青い空に鳥は思う
風があまりない昼下がりの時間。青く清々しい空が広がる、そんな今日。
白い雲がモコモコしててなんだか手に掴めれそうだなって思って、手を伸ばしたけどやっぱり届くわけなくて、その行動した後で急に恥ずかしくなって、誰にも見られてないかと必死になって周りを見るけど、誰もいないから安心して、そしてちょっぴり虚しくなるんです。
軍事訓練場なのに、誰もいないっていうこの状況……どうですか?
ぴゅー……風が吹く。
僕はアーロズ将軍率いる第三軍の直属の部下で、ハレル・ロードと申します。
アローズ将軍は普段は牢獄の中に居られるので、なかなか表に出られることはありません。
彼女が牢屋にいるのは先の戦いで聖女隊と自軍を全滅させた罪だそうです。
すべてを彼女に押し付け、利用するときだけ利用するなんて、ひどい話だと僕は思います。過去にそう将軍に告げたら鼻で笑いながら「そうさなぁ、でも別にいいんだよ」と言ってました。
僕にはその真意がわかりません。
ぶち、ぶち
草をむしる。
他の軍隊は遠征やら、トレーニングやらでいそしんでいるというのに、我がアーロズ軍の兵士たちは怠け遊んでばかりいます。
「おうハレル!今日も草むしりか」
「ウォレントさん!」
先輩兵士がハレルの肩を叩く。
その手には練習用の剣があった。
「無駄なことしてないで、お前も鍛錬したらどうだ?運がよかったら引き抜きされるかもしれないぜ」
「引き抜き?」
「あぁ、運がよかったらルジオ将軍とこ引き抜きされるかもって。でも他の奴は来てネーな」
「僕は、いいです」
「そっか?でも真面目に考えたほうがいいぜ?アローズ将軍のもとなんて、さっさと死んじまうって話だからな。ま、アーロズ将軍の父君のほうも同じだけどな」
「巨人族の戦力は恐ろしいもので、制御は難しいでしょうからね」
「俺たちからしたら、敵も味方もなくなるからもうめんどくさいの一言だけどな」
そういって素振りを始めた彼を見ることもできずに、ハレルは握りしめたままの草を地面に落とした。
「みなさん、兵士やめてしまうんでしょうか……」
「そうかもな」
「死にたくないから……」
「そうかもしれんな。それもまた一つの道だろう?なぜなら俺たちは死ぬために兵士になったんじゃない。俺たちは守るために兵士になったんだ」
素振りを止め、剣を横に置き隣に座った。
「そうだろ?」
「はい」
アーロズ将軍は死神だ。だからアーロズ将軍の軍に入ったらまず命はない。
そういう噂が流れ出したのはいつからだろう。
僕が入る前からそのうわさはあった、もちろん僕もそのうわさが怖くて兵士をやめようかと思ったけど、けど……違ったんだ。
「そうです。けど」
「あ?」
僕はまっすぐ先輩の目を見る。
「やめてしまったら、何も守れませんよ」
皆はアーロズ将軍を理由に自分の身を守りたいだけだ。
「誇りだって、守りたい人だって、国だって。守れません。僕は嫌です」
「ほう」
「アーロズ将軍はおおざっぱに見えて、ちゃんと守ってくれます。僕が新兵の時……情けないことに腰が抜けて動けなくなりました、その時助けてくれたのは将軍でした」
叱ることもせず、優しくしてくれることもなく、ただ助けるのが当然なのだというような態度で毅然と戦い、雄々しく叫びながら戦場を駆け巡る将軍は
「将軍は犯罪者なんかじゃありません、将軍は英雄です。今はただお休みされてるだけです」
「は、ははっはははあはは!!!」
ウォレントは大笑いを始めた。
「お休みか、ハハハ!!成る程な。確かにそうだな。なあハレル」
「はい?」
「守れよ!お前の大事なもん」
「はい!」
再び草むしりを始めたハレルに呆れながらも、笑顔をうかべた。きっとアーロズ将軍にはあいつみたいなやつが必要なんだろう。
「若い若い。ハハハ」
青い空に若い鳥が羽ばたいていった。