5 書記
四月八日、月曜日。初の登校日だ。午前中に体育館でオリエンテーションが開かれ、午後は委員会決めと授業そのものはないが、忙しい日程だ。気温はここ数日で一番低く、午前の説明を聞いている間は辛く感じる生徒が多いだろう。
午前八時過ぎ。寮から校門に向かう道には少し早めに登校する生徒でにぎわっていた。始業は八時三十分からだが、余裕をもって登校している生徒も多い。
この学園の制服は男女共にブレザーとなっている。上着が濃紺、ズボンとスカートはくすんだ水色と紺色のチェック柄となっている。
ネクタイも下と同じ色合いのストライプとなっていて、女子はネクタイとリボンで選択することができる。実際は男子も選択可能なのだが、リボンをつけるどころか所持している生徒はいないだろう。
「で、なんでビラ配りなの……」
校門前。花火は三十枚ほどのチラシを手にして呟いた。綺麗なイラストが描かれ、募集要項と活動内容がレイアウトされたものだ。
「あ、生徒会です。オナシャス! え? ああ、印象に残るかなって。……あ、生徒会ですよかったら入りませんか!」
久炉は通りすがりの生徒に手にしたチラシを配りながら言葉を返す。これが昨日に部屋で会話をしている時に、突発的に思いついて花火に協力を仰いだことだった。
チラシ自体は花火が作成したものだ。本当はチラシの作成の手伝いと配ることを手伝ってもらうつもりだった。しかし、二人で下書きの練習をしていた際に彼女が手先が器用であることを知り、昼食を二日分奢ることを条件に全て作成してもらったのである。適材適所という奴だ。ちなみに花火は単に器用なわけではなく、中学時代は副教科がオール五だったらしい。伝説かよ。
役員募集の件は午前の生活オリエンテーションで話すつもりだが、それだけでは印象が薄い。そこでチラシを配り、印象を強くすることにした。
「ふうん……意外と考えてるんだね、あ、生徒会です。よかったら……」
「意外とってなんだよ! 生徒会です! お願いしまーす!」
「てか、本当に興味持ってほしかったら服装正したら? 上着はともかくネクタイはちゃんとしめなよ」
呆れたような視線が刺さる。久炉は上着代わりにジャージを着用していた。それが遠目に目立つこともわかっている。だが、校則上は制服か指定ジャージさえ着用していれば着崩しても問題はない。
ブレザーはカッチリしすぎて肩が凝る。ネクタイに関してはしめると息が苦しい。
「そっちだってネクタイ緩めてんじゃん。変わらねえって!」
私生徒会じゃないんだけど。そう呟く花火の声を聞き流しつつ、通りかかった生徒に最後の一枚となったチラシを差し出す。
身長は百五十センチにも満たない小柄な女子生徒だった。セミロングくらいの長さの髪を二つ括りにしていてなぜか立っているアホ毛が風に揺れている。少し幼い顔立ちだが、制服は特に乱したところもなく、大人しそうな生徒だった。
「花火ーチラシ切れたから半分くれ」
彼女のチラシの半分ほどを受け取る。思ったより消費が早い。通りかかった生徒に片っ端から渡しているからだろう。これだけばら撒けば一人くらいは加入してくれるだろう。
そういえば、あの時の仮面の生徒は……あたりに視線を巡らせる。だが、それらしき黒髪は見当たらない。ついでに見つけることができればと思ったのだが。
ため息をついた時背、後からのんびりとした高めの声が聞こえた。
「うゆっ」




