守ってあげたい
「だけど……本当に大丈夫だったの?」
アパートに帰って来た僕はコートを掛けていると、晩ご飯の準備をしている柿崎さんがおずおずと尋ねる。
「はは、もちろん。それより、今日の晩ご飯は何?」
「んふふー、今日は豆腐とわかめのお味噌汁に豚の生姜焼き! それに、ふろふき大根だよ!」
「おおー!」
合コンで何も食べてこなかっただけあって僕のお腹はペコペコなんだけど、まさに食べたかったおかずのラインナップで思わず小躍りしそうになる。
「あは、早く食べよ!」
「うん! それじゃ……」
「「いただきます!」」
僕達は手を合わせると、まずは豚の生姜焼きに手をつける。当然だよね。
それを、ごはんの上でワンバウンドさせて、と。
「はむ! ……もぐ……うん、最高に美味しい!」
「あは! やった!」
僕がそう言うと、柿崎さんは満面の笑みを浮かべながら小さくガッツポーズをした。
「うんうん、このままごはんをかき込むと……ああ、これこれ! これだよ!」
やっぱり僕は、お肉が大好きだなあ……それをごはんと一緒に食べれば、無敵だよね。
「お味噌汁も生姜焼きの油を洗い流してくれて……はあ、優しい味だなあ……」
「んふふー、ホラ、このふろふき大根だって美味しいんだから!」
柿崎さんはずい、と僕の前にふろふき大根のお皿を差し出す。
「どれどれ……うん! この上に乗っている肉味噌がすごく濃厚なのに、大根は柔らかてさっぱりしてて……!」
ダメだ……美味し過ぎて、僕の語彙力が……。
「あ、あは……やっぱり直江くんは、本当に美味しそうに食べてくれるよね……」
「当たり前だよ! 本当に美味しいんだから!」
「も、もう! ……その、ありがと」
僕が全力で褒めると、柿崎さんが照れながらポツリ、とお礼を言った。いや、感謝してもしきれないのは僕のほうなんだけど。
そして。
「「ご馳走様でした」」
はあ……あんまり美味しいから、あっという間に食べ終えちゃったよ……。
「そうだ! 今日はデザートもあるんだよ! ちょっと待っててね!」
そう言って手を合わせると、柿崎さんは冷蔵庫へと向かった。
「んふふー、どう?」
「おおお……!」
彼女の言うデザートというのは、手作りのプリンだった。
「こ、これ、自分で作ったの?」
「うん! ……といっても、プリンは簡単だからそんなに威張れないけどね」
そう言って、柿崎さんはぺろ、と舌を出した。
「何言ってるの! 料理が一切できない僕からしたら、プリンを作るなんて神の領域なんだけど!」
「も、もう! 大袈裟だよ!」
口元をゆるっゆるにしながら照れる彼女を眺めながら、僕はプリンを口に含む。
「っ! うわあ……これはコーヒーが欲しくなるね」
ということで、僕は二つのマグカップにインスタントコーヒーの粉を入れ、お湯を注ぐ。
「はい。柿崎さんはミルク多めだよね」
「うん、ありがと」
それから僕達は、コーヒーを飲みながら思う存分プリンを堪能した。
◇
「そういえば明日って、君は何か用事ある?」
「え? 私? ……よ、用事なんてないけど……ど、どうして?」
僕がそう尋ねると、柿崎さんが窺うように僕を見つめた。
「うん。食器類は柿崎さんが買ってきてくれたけど、それ以外にも必要なものが色々と出てきたから、色々と買い出しに行こうと思って」
「あ……」
すると、柿崎さんは何故かうつむいてしまった。
あー……ひょっとして。
「柿崎さん、僕と一緒に買い物してれば、逆にあの馬鹿な連中も柿崎さんだなんて気づかないよ。大丈夫だって」
僕は努めて柔らかい声でそう言って安心させようとした、んだけど……。
「で、でも、私が一緒のせいで君に迷惑をかけたくないし、それに……」
「それに?」
「……私は楽しんだりしちゃ、いけない、し……」
その一言を聞いた瞬間、僕の心に火が着いてしまった。
「だったら、絶対に柿崎さんには付き合ってもらうから。これは強制だからね」
「っ! で、でも!」
「でも、じゃない。僕に迷惑? 楽しんじゃいけない? 馬鹿馬鹿しい」
何か言おうとした彼女に、僕は吐き捨てるようにそう言った。
なんで彼女が迷惑なんだよ! なんで彼女に楽しむ権利がないんだよ……!
だったら!
「うん。明日は一緒に買い物を済ませたら、二人で一緒に全力で遊ぶから。覚悟しておいて」
そうとも。こうなったら、僕は絶対に柿崎さんに「楽しい」って言わせてみせる。
そして……柿崎さんは、楽しんでいいんだって、喜んでいいんだって、ちゃんと認識を改めさせてやるんだから。
そうやって僕は意気込んでいると。
「っ! ……もう……もう……っ! 直江くんはこの一週間、いつもそうだよ……いつもそうやって、私を泣かせるんだ……いつもそうやって、私を喜ばせるんだ……!」
「あ……」
結局今日も、僕は柿崎さんを泣かせてしまったみたいだ。
でも……いつか柿崎さんが、こんなことが当たり前のことだと思えるようになって、泣くんじゃなくて最高の笑顔を見せるようになってくれたらいいな……。
そんな日が来るまで、僕は……この優しくて、可愛らしくて、そして壊れてしまいそうな彼女を、守ってあげよう……いや、守ってあげたい。
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