27 庶務
司の敬意を含んだ眼差し、勝の怒りを溢れさせた視線。さらに久炉の困惑を含んだ目が男子生徒に向けられる。
彼は見た感じでは普通の生徒だった。身長は男子の平均程度で特に目立った体つきではない。髪は短く、制服も多少着崩している程度でどちらかというと真面目そうな雰囲気だ。少なくとも授業時間に遊んでいるような人間とは思えない。
「何……だ、お前は」
勝の問いは呻き声が混ざり、先程の威勢が消えかけている。それは俺も聞きたい。久炉が唯一同調できた勝の言葉はこれだった。
ポケットから携帯を取り出して時間を見る。五限目が始まって二分ほど経っていた。目の前のことに気を取られ過ぎて時限初めのチャイムが聞こえていなかったようだ。今は本来は生徒が出歩いていい時間ではない。
「それはこっちのセリフだ。寄ってたかって何してる」
「……少し話してただけだ」
「お前の言語は暴力なのか。日本語も話せるなら最初からそっち使えよ」
男子生徒の冷静な煽り文句に勝の顔が赤くなっていくのが見える。よく顔に出る奴だと思っていたが、ここまで赤くなると脳の血管が切れるのではないかと心配になる。
久炉は男子生徒に便乗して煽ってやりたいところではあったが、空気を読んで黙っていることにした。
「舐めるのも大概にしろ!」
うずくまっていた不良生徒は立ち上がり、膝を震わせながらも両手に光を灯した。こいつまだやる気かよ、彼の執念に呆れすら感じる。大気を震わせる怒号。勝は雄叫びを上げ、男子生徒に飛びかかった。彼の纏った光は今日一番の光を放っていた。
ツーステップ。男子生徒が勝の攻撃を躱すのに使った動きはそれだけだった。焦げ茶色の光を纏った拳は彼の鼻先で空を切る。男子生徒は右手の親指と人差し指を残して握った。子供がごっこ遊びをするときのピストルの形だ。
腕輪が紫色の光を灯す。人差し指の先、銃口の位置に小さな光の塊が形成され、それが氷の塊となった。瞬間、それが消えた。硬質な音がして、勝は前のめりに地に伏せる。膝を押さえて瞳に怒りと涙を滲ませ、男子生徒を見上げていた。
強い。戦いの知識が無くてもわかる。少ない動きで敵の動きを躱すには攻撃を見切らなければできない芸当だ。
極めつけは魔法の精度。あの男子生徒の魔法は氷の弾丸を銃のように射出する魔法だろう。弾丸を頭部や膝といった部位に的確に撃ち込むには相当な技量が必要なはずだ。
もしかしたら自分の当てたい位置に向かって弾丸が飛んでいく魔法なのかもしれないが、身のこなしだけで強さは予測できる。
そんな男子生徒の攻撃を膝にピンポイントで受けた勝は立ち上がらなかった。自分には勝てないと悟ったのか、痛みで戦闘どころではないのかは彼にしか分からないが、這いつくばったまま、動かなかった。
「お前らはどうするんだ」
男子生徒の声は勝の背を超え、名月の傍にいた生徒達に向けて飛ぶ。彼らも突然の介入者に気を取られていたのか、いつの間にか大人しくなっていた。名月は彼らの足元に座り込んでいる。死んではいないようだ。
三人の不良生徒たちは顔を見合わせると、名月を放置して踵を返した。そのまま足早に校舎裏を去っていく。
集団のリーダーが倒されたことで戦意喪失したらしい。入学したてで顔を合わせて間もない生徒同士だったことから結束が弱かったのだろう。
強いと信じて付いていたいた人物が容易く負けてしまったことで見限った可能性もあるが、それは彼らにしかわからないことだ。
「あー、どうにか終わったか……」




