第24話:帝国内部の議論
怒声にも似た議論の声が、連日、円卓の間の壁に反響していた。ラディウスたちの提案は、帝国の宮廷に、これまでにない激しい議論を巻き起こしていた。マクシミリアン皇帝が「検討する」と持ち帰った後、円卓の間では連日、賛成派と反対派に分かれた激論が交わされていた。
「産業の共有こそが、我が帝国の未来を切り拓く道です」
比較的若い世代の文官たちを中心に、賛成派の声は着実に広がっていた。
「これまで我が帝国は、軍事力によって周辺国を圧してきました。ですが、その軍事力を支える国庫は、既に限界に近づいております。魔石機関という新たな産業の種を取り込めば、国力そのものを底上げできる好機です」
一方、将軍たちを中心とした軍部からは、強い反発の声が上がっていた。
「弱小国風情に頭を下げ、技術を『分けてもらう』など、帝国の誇りに関わる。これまで力で押さえつけてきた相手に、対等な顔をされるなど、断じて容認できん」
そうした議論の渦中で、最も複雑な立場に置かれていたのが、ゼルギウスだった。
「……エルダシアの申し出、貴殿はどう見る」
マクシミリアン皇帝に問われ、ゼルギウスはしばし言葉を選んだ。
「理屈の上では、道理の通った提案かと存じます。産業を分かち合うことで、戦を割に合わぬものにする――浅慮な策ではございません」
「では、賛成なのだな」
マクシミリアンが、探るように尋ねた。
「……いえ」
ゼルギウスは、静かに、しかし固く首を振った。
「もし我が帝国が、この枠組みに加われば、エルダシアが主導する経済圏に、我が帝国が組み込まれる形になります。表向きは対等な合議とはいえ、技術の根幹を握るのは、依然としてエルダシア。長い目で見れば、我が帝国は、あの国の影響下に置かれ続けることになるでしょう」
「そなたの懸念は、これまでも聞いた。だが、これに代わる案はあるのか」
マクシミリアンが、静かに問い返した。
ゼルギウスは、答えなかった。だがその胸中では、これまで積み上げてきた自らの存在意義そのものが、静かに揺らぎ始めていた。
その夜、ゼルギウスは、誰もいない自室で一人、静かに酒を呷っていた。
(暗殺、スパイ活動、代理戦争……全て、私が帝国のために築き上げてきた、力の在り方だった)
長年、彼は表舞台に出ることなく、帝国の影となって、数々の謀略を巡らせてきた。それが、彼にとっての誇りであり、存在意義だった。だが、もし帝国が、あの第八王子の提案する「対等な産業共有」という道を選べば――
(私の積み上げてきた全てが、時代遅れの遺物になる)
暗殺も、スパイ活動も、代理戦争も、必要とされなくなる未来。それは、ゼルギウスにとって、自らの存在そのものを否定されるに等しい恐怖だった。
「……このまま、黙って見ているわけにはいかん」
彼の中で、一つの決意が、静かに、しかし確実に固まりつつあった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回のエピソードに関する史実・技術おまけはありません。
感想やブックマークをいただけますと、とても励みになります。誤字脱字等ございましたら、お気軽にご報告いただけますと助かります。
次回もよろしくお願いいたします。




