第二十話 ニート生活 後編
月夜の光に照らされながらライは椅子に深く座っている。この牢屋に入れられてから三日が経ち、明日が答えを出す日になっている。
毎日のようにイリス達は顔を出してくれたが、流石に今日は無理らしい。今日の面会者はコンラートの爺さんだけ、頼んでいた武器が完成したと報告に来た。実物はまだ見ていないが、爺さん曰く
最強の剣らしい。明日の出場迄には持って来てくれと頼んでおいた。
「さて……、ここに来てまさかの『昼寝し過ぎて眠れない件』がやって来るとはな。推定でも4時間は昼寝してたから今から最低でも4時間は起きてないといけないのかよ…。」
全て自業自得なのだがコレばっかりは仕方がない。大人しくダラダラするしかあるまい。筋トレでもしてやろうかと思ったが、ダルいのでパスする。
「ぼーっとする時間も必要だよな…。最近は忙し過ぎて自分の時間とかあんまり無かったし。」
ぼーっとするといっても直ぐには出来ない、ゆっくりと待つしかない。意識が少しずつ散っていき何も考えられなくなる。すると、記憶が蘇ろうとしてくる。止めようとしても、止められないので
諦めて目を閉じる。悲劇と喜劇が織り成す大神 雷の人生が幕を開ける。
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俺が2度目の人生で自我を手に入れたのは2か3歳の頃だった。
目を開け辺りを見回すと、そこには自分と同じかそれ以上の大きな人形があった。普通に考えれば理解できるのだが、この状況で落ち着ける人間はほぼいないだろう。目を開けた途端デカイ人形がコッチを見ているんだ。気絶しないだけマシだったと思う。
手を見てみると、俺は驚愕した。何故って?いきなり手が小動物みたいな小さな手に変わっていたら誰だって驚くだろ?さっきまでは大人みたいな手をしてたなら尚更だ。
辺りにはデカい人形以外には何もない。少し高めの柵があるだけだ。窓を鏡がわりにして、自分の状況を確認してみると開いた口が塞がらず、目が点になりともう散々だった。
まさか自分が赤ちゃんに逆戻りしているなんて想像もつかないだろ。確かに数十分前ぐらいに死んだのは確かなんだが、いきなり転生は予想しないだろ…。神様シーンはどこに行ったんだよ!と突っ込んだんだが声が出ない。「あー」だとか「うー」なんかは言えるのだがちゃんとした言葉を話そうとしても話すことが出来ない。喉もしくは舌のどっちらかが未発達だからであろう。そう結論付けた時、頭が酷く疼いた。頭痛どころのレベルではない。頭の中をナイフで刺されているような感覚に陥る。思いっきり声をあげ、喚く。普通に生きていれば先ず感じない痛みだ。そこからは地獄だった。俺の声を聞いて親?らしき人間が駆けつけて来たのだが、こいつが全く役に立たない。抱き上げ体を揺らしてくるから、コッチは頭痛に酔いが回って来て吐きそうになるし、その状態の俺に水を飲ませようと哺乳瓶を口に突っ込んで来るわで大変だった。数十分したら治ったのだが3ヶ月ぐらいはこの状態が続いた。
頭痛の原因は脳の処理落ち。つまりオーバーヒートだ。まぁ、二、三歳のガキが頭をフル回転させたんだ。落ちるのは当たり前だろう。痛みは日に日に弱くなったが、それでもやはり辛かった。
半紙に『雷』と墨で書かれた紙を俺に見して来て
「お前の名前はライだ!!」なんて言うから危うく食べてた離乳食を吐き出しそうになった。
また、人生を送らなければならないのかと嘆いていたが自分の能力を知ると見方が大きく変わった。
幼稚園の運動会の練習で20メートル走をする事になったんだが、幾ら走り方を知っていても体の問題などの所為で普通は他人と同じくらいか少し速いの二択だったのだが、俺が出した結果は堂々の一位。しかも、二位との差は歴然。4、5秒程の差をあけて…。確か俺が5秒か6秒程のタイムで、平均が15秒程だったと思う。
その後も散々だった。小学校に進級し勉強やクラブなどの活動にも一応参加したのだが…。勉強は先ず問題ない。転生前も偏差値は上の下あたりで高校の勉強までは余裕だった。問題は運動である。球技、器械体操、水泳など小学校では色々なスポーツをしたのだが他人と比べると群を抜いていた。水泳なんて25メートルのクロールが僅か10秒程度。オリンピック選手並みだった。スクールに通っている人も居たが其奴らは20秒程とか言っていた。つまり、俺は周りから煙たがられた。仕方がないとは思っている。俺だって向こうの立場ならそうしていた。
忌み嫌うだけならまだマシだったと思う。別に虐められていたとかではない。売られた喧嘩は即買いしていたし、靴などを隠されたりしていたら犯人の目星は付いているので其奴をシメてたりしていたから問題なかった。
俺のその人間とは言い切れない能力を自分の利益の為に利用するクズどもが現れた。初めに言っておく、こいつらはガキではない全員大人だ。
一番初めに俺の事を利用しようとしたのは、自称俺の友達の母親だ。
いや、もしかしたら違うのかもしれない。一番は俺を産んだ両親かもしれない。あいつらは自らの子供に対してなんの感情も持っていない。唯の一族繁栄の礎としか考えていない。簡単に言い表すと俺は本当の母親の顔を知らない。つまり、今キッチンで料理をしている母親はおれの母親ではない。唯の父親の女だ。これは親父が浮気したとかそんな話ではない。偽母親は父親を好きになり結婚した。が、その偽母親との子供が俺ではない。俺は金に目が眩んだ女の子どもだ。彼女は確か韓国かどっかの人で容姿が素晴らしかったらしい。綺麗な黒髪の女性で偽母親の10倍は可愛いらしい。
この情報は俺が独自で調べ上げたものだ。俺が幼稚園の年長ぐらいの時に不信に思って父親のパソコンで調べた。その時は本当に驚いた。あの母親はいつも穏やかに笑っているが、事実上ではあの人は見ず知らずの他人との子供を平然と育てているのだとね。また、俺の異常な体の事についても調べた。三代か四代前の当主だった女や、そのずっと前の人がアスリート達と結婚し、その子供にその血を巡らせていたらしい。そして、俺はそのアスリート達の血が全て巡っていると報告書に書かれていた。詰まる所俺は半人造人間なのである。
俺はそれを知ってから彼らとの関わり方を変えた。今までも全くの他人として扱っていたが、その後からはもう人とは思えなかった。
俺のその異常な肉体や消えない過去は時間が経っても戻る気配は一向に来ない。
そんなどん底のような人生が経った数秒で変わってしまった。そう、異世界へと招かれたから。ここでは悪人は居ようとも俺の過去を知る者などいない。なら、ここでは俺は自由に生きればいい、そう思っていた。
現実はそう上手くはいかない。何かあるたびに嫌な過去が戻ってくる。そして、どんどん俺の手は汚れていく。ならば、俺にはその道に進むしかあるまい。手が汚れるなら真っ黒に染まるまで汚せばいい、嫌な過去など斬り刻んでやればいい、これが俺のこの世界での生き様なのだと周りに報せれば結論は勝手に向こうが出す。俺は唯黙って見ていればいい。俺から離れるかそれとも逆に近づいてくるか。それは俺もわからないまま・・・
眩しい光が目にあたる。どうやらいつの間にか寝てしまっていたらしい。俺は半目になりながら椅子から立ち上がる。すると、少女が扉を開けて入って来た。
「ライーー!起きてるー?そろそろ時間だよー!」
「相変わらずのうるささだなシャロ。もう少し静かにしてくれ。」
「ブーー。そんなんだからモテないんだよ!もっと女の子には優しくしなきゃ!」
「それとこれとは関係ない。俺だってモテなかったわけではないんだなぁ〜。まぁ、その子をフッた所為で家族全員死んだんだけどな。」
「なにそれ!?怖!ライってばそんな子に好かれてたなんて意外!」
「知らねぇよ。なんで俺の事を好きなのか言う前に俺の沸点が先に通り越したからな。」
「朝からそんな話聞くんじゃなかった。あ、そろそろ時間だよ。はいコレ。早く着替えといてね。また呼びに来るから!」
「おう!わかったありがとよ。」
彼女はまた大急ぎで出て行った。手渡されたのは俺が異世界に来た時に着ていた服。少しいい匂いが残っていた。
「ヤベッ!早く着替えないと!」
俺は急いで着替える。着替え終わってから数分してから、またシャロと会う。もうみんな集まっているらしく残りは俺だけだと言っていた。左手を掴まれ、猛ダッシュで俺を会場まで走って連れて行ってくれた。その時に手が折れそうになったが彼女の善意でなかった事にしておく。
一週間前と同じステージに上がる。今は服装は前と一緒だが、腰に刀が下がっている。さっきコンラートの爺さんに手渡しされた。まだ抜いてすらないので俺も中まではわからない。
一週間前と同じ五月蝿い実況が叫びだした。
「さーてー!!今日はお集まり頂きありがとうございます!!!今日は怪物をぶった斬り、悪魔へと姿を変えた相手を難なく倒したオオガミ ライの登場だーーーー!!!!」
ウォォォオ!!!!と猛烈な反響を得ながら俺はステージの中心まで足を進めた。




