銃にするかと提案されていたらモヤモヤした気持ちが残っていたかもしれない。
早く気づけて良かった。
やっぱりどんなに適当で、小さく見えても1人で店を切り盛りする店主。
客の心の要望をよく理解しているプロだ。
「らじゃっ!タイプはどうしよっか。重さは?素材は?」
「え...ええっと......」
興奮しているのか早口でまくしあげるウィルに圧倒されたじろぐ。
タイプ!?重さ!?素材!?
そんなこといきなり言われても......
ぐるぐると頭の中がしてくる。
そのとき隣でリリハはふうっと息をついた。
「いい。あとはボクがやるさ。」
「あ...うん。まかせた。」
後ろに下がりあとの事はリリハに任せることにする。
2人が話している間手持ち無沙汰になり竈の炎を眺めるくらいしかやることがなくなった。
不規則に揺れる炎をぼーっと眺める。
「よーし!じゃあちゃっちゃと作っちゃうよ!」
どうやら話し合いが終わったらしく、やる気に溢れた様子でウィルは腕まくりをして手に小さなハンマーを持った。
机の上にはいつの間に持ってきていたのか黒い塊が置いてある。
おそらくあれが素材となる金属なのだろう。
ウィルはしーっと口に指を当て静かにするように指示する。
僕とリリハは壁際の邪魔にならない場所で口を紡ぐ。
それを確認するとウィルはうんと頷き深呼吸をした。
その瞬間、ウィルの雰囲気がガラッと変わる。
先程までののほほんとした雰囲気がなくなり顔は真剣そのものだ。
「.........」
カンーーカンーー
ウィルが金属にハンマーを打ち付ける音だけが工房内に響く。
10回ほど打ち付けた当たりだろうか。
黒い金属が光を放ち室内が青く照らされる。
先ほどウィルが言っていた光ーーー
そしてウィルが何かを小さく呟いた瞬間さらに光が増しその眩しさで思わず目を閉じてしまう。
次第に光は収まり目を開けるときには工房内がまた元の薄暗い空間に戻った。
「はい、いっちょあがり。」
「これ......」
手にずっしりとした重さがくる。
柄を握りそっと構えた。
「...すごい......」
初めて持ったはずなのにこれまでずっと一緒だったかのように手に馴染む。
炎の灯りに照らされその黒剣はきらりと光った。
あまりにも美しい剣に見とれてしまう。
「ゼロの剣、だよ。」
「ゼロの剣?」
「そう。その剣は生きてる。今はまだただの剣だけど、君が強くなればなるほどその剣も強くなるんだよ。きっと、これから先君の力になってくれるはずだよ。」
「僕の...」
もう1度じっと剣を見る。これから僕の相棒になる、この剣を。
「ふぁ...」
そのときウィルがバランスを崩したようによろけた。
机に手をつくも体を支えきれずにその小さな体は作業台の向こうへ消えた。




