プロローグ
俺の部屋には今、犬がいる。
朝は弱い。
放っておくといつまでも寝ている。
腹が減ると寄ってくるし、構って欲しい時は露骨にこちらを見る。
散歩は嫌がるくせに、一人で置いていかれるのはもっと嫌がる。
食事にも少しうるさい。
好きなものだけを食べたがるので、放っておくと栄養が偏る。
だから俺が時々、食べるものを選んでやる。
睡眠時間にも気をつける。
夜更かししていれば寝ろと言うし、休日だからと昼まで寝ていれば起こす。
体調が悪そうなら顔を見る。
いつもより元気がなければ理由を聞く。
面倒ではある。
正直、かなり面倒だ。
ただ、手がかかる生き物ほど妙に放っておけなくなる、というのは本当かもしれない。
「ワン」
声がした。
俺は冷蔵庫から牛乳を取り出しながら振り返る。
「…………」
「ワンワン」
床に座った野々宮翠先輩が、俺を見上げていた。
「クゥーン……」
明るい茶色の髪にふんわりした白いニット。
国立武蔵野科学大学獣医学科二年、二十歳。
どう見ても、人間である。
「翠先輩」
「なんだい?」
「朝飯ならさっき食べたでしょう」
「もう少しくらい出てこないものかと思ってね」
「鳴いても出ませんよ」
「クゥンクゥーン……」
お決まりの上目遣い。
これを使えば出てくるとでも思ったのだろうか。
「飼い犬には冷たいなあ、悠人は」
「誰が飼い犬ですか」
翠先輩は少し考えてから、もう一度こちらを見上げた。
「ワン」
「吠えても駄目です」
俺が飼っているのは、犬……いや、たぶん犬ではない。
そもそも、今のところ俺はこの人を飼った覚えがない。
ただ、犬より手がかかる人間が、今日も俺の部屋にいる。
初めまして。読んでくださりありがとうございます!
おひさまさんと申します!
隔週、水曜日、日曜日で更新していきます。
この小説を読んで面白いと少しでも思ったら、↓の★★★★★、ブックマークで応援してくれると嬉しいです!




