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結局俺は不信のまんま  作者: ◾️
第一章 黒髪黒瞳の憂鬱
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第二十一話 身分昇格!

「あ、やっと来たのねライ。なんでこんな人気なのよ…。」



ライは以前ここに来た時と同じ服装、同じ態度のままである。しかし、違うところが一つだけある。それは彼の左腰に下げられている刀である。

ライは柄に手を置いている。しかし、彼の持ち方や手の仕草などどこか手馴れている。


騎士達はみんな剣を背中に担いでいるというのに、彼は腰に下げている。何年か前にロイテに持ち方について教えて貰ったとき、腰に剣を下げる持ち方は体の重さが左右で変わってしまうのであまり多用されていないとか、言ってたような。けれど、彼はさも当然と言わんばかりに突っ立ったまんまである。



「心配そうだねイリス。ライなら大丈夫だよ。彼は必ず答えを出すよ。」


「し、心配なんてしてないわよ!ただ、ライの剣の持ち方が珍しいなと思っただけよ!」


「あぁ、言われてみればそうだね。まぁ、気にしなくても大丈夫だよ!」


「ま、まぁそうだけどね。」



彼は今も観客の人達を冷たい目で見ながら腰の剣を触っている。彼はこの後自分の答えを出す。彼はどんな答えを出すのだろう。


もしかしたら、彼は私達の前から消えてしまうかもしれない。


もしかしたら、彼は私達の所に戻って来てくれるかもしれない。


どちらにせよその答えが彼の満足のいく願いなのだから、そこに私が首を突っ込む必要はない。私の仕事はここから見守るだけである。


けど、少しぐらいならこんな私でも願ってもいいだろうか・・・・・。







「相変わらず賑やかなもんだな…。こんな俺みたいな人間のためによ。人殺しだぜ?日本なら即刻死刑だろ。・・・・帰りたい…。」



俺はただ呆然としているだけ。ここで試し斬りしてやろうかと思ったが、自慢みたいなのでやめておく。


今さっきコンラートの爺さんに貰ったこの刀も随分と慣れて来た。まだ鞘から出してすらないので刀身を拝んでいない。銘はさっき聞いた『ネ・グローボ』これがこいつの名前だ。やっぱり異世界では村正だとか童子切とか漢字が使われた名前ではないらしい。ま、こっちの方が異世界感があっていいのだが…。



「お集まり頂いた皆様!お待たせしました!只今より優勝者への願い受けが始まります!!!」



いきなりキーンと高い音を鳴らしながら喋り出した恒例の司会者に俺はイラっとくるが、観客…というよりこの国の人達は慣れているらしい全く動じてない。



「さて!それでは今からは私と交代して交代してカルロス・カストリヤ王子に司会を務めていただきます。では、どうぞ!」


「あぁ。今からは僕が仕切るよ。」



あのイケメンにイケボのコラボレーションで、会場の女性陣はキャーキャーワーワー状態である。



「なんだアイツ?これは俺ら男達への挑戦か?」


「やぁライ。君は相変わらずの皮肉屋だね。それじゃあ早速聞いてもいいかな?」


「・・・・・・」



俺は一旦間を取る。その間にチラッとカルロスの横に座っているイリスを見やる。俺は声も出なかった。彼女に目をやると彼女は祈っていた。


俺はずっと不思議に思っていた。彼女達はなぜ俺を放っておかないのか、なぜ俺を家族の一員のように扱うのかと。たかが家の長女を救ってあげただけの男にそこまでする意味がわからなかった。どこかで俺を殺そうとしているのかと警戒したがあの一ヶ月弱の間そんな事は起きなかった。けれど、俺はイリスの前で二回も人を殺している。そんな殺人鬼になぜ普段と変わらないように接することができる。嫌がりもせず、嫌煙もしない。どこか裏があるのかと思っても裏などどこにもない。異世界だからと言って人間の性質が変わるわけではない。証拠に観客は血を見て喜んでいる。

ならば、彼女達には何が違うと言うのだろうか。愛だとか思いやりだとかそんな事ではないと思う。そんなモノ唯の上辺だけのものだ。俺は全て見て来たから言える。ならば、彼女達のあの優しさはどこから来ているのだろうか。


俺は唯その答えが知りたいが為に彼女達に着いて行くことにする。



「カルロス。俺の身分を『騎士』にする事はできるか?」


「・・・あぁ。もちろん可能だよ。」


「なら、一つ目の願いはそれにしてくれ。」


「わかった。君の身分を騎士にしよう!!」



会場がまた盛り上がる。ここまで騒がしいとブーイングなのか喜んでるのかわからない。カルロスはその空気をも無視して俺に聞いてくる。



「では、二つ目はどうするんだい?」


「・・・そうだな。俺が第四貴族のイリス・トルエノ家に仕えることを認めるってことで。」


「わかったっと言いたいところだが、こればっかしは僕が決めれる事ではないね。イリス、君が答えてくれ。」


「・・・・ライ。勿論いいわ!その代わり休みなく働いてもらうからね!」


「ゲッ!昼寝はありでお願いします。あと、残業、過労動は禁止でお願い〜〜!!」


「ハハハ!やっぱり二人ともそうでなくっちゃね。」



彼女は少し頰を赤らめながらオーケーしてくれた。間があったせいで、一瞬焦ったが今はホッとしている。が、周りの観客は少し不穏な空気が漂っている。それに気づいたイリスは少し顔を硬らせるが、カルロスがその空気を一変させる。


なんだよ…、イケメン+イケボだと喋っただけで空気変わるのかよ…。フザケンナヨ…。



「さて、それじゃあライ。三つ目の願いを教えてもらおうか。」


「そうだな…。少し仕事をするとしますか!俺の三つ目の願いは!・・・・この腐った大会を今回限りで終了させるって事で!!」


「「「「「「は?」」」」」」



うん。潔いぐらい揃ってるね。これだから、人の意識の外を突くのはやめられない。


そこからはブーイングの嵐だった。「何考えてんだ!」とか、「勝ち逃げかよ!」とかまぁ酷いことを言われたよ。



「悪いな!俺の趣味に勝ち逃げはないが、これは結果的になった事だ。気にすんな!こんな大会の何が面白いんだよ!!賭け事やるなら俺が競馬場とパチンコ作ってやるからそこで好きなだけ賭けやがれ!!」


「後半何言ってるか全然わからなかったけど、ありがとねライ。」


「はぁ、まさか最後の願いがそれとはほとほと呆れるよ。まぁ、これは後日検討するって事で今回はお開きとさせてもらうよ。お越し下さった皆様、ありがとうございました。気を付けてお帰り下さい。」



カルロスは最後の最後まで綺麗な言葉で締めくくった。俺はと言うと、観客席から食いさしやゴミなどを投げつけられる。睨もうとしたが、イリスにしばかれる。



「あー!やっと俺の奴隷生活も終わったー!早く帰りてー!」


「ライ…。約束は覚えてるよね?」


「ん?あぁ、覚えてるぜ一応!ま、何とかしてやるよ!その内な!」


「心配だ…。」


「約束って何なのよ?私も混ぜなさいよ!」


「え?嫌だよ…。お前混ぜちまったら約束の意味が「うわーーーーーー!」」


「どうしたのよカルロス!?いきなり大きな声出して?」


「ごめん。ちょっと君の騎士を借りるね。」


「あぁ別に返してくれるならいいわよ。」


「人をもの扱いするなーー!!俺はレンタルCDじゃねぇんだぞ!!」


「うるさい!早くこっちにこい!!」


ライはカルロスに耳を引っ張られながら自分の部屋へと投げ入れられる。彼らが何を企んでいるかは知らないが、無意識に笑みが零れた。








「ありがとね。ライ。」








私の言葉はひっそりと消えて行った。









ーーーーー第一章 「黒髪黒眼の憂鬱」

〜奴隷編〜 fin.





これにて第一章終了です!

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