第四十五章
「やっぱり、あんなものに手を出すんじゃなかったな」
王様は悔しさに唇を噛んだ。
「パンドラの中身は魔剣かなんかだと思っていたのだが・・本当化け物だったとはな」
化け物は最強な盾の防護魔法で今は抑えられてあの研究所から出られなくなっているが、恐ろしく大きくなっていくヤツで、まるでタマゴから孵ろうとしている雛のようにうごめいていた。
「アースグランド滅ぼす前にウチが滅びかねんな」
ルーシアは不安げに王に抱きついた。
「で?元に戻す方法は?」
「扉と契約するとか」
化け物が居るのでどちらにせよできないし、意味も分からない。
「あっはっは!困ったな!笑うしかねぇやあっはっはっは」
皆で笑ってみたが、ヤッパリ笑えない。
「どうしよう」
「王様が分からないのでしたら此方も分かりかねますな」
もともとパンドラの扉分析反対派だったシーア家の大黒柱が皮肉を言う。さすがにぐうの音も出ない王様
「仕方ない、恥を忍んで」
「なぜ、私・・」
マリアンジェラは王家の紋のはいった手紙を見ながら呟いた。あの王様は私に何を期待しているのだろうか・・身分とは名ばかりのマリアンジェラに、一切の権力の兵も何もないのに・・。
「・・・・」
パンドラの化け物とは一体・・。
「お父様、お母様」
「あら、マリアンジェラどうかしたの?」
花を生けていた母と、煙草をふかしている父の前に自分の意思で立つのは久振りだ。
相変わらず私を見たりしない。
「王様にお会いしたいのですが」
「何を言っている、お前などが会えるようなお方ではない」
「そうよ、第一何の御用でお会いするつもりなの?」
マリは手紙を取り出した。
「ウェザーミステル国王からの手紙です」
「敵国の王だと!そんなもの捨てろ!お前は我家に泥を被せる気か!」
「泥なんて・・!」
そんなつもりは毛頭ない
「そもそも貴女そんな王族から何故手紙などくるの!?」
両親は立ち上がると手紙を奪おうと駆け寄ったがマリは離れた。
「こっちに寄越しなさい!」
「イヤ!私の話を聞いてさい」
「お前の話は後で聞く、それを寄越せ!」
「いや!」
「マリアンジェラ!いい子ですから言うことを聞きなさい!淑女は男性の言うことを聞くものですよ」
「イヤ!」
「聞き分けなさい!マリアンジェラ」
ぶちっ
「だあぁぁ――――っもうっいい加減にして!!!」
「なっ、親に向かってなんてことを!」
「はっ?親?親なら親らしいことなさってくださいよ!口を開けば『ミケーレ、ミケーレ』で、私のことなど顧みて下さった事あって?」
「貴女はミケーレを自分のほうを大事にしろというの!?おこがましい!」
「せめて私を娘として見てほしかったといっているのですよお母様!」
マリアンジェラは叫んだ。
「聞けば私の名前・・シーヴァーがつけたそうではないですか。産んですぐに私は見捨てられ、召使達になんていわれていたか知っていますか?『影姫』ですよ・・?」
「お前は自ら!姫らしいことを一つとしなかったではないか!笑わず怒らず、まるで人形のように!!」
「私を見てくださらない人に、どうして話しかけることができるんですか!」
驚くほど、激しく、酷く、悲しい・・。
「私はただ・・」
ただ純粋に
「愛してほしかっただけなのに・・」
ただ一度も、私を娘としてみなかった。アナタたちの目に映る私はただの影・・『影姫』でしかなかった。
いいえ、目にうつる事すらなかったわ
「会わせてくださらないというなら、結構」
マリアンジェラはきびすを返した。
「自分で会いに行きます」
「愚かな!会えるわけなかろう」
「会えます」
はっきりと言い放った。
「貴方達が知らないうちに私は、大人になったのです」
自分の道は、自分で作る。
「さようなら」
非力で何の力も持っていない私でも、歩くことはできる
扉を開けると、シーヴァーが頭を垂れていた。
「お供します」
手を引いて歩き出した。
・・二度と振り返ることはないと思う・・。
さようなら、アナスタジア家
私はもう、二度と戻らない。