第9話〜地獄の帰還と、新たなる 誤解
この物語は、「入れ替わりが戻った瞬間が一番の地獄」という理不尽な現実と、それに拍車をかける国王の壮大な勘違いを描いたコメディコメディです。
## 執筆のポイントと舞台裏
「元に戻る」という救いが「絶望」に変わる瞬間
一般的な入れ替わりものでは「元に戻ること」がハッピーエンドですが、本作では**「お互いが残した負の遺産(大胸筋の呪い vs 口内炎のコロセウム)」を100%の感度で引き受ける**という、最悪のタイミングでの復帰劇に仕立てました。
国王の圧倒的「話の通じなさ」
愛娘と娘婿を心配するあまり、すべての発言を「情熱的な夫婦の愛憎劇」に脳内変換してしまう国王の存在が、二人の肉体的苦痛をさらに精神的苦痛へと追い込む良いブースターになっています。
今後の展開予想(本当の地獄)
アレク: 筋肉痛で1ミリも動けないため、国王から「娘への愛に燃え尽きて力尽きた不憫な夫」扱いされ、謎の滋養強壮剤を飲まされまくる。
ヴィクトリア: 口内炎の激痛で喋るたびに悶絶するため、国王に「アレクへの愛と憎しみで言葉を失った哀れな妻」と解釈され、離婚届が物理的にシュレッダーにかけられる。
お互いの苦しみを身をもって知った二人が、ここからどうやってこの超弩級の勘違いを解き明かし(あるいは諦め)、本当の平穏を勝ち取るのか……二人の明日に幸あれ!
「おい、動くな……ッ! 大胸筋が、大胸筋が裂ける……!」
「ふ、ふえへ……(喋ると激痛が走るのです、お黙りなさいアレク……!)」
入れ替わりが解けた翌朝。王宮の寝室には、一ミリも動けないままベッドで並んで白目を剥く、元通りのアレクとヴィクトリアの姿があった。
昨日の「奇跡の共闘」の代償はあまりにも重い。アレクは文字通り指一本動かせないほどの超弩級の筋肉痛に襲われ、ヴィクトリアは口内に乱立した「口内炎のコロセウム」の激痛で涙を流していた。
そこへ、血相を変えた国王が、最高権威の医官たちをぞろぞろと引き連れて乱入してきた。
「アレク! ヴィクトリア! 持ちこたえるのだ! 今、国中の名医を集めた!」
「へ、陛下……ですから、これはただの、筋肉痛、と……」
「お黙りなさいアレク! 妻を庇ってそれほどの重傷を負いながら、まだ強がるか!」
国王は、アレクの全身の筋肉の強張りを「愛する妻の呪い(ストレス)を一身に受け止めた男の勲章」だと勘違いしていた。
「見てみろ、ヴィクトリアのあの涙を! 喋ることすらできぬほど、お前を傷つけたことに心を痛めているのだ!」
「(違いますお父様、これはただの口内炎です……!)」
ヴィクトリアが必死に首を振ろうとするが、その微小な振動すらアレクのベッドに伝わり、「ぎゃあああ!」とアレクが悲鳴を上げる。
「おお、なんというシンクロニシティ! 互いの痛みが魂で響き合っている!」
国王の目は感動の涙で潤んでいた。
「お前たちの深い愛は痛いほど分かった。お前たちがどれほど望もうとも、この父が絶対に離婚など認めん! むしろ、絆を深めるために、二人が完治するまでこの『開かずの間』で二人きりで療養させることにした!」
「「……は?」」
ガチャン、と不吉な音を立てて施錠される寝室の扉。
「待って、くださいお父様……! 療養するなら、せめて別のベッドに……!」
ヴィクトリアが激痛に耐えて声を絞り出すが、すでに扉の向こうに国王の姿はなかった。
静まり返る部屋。残されたのは、重力に逆らえない満身創痍の元最強騎士と、喋る権利を奪われた最強令嬢。
「……おい、ヴィクトリア。お前のせいで、離婚届どころか監禁されたぞ」
アレクが恨みがましい目を向ける。
「ふ、ふえへ、ふえは、ふえふ(誰のせいでこうなったと思っているのです、この筋肉泥棒)」
ヴィクトリアは口内炎を庇いながら、全力の睨みを利かせた。
こうして、元の肉体に戻った二人の、本当の地獄の共同生活が幕を開けるのだった。
【第一部:了】
本作を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました!
入れ替わりが解けた瞬間にハッピーエンド……とはいかず、身体を酷使したツケと国王の盛大な勘違いによって、二人は文字通り「一蓮托生」の緊禁生活へと突入してしまいました。
筋肉泥棒のアレクと、口内炎のコロセウムを抱えたヴィクトリア。最強のはずの二人が、1ミリも動けないまま同じベッドで睨み合うという、最高に情けない(?)地獄の共同生活からが、彼らの本当の新婚生活のスタートなのかもしれません。
ドタバタな二人の明日はどっちだ!?
これまでの二人の奮闘を温かく見守ってくださった読者の皆様に、心からの感謝を込めて。
著者より




