ウィルの店
「さあってと...ユウハのお好みはなにかな?防具系?剣?それとも魔力媒体かな?」
「こ、好みって言われても...」
正直まだそういうことはさっぱりだ。
確かに自分を助けてくれるような物が欲しいとは思っているけどどんな物がいいかなんて......
「そーだなぁ...」
店をふらふらと歩き壁に飾られていた銃を取り出す。
「ウィルのおすすめはまずこれ!魔力を込めた銃弾が撃てるハンドガンだよ。」
「へぇ...」
光沢ある黒にシルバーのラインが入ったその銃を手渡され手に取ってみる。
演習場で触れた銃に比べて少し軽いように感じた。
「この銃はそんじゃそこらの物とは訳が違うよ!なんと...!」
銃弾に魔力が込められてるって言ってたもんな。いったいどんな魔法が込められているのだろう。
「物を消したりそれを出したり出来る優れ物!引越しのときに重宝されてる品物だよ!なんと価格1620メリル!」
「武器じゃねぇ!しかも割と安ッ!?」
この世界での通貨『メリル』は日本円と価値が同じようなので日本円で1620円。
武器ではないが確かに便利そうな代物だ。使いようによっては色々な用途に使えるのかもしれない。だが、さすがにそれで1620メリルってのは赤字覚悟もいいとこだ。
「はい!次はこれ!」
そう言ってウィルは別の場所から1本の剣を持ってきた。
「それは?」
銃を元の位置に戻しながらそう尋ねる。
「よくぞ聞いてくれました!これはかの有名な『聖剣エクスカリバー』...」
「マジでっ!?」
そんな僕でも知っているような有名な剣を作ることも出来るのかっ!?
知っている名前なだけに気分が高揚する。
さすが腕がいいと噂になるだけのことがあ......
「...型の傘立て!」
「傘立てっ!?」
全くもって意味をなしていない傘立てだった。よく見ると確かに上の方にファスナーのようなものが付いている。
デザインはカッコいいが剣の形をしているので中に入れても立て掛けるしかない。
...っていうかまたもや武器ではなかった。
「...今武器を何にするかって話をしてたよな...?」
だよな?まさかこの一瞬で忘れたなんてことはないよな?
「まあまあ。せっかくだから売り場を順番に紹介しようと思ってね。手前から順番に見てるからまだ武器系は奥だよ。今は雑貨コーナー。」
「...さいですか。」
自由すぎる店員だった。
そのあとも雑貨コーナーの長々とした説明は続いた。小刀 (柄の部分にチャックが付いており中に筆記具がしまえるペンポーチ付き)や、透明人間体験が出来るポーション(夜でも安心!体のシルエットが青白く光るオプション付き)など様々な(余計な)機能が付いた物を紹介された。
これを全てウィルが作ったのだからやはり腕は確かなようだ。だが一方でウィルが変わり者だと言われている由縁が分かった。
「よーしじゃあお待ちかねのコーナーだよ!まずは防具だね!」
そう言ってウィルはモコモコした服を取り出す。
「それは?」
「まあ、着れば分かるって。あ、そこ試着室ね。はい、行った行った。」
「え...っ、ちょ......」
背中を押され薄暗い試着室に追いやられる。
そしてカーテンを閉められた。
少し暗いせいか僕の手にあるこれがどんな物なのかすらよく見えない。
「...とりあえず......着るか。」
服を脱ぎつなぎのようになっている『それ』に足を通す。
そしてチャックを上まで閉めた。その際チャックに付いていた大きめの鈴が鳴る。
「あー、フードもちゃんとかぶるんだよー。」
試着室の外からそんな声が聞こえる。
「...っと、これか。」
頭の後ろに手を回しフードを掴んで被る。
...何やらフードの上の方に余った布のような物が付いていた。
なんだろうと2つ付いたそれをふにふにと触る。
そうしていると僕の中で何かが繋がった。
モコモコのつなぎ。チャックに付いた大きめの鈴。フードに付いた2つの『逆三角形』。
「これって......」
「もういいよねー。開けるよー。」
「ちょっ...!?」
僕が止める前にそんな間延びした声と共にカーテンがシャっと開けられる。
ずっと暗がりにいたせいか外の明るさに少し視界を奪われる。
「わー!」
目を細めているとそんなウィルの歓声が聞こえてきた。
「すごーい!やっぱりユウハは『クロネコ』似合うと思ったんだよ。」
なにが凄いんだ、なにが。
...っていうか......あー...、どういえばいいんだか...
「確かにすごいよね(見た目とかも)。うん。街で着てる人も結構いたし。...あー、でも僕って、魔法に関しちゃ初心者だからさ。やっぱり初めはもっと扱い易い物が良いかなって。はい。」
なにが『はい』だ。自分で言っててもよく分からない言い訳にしか聞こえない。だが。他に上手い断り方なんて思いつかなかった。
「えー。似合うのにー。」
ウィルが不満げな声を出す。
確かに性能はめちゃくちゃいいらしいけどさすがに初めての防具にこれを買うのはいささか抵抗がある。
......この黒猫の着ぐるみ型の防具は。
街で着てた人マジでスゴイ。街で見かけたときはただ変わった武具だとしか思わなかったが今はあの人たちに敬礼の念しかない。
ピコンッ。
「ちょっとリリハ!?その手に持っているのは!?」
ウィルの隣に立っていたリリハの手にはいつの間にか小さな立方体が乗っていた。
リリハの魔力媒体とも違うクリスタル状の物が。
「これか?安心しろご主人。危ない物でもあるまいし。ただの『記録結晶』だ。」
「ただのって!?」
おい。
「ボクとしてはその格好もアリだがな。...ある意味。」
「ある意味!?」
リリハは言った瞬間ハッとなり失言だったと顔を赤くしてこほんと咳払いする。
「買う物に迷っているようならボクは武器がいいと思うぞ。ご主人は魔法は不得手な様だし魔力媒体を持っても持て余すだけだろう。大抵のものは創れるといっても今のご主人に創れるのはただの役たたずのレプリカだ。だったらまともな武器の1つくらい持っていて損はあるまい?幸いここの店主の武器は尊者そこらの物とは訳が違うのだからな。...というわけで頼むぞ、店主。」
呼ばれたウィルは両手で額の辺りで敬礼のポーズをした。
リリハのドS発言に関しては完全にスルーだ。
「ウィー!りょーかいだよ。」
パチンとウインクを決めてウィルは武器のコーナーに行くそして振り返って手招きをする。
「ほら、行くぞ。」
リリハに言われるがまま試着室から出てウィルの元へーー
「...って僕このまま!?」
着ぐるみのままだったことを思い出して僕は慌てて回れ右をして試着室に戻った。




