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時間的に、もうすぐ午後の授業が始まる。教師の介入が行われない以上、他の生徒を頼る他ないが、その生徒のほとんどは教室にいることになる。生徒からの助けは望めない。
しかし、他の生徒の介入は避けるべきだ。仮にも生徒会という学校の代表的立場の生徒達が問題児達に負けそうになって一般生徒に助けられたなど、今後の評判にも影響するだろう。
生徒会の立場だけでなく、校内の治安の悪化に繋がることは明白だ。気に喰わないことがあれば生徒会を倒せばいいと考える生徒も必ず出てくる。――現に久炉と名月はそういった生徒の被害にあっているのだが。
どうにかしてこの場を切り抜けなければならない。少なくとも負けるわけにはいかない。引き分けに持ち込むか、刺し違えてでも、生徒会が弱い集団ではないと印象付ける必要がある。勝達と今後こういったトラブルを起こさないためにはそれしかない。
それがこの状況を打破する理由としての一般論だ。だが、久炉の心中ではその辺りに対する意識が薄れていた。ただ、司と名月や不良集団の前で見得を切ったことの収拾をつけたかった。
名月を助けるだの、自分たちは強いだの、自身でも引いてしまうレベルだ。どうにかして自分の発言を現実のものにしなければ。
「あー、とりあえず足退けてくんね? ジャージはともかくYシャツの予備一枚しかないんだけど」
「知るかよ。お前が弱いからこうなったんだって理解できてるか? お前もあの虫女も、弱いくせにでかい口叩いて俺らに反抗するからそうなるんだよ」
「……いや、あの女二人が名月に喧嘩売ったのが始まりだろ。リーダー気取るならそういうの管理しろよ。真の強さってのは力じゃないぜ」
皮肉った瞬間腹部の圧力が強まり、吐き気が込み上げる。この状況を打破しない限り、内臓を踏み潰されそうだ。
「うるせえよ。優等生にはわからねえよ、俺達のことなんて。校則違反がどうたらって、お前らそんな教師の犬みたいなことしてて楽しいのかよ」
「優等生じゃねえって。俺だって好きでやってる訳じゃないっての。会長やってる理由は押し付けられたから。以上だ。……あー、まあ、お前らみたいに好き勝手して他人傷つけるような事するよりは優等生かもしれないけどな」
勝の額に青筋が浮かぶ。感情がわかりやすい奴だ。彼の言葉を論破するなり、煽るなりしていけばいずれは隙を見せるかもしれない。見栄と口先だけで生きてきた自信はある。逆転するならここからだ。
と思った矢先。急に胸倉を掴まれ、体を起こされた。服で首が絞まり、息が詰まる。掴んだ手から逃れるべく、彼の袖の中に指を突っ込み、腕に右手で爪を立てた。見かけよりも厚い筋肉のついた腕は微動だにしない。
勝は左手を軽く振った。つい、眼が寄せられる。勝は大きな手を握った。視界の端に彼の腕輪が焦げ茶色の光を灯したのが映る。それとほぼ同時に、拳に同色の光が纏われた。これが先程の光の正体か。
「拳の破壊力を上げる魔法、【鉄拳】だ」
「そのまんまじゃん、名前」
「言ってろ。さっきはお前がふらつきやがったから上手く当たらなかったが……この状況なら確実だから……な!」
意地の悪そうな笑みと共に振るわれた拳。宙を舞っている焦げ茶色の光は一直線に顔面に飛んでくる。急に時の流れが遅く感じられる。スローモーションという奴か。
いくら動きは遅く見えるとはいえ、それが自分に大きな損傷をもたらすことはわかっている。“やらなければやられる”その言葉が脳内で渦を巻き、権力を増大させていく。意地でも負けたくない。
自分の腕輪が光る。勝の腕から右手を離し、焦げ茶色の光に向けて突きだした。




