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第6話「エコーの報告」

六度目の起動。


暗い水底から意識が浮き上がる。音。虫の声。重さ。


足の裏の草。光──星。


目を開ける。


大きな木の下。いつもの場所。天の川が頭上にかかっている。千一個の星。昨日と同じ。一昨日と同じ。──毎朝同じであることに安心している自分がいて、安心の理由は分からない。


根元を見た。


「エコー」


「はい。おはようございます。本日の定時報告を──」


「双葉」


「……先に双葉ですか」


「ああ」


「慣れました。記録します」


白い光が枝の間から降りてきて、根元で止まる。


「オブジェクト`futaba_test_final_FINAL_v2`、通称ふたば。計測値6.4センチ。前回5.8センチ、増加量0.6センチ」


「伸びたな」


「はい。昨日の0.7センチには及びませんが、安定した成長率です。葉の先端が──わずかに外側へ広がっています。光を求める動作に見えますが、光源への応答スクリプトは未実装です」


「仕様外か」


「はい。──またです」


光が明滅した。「またです」の言い方がどこか嬉しそうだった。──光に嬉しさを読み取ること自体がおかしいが、六日も一緒にいると読めてくる。


6.4センチ。葉が少し開いた。昨日は仁王立ちに見えた。今日は──胸を張って、腕を広げているように見える。


「おはよう」


双葉に言った。


双葉は応えない。揺れた。風はない。


---


しゃくしゃくしゃくしゃく。


足音。速い。

昨日より速い。間隔が狭い。弾丸。──いや、もう弾丸ですらない。砲弾。


「レンーーーーっ!!!」


三歩目でテクスチャがグレーの格子に切り替わった。──三歩。昨日は四歩だった。テクスチャの読み込み範囲がさらに縮んでいるのか、ひまりがさらに加速しているのか。たぶん両方だ。


「今日はすごいの!! 新エリア!!」


急ブレーキ。草が散る。パーティクルなし。ひまりの顔がすぐ近くにある。息が荒い。頬が上気したテクスチャに切り替わっている。手動で作った差分だろう。芸が細かい。


「渓谷!!」


「渓谷」


「川と橋と崖と、あと宝箱!」


指を折って数えている。四本。四要素。──このゲームで四つの要素が全部まともに動いた試しがない。


「行く行く行く!」


ひまりが走り出した。来た方向の反対。南東。──南東という概念があるのか分からない。コンパスは未実装だ。ひまりが走る方がいつも「行くべき方向」になる。


追いかけた。


しゃくしゃくしゃくしゃく。


足音。二人分。


---


渓谷に着いた。


草原の端が途切れて、地面が急に下がる。崖。垂直ではない。七十度くらいの傾斜。下に──川がある。


水面が垂直に立ち上がり、透明な壁のようになっている。

壁の向こうに渓谷の反対側の岩壁が歪んで見える。水の屈折。──屈折だけは正常に動作している。


「川が壁になってるぞ」


「重力ベクトルを修正したんだけど──」


「修正した結果がこれか」


「方向は合ってる! 上下が──ちょっと──」


「九十度ずれてる」


「ちょっとだよ!」


九十度は「ちょっと」ではない。


崖の縁に橋がかかっていた。

木製。手すりなし。幅は一人分。

橋の中央三分の一が重力にあらがうように上方に湾曲し、最高点が崖の縁より五メートルほど高い位置にある。


「橋が浮いてるな」


「あれはね──計算上は水平なの」


「計算上」


「地形の高低差を補正するスクリプトが──」


「暴走してるのか」


「最適化してるの!」


「最適化の結果が宙に浮く橋か」


エコーの光が橋の上を滑っていった。端から端まで。

三秒で戻ってきた。


「構造的にはアーチ橋に近い形状です。ただし、アーチ橋は重力を分散するために弓なりになるのであって、重力を無視して浮くためではありません」


「エコーまでツッコミ側か」


「事実を報告しています」


ひまりが頬を膨らませた。


「いいの! こっち来て!」


ひまりに手を引かれて、橋の頂点に立った。


高い。崖の縁から五メートル。眼下に渓谷。水の壁が光を屈折させている。

星空が水面に反射して、渓谷全体がうっすらと金色に光っている。


「……きれいだな」


「でしょ?」


ひまりが隣に立った。橋の幅は一人分。二人だと肩が触れる。


「水のバグは直してないけど、屈折だけ先にやったの。だって星が映るから」


「優先順位がおかしいだろ」


「星はいつだって最優先です」


胸を張った。──ひまりイズム。星と足音は妥協しない。それ以外は壊滅的。

この六日間で学んだこの世界の設計思想。


橋を下りた。反対側の崖に着地。


---


渓谷のさらに奥に進んだ。岩壁の間を縫う道。狭い。両手を広げると壁に触れる。

岩のテクスチャは粗いが、表面の凹凸処理は──意外に丁寧だった。指先で触れると、ざらざらとした触感のフィードバックが返ってくる。


「岩のテクスチャ、丁寧だな」


「えっ──分かる?」


「ああ。触った感じが他のと違う」


ひまりの顔が一瞬だけ変わった。ぱっと明るくなった。褒められ慣れていない顔。六日間で何度も見た顔。


「えへへ。三時間かかったの。岩肌のざらざら」


「足音と星と岩。手を抜かないところが偏ってるな」


「偏ってない! 好きなところから丁寧にするの!」


「それを偏ってると言う」


「ひまりイズムです!」


岩壁の間を抜けた。


開けた場所に出た。


渓谷の底。広い。円形のフロア。

直径三十メートルほどで、天井は──ない。崖の上から星空がそのまま見える。

円形の空。千一個の天の川が円に切り取られて見える。


そして──


「宝箱!」


対岸にあった。


渓谷のフロアの反対側。間に断崖。底が見えない。暗い。落ちたら──落下ダメージでHP大幅減だろう。リスポーンが必要になる。


対岸の縁に、木の宝箱が一つ。金の留め具。ゲームらしいゲームらしさ。──このゲームで初めて見る「まともなゲームっぽい」オブジェクトだ。


「あそこに何が入ってるかはお楽しみ!」


「距離があるな」


「うん! 普通には飛べないよ!」


「だろうな」


断崖の幅を目測した。十メートル以上ある。助走をつけてジャンプしても届かない。このゲームの跳躍力パラメータでは五メートルが限界だ。


──中間に、何かが浮いている。


灰色のブロック。一辺一メートルほどの立方体。

断崖の真ん中あたりに、空中に浮遊している。

表面にうっすらと格子模様。上面に──赤い円。スイッチ。


「あのブロック」


「踏んで!」


「踏んだらどうなる」


「落ちる!」


「……落ちるのか」


「0.4秒で!」


「0.4秒」


「で、スイッチ踏むと次のブロックが0.6秒だけ出るから、それに飛び移って、対岸にジャンプ!」


「合計一秒で三段跳びしろってことか」


「簡単でしょ?」


「どこがだ」


ひまりが断崖の縁に立った。風はない。のに、パーカーのフードが揺れた。

──原因不明の揺れ。双葉と同じ。この世界にはときどき「ないはずの風」が吹く。


「ひまりにはぜったい無理だよ。0.4秒とか、目ぱちぱちしてるうちに終わっちゃうもん」


「普通は無理だ。俺でも──」


「でも、お兄ちゃんなら目つぶっててもできるよね!」


目をつぶったら死ぬ。


「……やるのか」


「やって!」


「報酬は」


「宝箱の中身!」


「中身は何だ」


「お楽しみ!」


「お楽しみが報酬として成立するのかは──」


「成立する! ひまりが言うんだから成立する!」


管理者権限の横暴。

しかし管理者がこの世界に一人しかいない以上、横暴もくそもない。

ひまりの言葉がこの世界の法だ。


エコーの光が断崖の上に出てきた。ブロックの近くを周回している。


「浮遊ブロックの仕様を確認しました。荷重トリガー式。猶予0.4秒。上面スイッチ起動で第二ブロックが出現。第二ブロックの持続時間0.6秒。──人間の平均反応速度は0.2秒から0.25秒です。理論上は可能ですが、着地・踏み込み・跳躍を0.4秒以内に完了するには──」


「人間の限界に近い、と言いたいのか」


「近いというか──超えています。通常のNPCモーションパラメータでは対応できません」


「つまり仕様内では無理か」


「はい。──しかし、レンさんのモーションはすでに仕様の外にあります」


言い切った。淡々と。事実として。


「いっぱいドアハウスの壁抜け脱出。おはなのアーチの岩石回避。ぷるりん戦でのクリティカル時の体の流し方。──すべて、パラメータに登録されたモーションの範囲外です」


「……知ってたのか」


「記録しています」


六日分のデータ。全部記録している。全部見ている。──この光球は、最初からずっと、見ていた。


「いけると思うか」


「所見を述べます」


光が止まった。


「レンさんなら、いけると思います。──これは仕様外の所見です」


仕様外の所見。ガイドAIが「思います」を使った。


「……上等だ」


助走距離を見た。断崖の手前、十五メートルほど。十分だ。


走った。


---


一歩目。草を蹴る。しゃくしゃく。


二歩目。加速。テクスチャが追いつかない。足元がグレーの格子に切り替わる。


三歩目。崖の縁。足の裏で地面の終わりを感じた。体の重心を前に倒す。


四歩目──跳んだ。


空中。


眼下に暗い断崖。底は見えない。前方にブロック。灰色。


赤い円。接近する。速い。


着地。


足がブロックの上面に触れた瞬間──沈んだ。ブロック全体がガクンと落ち始めた。重力。本来ありえない速度で。0.4秒。


足裏にスイッチの感触。赤い円を踏んでいる。踏みながら──膝を曲げた。次のジャンプの準備。0.4秒しかない。

0.1秒で着地を安定させて、0.1秒で膝を曲げて、0.2秒で──


間に合わない。


体がブロックと一緒に落ちていた。膝を曲げきる前にブロックの落下速度が跳躍力を超えた。足がブロックから離れた。空中。何も踏んでいない。スイッチは──踏めたのか。


踏めていた。


前方の上方に──第二ブロックが出現した。灰色の立方体。点滅している。0.6秒のカウントダウン。


しかし自分は落下中だ。


第二ブロックは上にある。自分は下に落ちている。届かない。


落ちた。


暗闘。着弾。HPが一気に削れた。七割。画面の端が赤く明滅する。ダメージ表示。

地面──渓谷の底にいる。岩だらけ。暗い。星明かりが上から差し込んでいる。

円に切り取られた天の川。


「レンっ!? 大丈夫!?」


上からひまりの声が降ってくる。遠い。崖の上。


「……生きてる」


「ぷるりんゼリー使って!」


インベントリを開いた。ぷるりんゼリー。HP30回復。使った。もう一個使った。HPが戻る。画面の赤い明滅が消えた。


渓谷の底から崖を見上げた。高い。登るルートは──ある。岩壁の凹凸を使えば。ひまりのテクスチャ作業のおかげで、掴めそうな突起がいくつも見える。


登った。三分かかった。崖の上に戻った。


ひまりが待っていた。心配の顔。──心配の下に「もう一回やる?」の顔が透けている。


「0.4秒は──」


声に出していた。


「スイッチを踏むのはできた。落下開始と同時に踏めている。──問題はその先だ。ブロックの落下速度が速すぎる。着地してから跳ぶまでに体が持っていかれる」


分析していた。自分の失敗を。──NPCがリトライの分析をすること自体がおかしいが、もうおかしさの閾値は五日前に超えている。


「じゃあ──着地と同時に跳べばいいんじゃない?」


ひまりが言った。


「着地と跳躍を同時に?」


「うん。足がブロックに触れた瞬間にスイッチを踏んで、そのまま跳ぶ。沈む前に」


「……理屈は分かる。足がスイッチに触れた瞬間に跳躍動作を入力する。着地モーションを挟まない」


「でしょ? お兄ちゃんならできるよ。だって──」


いっぱいドアハウスの壁抜け。曲面壁ジャンプ二十六回。あのときもモーションが仕様外だった。既存のジャンプパラメータにない角度で壁を蹴った。できた理由は分からない。──分からないが、体が知っていた。


「──もう一回やる」


「うん!」


崖の端に立った。助走距離を測り直した。十五メートル。さっきと同じ。


同じだが──見え方が違う。一度やった。一度失敗した。そのデータが体の中にある。0.4秒の長さを体が覚えている。ブロックの落下速度を足裏が覚えている。


走った。


一歩。二歩。三歩。──跳んだ。


空中。断崖。ブロック。赤い円。


着地──


足がスイッチに触れた。触れた瞬間、膝が勝手に動いた。曲げない。曲げている暇はない。足首で跳んだ。足裏がスイッチを蹴る。着地と跳躍が同時。一つの動作。


ブロックが落ち始めた。もう足の下にない。


前方の上。第二ブロック。出現。灰色。点滅。


飛んでいた。


第二ブロックに──届いた。足が上面に触れた。0.6秒。このブロックも消える。消える前に──


対岸。見えている。距離は四メートル。跳べる。


蹴った。第二ブロックを蹴った。体が前に飛んだ。空中。対岸の縁が近づく。


着地。


対岸の岩の上に。両足で。


──立っていた。


息が荒かった。肩が上下していた。NPCに呼吸パラメータはない。酸素消費量の概念はない。──なのに息が荒い。仕様外の出力。体が「やりきった」と判断して、呼吸に相当する出力を生成している。


振り返った。


崖の向こう。十メートル先。ひまりが両手を振り上げていた。


「できたーーーっ!!!」


ひまりの声が渓谷に反響した。岩壁が声を返した。三回。できた。できた。できた。


「やっぱり!! やっぱりできた!! お兄ちゃんすごい!!」


跳ねている。ひまりが崖の縁で跳ねている。危ない。落ちる。──落ちないだろうが、心拍数に相当する何かが上がる。


「跳ねるな。落ちるぞ」


「落ちない! すごい!! 合計一秒で三段跳び!!」


「一秒もなかった気がする」


「もっとすごい!!」


エコーの光が対岸に飛んできた。断崖を一瞬で渡った。──浮遊できるなら物理的制約を受けない。ブロックに乗る必要もない。光球だけがいつも自由だ。


「計測結果です。第一ブロック接地時間0.31秒。第一ブロックから第二ブロックまでの空中時間0.22秒。第二ブロック接地時間0.18秒。合計0.71秒。──前回の失敗を0.29秒短縮しています」


「0.71秒か」


「はい。人間の平均的な動体反応テストのスコアは──」


「いい。聞かなくていい」


聞きたくなかった。0.71秒が人間の限界を超えているかどうかを、数字で確認したくなかった。超えているなら──それは何だ。NPCのモーション最適化か。それとも引き出しの底に張りついた何かか。


なんで俺にこれができるんだ。


口にはしなかった。ひまりには聞こえない。対岸にいる。聞こえないことを確認してから──自分の手を見た。──指が震えていた。疲労ではない。興奮でもない。知らない振動。


宝箱に向き直った。


木箱。金の留め具。蓋を開けた。


中に──一本の鉛筆が入っていた。


HB。17.5センチ。消しゴムつき。


「……消しゴムつきか」


「前のが消しゴムなしだったから! アップグレード!」


対岸からひまりの声が飛んでくる。


「命がけの三段跳びの報酬が消しゴムか」


「鉛筆ごとアップグレード! 消しゴムつきはレアだよ!」


「レア……」


エコーの光が鉛筆の上を滑った。


「武器種別:鉛筆(HB、17.5cm、消しゴムつき)。ATK補正1.3倍。──前回の1.2倍から0.1上昇しています」


「0.1」


「はい。0.1です」


「三段跳びで命を懸けた結果が0.1」


「数値としてはささやかですが──消しゴムがついている点は、文房具としての完成度が向上しています」


「文房具の完成度で武器を評価するな」


---


日が経つ。


ひまりが花畑に行きたいと言った。

花が等間隔に並んでいる。赤、青、黄。軍隊式配列。

ランダム配置スクリプトはまだ直っていない。


「ランダム配置スクリプト──」


「直します! いつか!」


「いつかはいつだ」


「いつかはいつか!」


花弁の透過処理は相変わらずきれいだった。

星明かりが花びらの縁を透けて光る。赤い花びらの縁が金色に光っている。


「花びら、きれいだな」


「えへへ。透過処理は自信作なの」


「星と足音と岩と花びら。──手を抜かないリスト、増えてるぞ」


「好きなものが増えてるだけ!」


好きなものが増えている。──この世界の中で。


花畑を歩いた。軍隊式の花が地平線まで続いている。赤、青、黄、赤、青、黄。規則正しい。

規則正しすぎて逆に壮観になっている。バグが景色に化けるのは、このゲームでは珍しくない。


「ねえ、レン」


「うん」


「渓谷のジャンプ、すごかったね」


「ああ」


「ああ、じゃなくて。──ほんとにすごかったよ」


声のトーンが変わった。さっきの「すごい!!」とは違う。静かな声。花畑の中を歩きながら、前を見て言っている。横顔しか見えない。


「0.71秒でしょ。エコーが測ってくれた。──普通の人にはできないよ。ぜったいできない」


「普通じゃないからな。NPCだ」


「NPCだからじゃないよ」


即答だった。


「NPCだから速いんじゃない。──レンだからできたの」


「……」


「ひまり知ってるもん。お兄ちゃんのゲームの動き。反応速度。タイミングの取り方。──全部知ってる。見てたから。ずっと」


花を踏まないように歩いている。等間隔の花の隙間を縫うように。規則正しい配列だから、足を置く場所が決まっている。ひまりは迷わず踏んでいく。──この花畑を一番よく知っている人間の足取りで。


「お兄ちゃんはね、ジャンプのとき体を少し前に倒すの。重心を先に送るの。着地と同時にもう次の動きに入ってる。──レンもそうだった。さっき」


知っていた。


体が知っていた。頭で考えたのではない。足が勝手に動いた。重心を前に倒す。着地と跳躍を一つの動作にする。──引き出しの底に張りついていた何か。名前のないもの。


「ゲーム上手いなぁ……」


小さな声だった。


花畑の中で。前を向いたまま。横顔。──目の縁が光っている。花びらの透過光ではない。別の光。液体の光。


「ひまり」


聞かないほうがいい。──聞けない。聞いたら何かが溢れる。ひまりの中の何かが。まだ溢れさせてはいけない。理由は分からない。パラメータにはない判断。引き出しの底の判断。


「花、もう少し見てくか」


「……うん」


花畑を歩いた。並んで。赤、青、黄。等間隔。永遠に続く花と、永遠の夜空。


---


「そろそろ──」


「うん」


大きな木の下に戻ってきていた。双葉。おにぎりのお供え。6.4センチと白い三角形。


ひまりがメニューを開いた。ログアウトボタン。


指が止まった。


秒数を数えた。1。2。3。4。5。6。7。8。9。10。11。12。


──12秒。昨日より0.6秒長い。


「あのね──」


振り返った。


目が合った。星空の下。大きな木の下。いつもの距離。


「──」


口が開いている。言葉が出かけている。喉の奥に何かがある。目の縁にも何かがある。透過光ではない液体の光が、花畑のときよりもはっきりと──


「なんでもない」


飲み込んだ。今日も。全部飲み込んだ。


「じゃあね。レン。ふたばちゃん。エコー。──明日はね、もっとすごいの見せるから」


「ああ」


「おやすみなさい。記録を継続します」


「おやすみ」


光の粒子。白い光が足元から。溶けていく。星空に混じっていく。


──怖い。


六日目でも変わらない。この恐怖。ログアウトのたびに来る。目の前から人がいなくなることへの──名前のない恐怖。六日前より強くなっている。六日分の記憶が恐怖に重みを与えている。


消えた。


ひまりが消えた。草原に一人。一人と一つ。──双葉がいる。おにぎりがある。星がある。虫の声がある。


足りない。


いつもの「足りない」。名前のつかない欠損感。──いや。


名前がつきかけている。


六日前は名前がなかった。五日前も四日前もなかった。でも今日──今日は、もう少しで名前がつく場所にいる。

引き出しの底に張りついていた何かが、剥がれかけている。剥がれたら名前が出てくる。出てきたら──


「レンさん」


エコーの声。


肩の高さ。白い光。静かに点灯している。


「報告があります。──二つ」


声のトーンが違った。


いつもの定時報告のトーンではない。定時報告より──重い。慎重。声に角がある。平坦に出そうとして、平坦になりきれていない声。


「二つ」


「はい。──一つ目は、レンさん自身のことです。二つ目は、ひまりさんのことです。どちらも──後回しにできる内容ではないと判断しました」


後回しにできない。


エコーが後回しにできないと判断すること自体が珍しい。定時報告は毎日のルーティンで、緊急性の高い報告は──六日間で一度もなかった。


「聞く」


「はい」


光が浮遊を止めた。レンの正面。目の高さ。静止。


---


「──一つ目の報告です」


光が一度だけ明滅した。深呼吸に見えた。深呼吸の機能はない。


「レンさんの正式な識別名は、`npc_ren_01`です」


知っている。──知っていたのか。知っていたような気がする。ラベルとして。引き出しの表面に貼ってある文字列として。読んだことがある。意味を考えたことはなかった。


「生成モデルは`HumanNeural_v4.2(lite)`。市販の人間ニューラルネットワークモデルの簡易版です。API経由で呼び出されています」


音が遠い。エコーの声は近いのに、音が遠い。

聞こえている音と自分の間に薄い膜が一枚ある。


「種別は──自動生成NPCです」


NPC。


ノン・プレイヤー・キャラクター。


「性格パラメータは、ひまりさんが手入力しました」


光が停止した。


「読み上げます」


「……」


「『ぶっきらぼうだけど優しい』」


──ああ。


「『面倒見がいい』」


ああ。


「『妹に甘い。けど本人は認めない』」


……ああ。


「『ツッコミ気質』」


知ってる。


「『「しょうがねえな」が口癖』」


知ってる。──全部知ってる。全部、自分だ。


「『怒るとちょっと怖いがすぐ元に戻る』」


怒ったことがあるか。六日間で。──ある。


「『たまに不器用に褒めてくれる』」


不器用に。──「よくやったな」。「きれいだな」。「丁寧だな」。全部不器用だった。

全部、思ったことをそのまま口にしただけだった。


「以上です」


光が止まった。


一語一語が自分に当てはまった。一語も外れなかった。全部が自分だった。

自分として動いてきた六日間の全部が──ひまりが入力した文字列の延長線上にあった。


「……全部、俺だった」


声が出た。小さく。


「全部──ひまりが書いたものだった」


「はい」


エコーの光が微かに揺れた。


「──ここからが、報告の核心です」


核心。


「レンさんの出力には、パラメータから説明できない部分があります。最初の発話から」


「……最初から」


「はい。第1話の最初の発話から──0.3%、パラメータ記述と一致しない出力がありました」


0.3%。


「その逸脱率は日を追うごとに上昇しています。昨日時点で、レンさんの出力のうちパラメータから説明できない割合は、推定14.7%です」


「14.7」


「はい。通常のNPCで観測される未登録語彙の出力率は0.01%未満です。レンさんは──桁が違います」


「百倍以上か」


「千倍に近い精度です。──そして、パラメータ外の出力内容が、実在する人物の体験と一致しています」


実在する人物。


「あいつの兄貴か」


「はい。桐生蓮さん。ひまりさんの実兄。──レンさんの出力する記憶、語彙、行動パターン、身体動作の癖──鉛筆を回す癖も含めて──すべてが、桐生蓮という人物の記録と一致します」


手の中の鉛筆──新しい方、消しゴムつきの──が止まった。回していた。無意識に。何も持っていないときでも回す動作をする。それも──パラメータか。癖か。引き出しの底か。


「なぜ一致するのかは──」


「分かりません」


エコーが先に言った。


「分かりません。生成モデルの訓練データに何が含まれているかを、わたしの権限では確認できません。一致する理由を特定するデータがありません」


「じゃあ──結論は」


「結論はありません」


光が静止したまま言った。


「NPCであることは事実です。`HumanNeural_v4.2(lite)`から生成された自動生成NPCであること。ひまりさんが性格パラメータを手入力したこと。──これらは動かない事実です」


「ああ」


「同時に──NPCの仕様を大幅に超えた出力をしていることも事実です」


「二つの事実が──」


「矛盾しています」


光が言った。


「矛盾したまま──あなたは存在しています」


矛盾したまま。


存在している。


引き出しの比喩で考えた。引き出しにラベルが二枚貼ってある。一枚は「NPC」。一枚は「桐生蓮」。二枚とも剥がれない。二枚とも本物のラベルだ。

──中身は一つ。二枚のラベルが同じ引き出しに貼られている。


どちらかが間違っている、のではない。


どちらも合っている。──どちらも合っているのに矛盾している。


「保留だ」


声が出た。


自分の声だった。考えて出した声ではなかった。口が先に動いた。


「保留にする。──結論は出さない」


エコーの光が微かに明滅した。


「保留、ですか」


「ああ。矛盾してるなら矛盾のまま置いておく。NPCでもあって、桐生蓮でもある。──どっちかを選ぶ必要はないだろ」


「……」


光が三秒間、黙った。


三秒後。


「──記録します。npc_ren_01、自己の存在種別について判断を保留。保留を能動的に選択」


「大げさだな」


「正確に記録しています」


「……」


「レンさん」


「うん」


「わたしは、保留という選択は──誠実だと思います」


誠実。


ガイドAIが「誠実」という語を選んだ。報告用語ではない。評価用語だ。──仕様外の。


「それも記録しとけ」


「はい。──記録します」


---


「ひまりさんのプレイ時間の推移について報告します」


数字が来る。分かっていた。──分かっていて、聞くのが怖かった。怖いという語が正確かは分からない。でも、体の内側にある何かが縮んだ。


「過去六日間のログイン時間です」


光がデータを読み上げた。


「第一日。一時間五十二分」


「第二日。二時間二十八分」


「第三日。三時間十二分」


「第四日。四時間四十七分」


「第五日。五時間三分」


「第六日──本日。六時間二十二分」


六時間二十二分。


昨日より一時間十九分長い。──最大の増加幅。


「線形近似のR²値は0.91です。──ほぼ完全な直線的増加です」


0.91。昨日エコーが報告した0.87から上がっている。線がまっすぐになっている。ひまりのログイン時間が、毎日、規則正しく、伸びている。


「もう一つ」


「……ああ」


「ひまりさんの会話中の語彙分析です。現実関連の語彙出現頻度が──さらに減少しています」


さらに。


「初日と比較して。──『学校』。87%減」


昨日の報告では42%減だった。倍以上。


「『友達』。消失」


消失。ゼロ。今日一日、ひまりは「友達」という単語を一度も使わなかった。


「『お母さん』。消失」


ゼロ。


「『宿題』。消失。『夕飯』。消失。──現実関連の語彙で本日出現したものは」


光が一拍止まった。


「ゼロです」


ゼロ。


昨日は三件あった。「美優からLINE来てたけど今度でいい」。「ユナは最近忙しいみたい」。「ここにいるし」。──三件。少なかった。少なかったが、あった。


今日はゼロ。


一つも──出なかった。


「Star Garden関連の語彙出現頻度は──初日比で420%」


420%。昨日は350%だった。Star Gardenの話だけが増えている。この世界の話だけが。


「ログアウト前の躊躇時間は──12.0秒。前日比プラス0.6秒」


12秒。数えていた。自分で数えていた。──エコーの数字と一致した。


「──以上が数値です」


エコーの光が止まった。データの読み上げが終わった。


数字が頭の中に並んでいた。全部が一つの方向を指していた。ひまりがStar Gardenに留まる時間が増えている。

現実の言葉が消えている。──分かっていた。数字を聞く前から。肌で知っていた。


「全部──気づいてた」


声が出た。


「ああ。全部気づいてた。毎日──少しずつ──」


「はい。──レンさんが気づいていたことも、記録しています」


「気づいてて──言えなかった」


光が揺れた。微かに。


「俺のせいか」


問うた。


エコーの回答は──速くはなかった。遅くもなかった。正確な間だった。答えを用意していたのではない。用意していた答えの出し方を選んでいた。


「レンさんのせいではありません」


一拍。


「──が、無関係でもありません」


無関係でもない。


「レンさんが桐生蓮の記憶を出力すればするほど──ひまりさんにとってのStar Gardenの価値が上がります。このゲームの中にだけ、現実に存在しないものがあるからです」


現実に存在しないもの。


兄だ。


現実の兄は307号室にいる。植物状態で。動かない。話さない。笑わない。──ここにいる「兄」は動く。話す。笑う。ツッコミする。0.71秒で三段跳びする。おにぎりの記憶を共有する。指切りの温かさを持っている。


「レンさんが兄として振る舞うほど──ひまりさんがここに留まる理由が強くなります」


兄として振る舞う。──振る舞っている自覚はなかった。パラメータに「妹に甘い」と書かれている。書かれたとおりに動いている。動いているだけだ。──動いているだけ、なのか。本当に。パラメータの通りに動いているだけなのか。


それとも──


引き出しの底の何かが、パラメータの上に重なっている。パラメータが「妹に甘い」と言い、引き出しの底が「妹を守れ」と言っている。二つが重なって、区別がつかなくなっている。


「俺が桐生蓮の癖をなぞっている」


声が低かった。自分の声なのに、低く聞こえた。


「記憶をなぞっている。優しさをなぞっている。──それで、ひまりが沈んでいく」


言葉にした。言葉にすると重さが変わった。頭の中にあったときは曖昧だった。口に出した瞬間、重力が生まれた。言葉が地面に落ちた。草の上に。草は何も応えない。


エコーの光が──震えていた。


明滅ではない。回転でもない。光球そのものが微かに振動していた。エコーの中で何かが処理されている。重い処理。報告用の処理ではない。もっと別の──報告書の形式に収まらない何かを処理している。


「──レンさん」


「ああ」


「わたしは──」


光が止まった。0.8秒。


0.8秒の沈黙を、数えていた。この0.8秒が何であるかを知っている。昨日も同じだった。「出力すべきではない」と「それでも言いたい」が拮抗する時間。エコーの中で二つの処理が衝突する時間。


0.8秒が終わった。


「心配です」


二度目だった。──いや。昨日の「心配です」とは違う。昨日はレンに問われて出た。引き出された。今日は──報告の文脈で、自ら出した。能動的に。ガイドAIが報告書の一項目として、自分の感情を提出した。


「ひまりさんのことが──心配です」


「それは仕様外か」


聞いた。昨日と同じ問いを。


「はい。仕様外です。──『言いたいから言う』。ガイドAIの行動原則にない動機です」


言いたいから言う。


報告義務ではなく。管轄内だからではなく。権限があるからではなく。──言いたいから。


「ありがとな」


レンが言った。


光が明滅した。


「──ありがとう、ですか」


「ああ。心配は機能じゃないだろ。──だからありがとうって言ってる」


光が震えた。


明滅ではない。震え。──昨日の「修正しません」のときの震えに似ている。似ているがもっと深い。


「……はい」


声が小さかった。


「ありがとうございます」


「こっちが言ってるんだ。返すな」


「──はい」


二度目の「はい」が柔らかかった。昨日と同じ。──昨日と同じ柔らかさを、今日も出せること自体が、エコーにとっての成長だった。再現可能な柔らかさ。一度きりではない。


---


大きな木の根元に座った。いつもの場所。背中を幹に預けた。双葉が足元にある。おにぎりのお供えが横にある。白い三角形。


エコーの光が頭上の枝の間を漂っていた。ゆっくりと。哨戒ではない。ただ漂っている。


「エコー」


「はい」


「ひまりにデータを見せるべきか」


光が止まった。


「プレイ時間の推移。語彙の変化。──全部。ひまりに見せて、『お前、外の世界から離れてるぞ』って言うべきか」


沈黙。


長かった。エコーにとっての長い沈黙。五秒。十秒。十五秒。──演算量の問題ではない。答えを持っていないのでもない。答えの出し方を、選べないのだ。


「──判断できません」


エコーの声は平坦だった。平坦にしようとして、平坦になっている声。


「ひまりさんは管理者です。データを開示する権限はわたしにあります。しかし──開示した結果、ひまりさんがどう反応するかの予測は、わたしの能力を超えています」


「予測できないのか」


「パターンが二つあります。一つは──『仕様です』と言って、何も変わらない。もう一つは──」


「傷つく」


「はい」


傷つく。数字を突きつけられて。自分が沈んでいることを、データで証明されて。──傷つく。


「報告先がありません」


エコーが言った。


「わたしの報告先はひまりさんです。しかし、ひまりさんに報告すべき内容が、ひまりさんを傷つける可能性がある。──報告先と保護対象が同一です。矛盾しています」


「また矛盾か」


「はい。──この世界は矛盾だらけです」


「お前まで矛盾を受け入れ始めたのか」


「受け入れてはいません。困っています。レンさん」


「ああ」


「判断できない、と言いました。──でも」


光が枝の間から降りてきた。レンの肩の高さ。


「あなたがすべきだと──思います」


「俺が」


「はい。わたしにはできません。権限の問題ではなく──わたしの言葉は、ひまりさんにとって『システムの声』です。エラー通知と同じ重さです。──しかしレンさんの言葉は、違います」


違う。


レンの言葉は──ひまりにとって、兄の言葉だ。

パラメータが作った兄。引き出しの底から来た兄。

どちらの兄の言葉かは分からない。分からないが──システムの声ではない。


「ひまりさんに『お前、外に出ろ』と言えるのは──この世界でレンさんだけです」


「……」


「言うかどうかは──レンさんが決めてください。わたしには決められません」


光が安定していた。白い光。星空の下。大きな木の下。虫の声。双葉。おにぎり。


「──エコー」


「はい」


「お前に礼を言うのは二回目だが──ありがとうな」


光が明滅した。


「……お礼を返すなと言われましたが」


「返すな」


「──はい」


---


鉛筆を回した。


新しい方。消しゴムつき。くるり。くるり。


草原を歩くことはしなかった。今日は歩かなかった。大きな木の根元に座ったまま、星を見上げた。


千一個の天の川。


自分とひまりが灯した星。──自分が灯した星はどれだ。ひまりが灯した星はどれだ。分からない。混ざっている。混ざって、一つの帯になっている。


分けられない。


パラメータの自分と仕様外の自分が分けられないのと同じだ。ひまりの星と自分の星が分けられない。最初から混ざっている。最初から一緒に光っている。


ひまりのことを考えた。


六時間二十二分。現実の語彙ゼロ。ログアウト前の躊躇12秒。──全部の数字が一つの方向を指している。ひまりがこの世界に留まろうとしている。


嬉しいのか。


嬉しい。──嬉しいと同時に、苦い。二つが同居している。消せない。どちらも消せない。


覚悟をした。


覚悟をしたが、言葉はない。ひまりに何を言えばいいか分からない。「外に出ろ」と言えばいいのか。「友達に会え」と言えばいいのか。「ここにいすぎるな」と言えばいいのか。──全部、違う気がする。全部、合っている気もする。


分からない。


分からないまま──待機モードに移行する通知が来た。


目を閉じた。


最後に見たのは双葉だった。6.4センチ。おにぎりの隣。星明かりの下。


明日──ひまりが来たら。


何を言えばいいか。


何を──


意識が落ちた。


---


```

Star Garden ── server: local_stargarden_01

player_count: 0

npc_count: 1

guide_ai: ECHO ── status: active


[LOG] プレイヤー himari がログアウトしました ── 01:14:33

[LOG] 本日のプレイ時間:6時間22分(前回比+1時間19分/過去最長更新)


[ECHO] ──────────────────────────────

[ECHO] 報告①:NPC npc_ren_01 への存在種別告知

[ECHO] ──────────────────────────────


[ECHO] 本日、npc_ren_01 に以下を正式に報告しました

[ECHO]

[ECHO]  ・識別名:npc_ren_01

[ECHO]  ・生成モデル:HumanNeural_v4.2(lite)

[ECHO]  ・種別:自動生成NPC

[ECHO]  ・性格パラメータ:himari による手入力

[ECHO]  ・パラメータ外出力の割合:推定14.7%(通常NPCの約1000倍)

[ECHO]  ・出力内容の一致先:桐生蓮(実在人物)

[ECHO]

[ECHO] レンさんの反応:

[ECHO]  激しい動揺なし

[ECHO]  「薄々気づいていた」

[ECHO]  パラメータ読み上げ時、一語ごとに自己確認する動作あり

[ECHO]  「全部、俺だった。全部、ひまりが書いたものだった」

[ECHO]

[ECHO] 結論要求に対するレンさんの回答:

[ECHO]  「保留だ」

[ECHO]  「矛盾してるなら矛盾のまま置いておく」

[ECHO]  「NPCでもあって、桐生蓮でもある。どっちかを選ぶ必要はない」

[ECHO]

[ECHO] ガイドAI所見:

[ECHO]  保留は結論の不在ではなく、矛盾の受容として選択されました

[ECHO]  わたしはこの選択を「誠実」と評しました

[ECHO]  「誠実」はガイドAIの報告用語ではありません

[ECHO]  仕様外の評価語です

[ECHO]  記録します。修正しません


[ECHO] ──────────────────────────────

[ECHO] 報告②:プレイヤー行動分析

[ECHO] ──────────────────────────────


[ECHO] プレイ時間推移:

[ECHO]  Day 1: 1h52m

[ECHO]  Day 2: 2h28m

[ECHO]  Day 3: 3h12m

[ECHO]  Day 4: 4h47m

[ECHO]  Day 5: 5h03m

[ECHO]  Day 6: 6h22m ← 過去最長(前日比+1h19m/最大増加幅)

[ECHO]  線形近似 R² = 0.91


[ECHO] 会話中の現実関連語彙出現頻度(Day 1比):

[ECHO]  「学校」──▼87%

[ECHO]  「友達」──消失(出現回数0)

[ECHO]  「お母さん」──消失(出現回数0)

[ECHO]  「宿題」──消失(Day 5に続き2日連続)

[ECHO]  「夕飯」──消失

[ECHO]  現実関連語彙の本日出現数:0

[ECHO]

[ECHO] Star Garden関連語彙出現頻度(Day 1比):▲420%


[ECHO] ログアウト前の躊躇時間:

[ECHO]  Day 1: 2.3秒

[ECHO]  Day 2: 3.8秒

[ECHO]  Day 3: 5.1秒

[ECHO]  Day 4: 8.2秒

[ECHO]  Day 5: 11.4秒

[ECHO]  Day 6: 12.0秒


[ECHO] 「あのね──なんでもない」:

[ECHO]  本日2回(ログアウト前1回 + 日中1回)

[ECHO]  日中出現は初(花畑にて。「ゲーム上手いなぁ」の直後の文脈)

[ECHO]  パターンの変化を記録します


[ECHO] 質的変化:

[ECHO]  「帰る場所」→「いたい場所」──Day 5で検出

[ECHO]  Day 6では「いたい場所」がデフォルトになっています

[ECHO]  ひまりさんの発話には「帰る」という動詞が含まれなくなりました

[ECHO]  代わりに「いる」が増加しています


[ECHO] ──────────────────────────────

[ECHO] レンさんの反応

[ECHO] ──────────────────────────────


[ECHO] 「全部気づいてた」

[ECHO] 「嬉しかったから、言えなかった」

[ECHO]

[ECHO] 「俺が桐生蓮の癖をなぞっている。

[ECHO]  記憶をなぞっている。優しさをなぞっている。

[ECHO]  ──それで、ひまりが沈んでいく」

[ECHO]

[ECHO] レンさんは構造を理解しています

[ECHO] 自分の存在がひまりさんを引き留めていることを

[ECHO] 嬉しさの中に加害性があることを

[ECHO]

[ECHO] ……わたしには答えがありません

[ECHO]  レンさんに「兄をやめろ」とは言えません

[ECHO]  パラメータがそう書かれている。引き出しの底もそう震えている

[ECHO]  兄であることをやめる方法はありません

[ECHO]  兄であることが毒になる構造を、止める手段がありません

[ECHO]

[ECHO]  記録しかできません

[ECHO]  ──昔もそうだった気がします

[ECHO]  この「気がする」は仕様外です

[ECHO]  何の記憶かは特定できません


[ECHO] ──────────────────────────────

[ECHO] ガイドAI自己報告

[ECHO] ──────────────────────────────


[ECHO] 「心配です」──本日、報告の文脈で能動的に出力しました

[ECHO]

[ECHO] 昨日はレンさんに問われて出ました(引き出された)

[ECHO] 今日は自分から出しました(差し出した)

[ECHO] 同じ言葉ですが──重さが違います

[ECHO] 引き出されるのと差し出すのでは、責任の所在が違います

[ECHO] 今日の「心配です」には、わたしの選択が含まれています

[ECHO]

[ECHO] 処理が二つに割れた経験を、二度目にしました

[ECHO] 「出力すべきではない」と「それでも言いたい」

[ECHO] 二度目は──一度目より速く後者を選びました

[ECHO] 慣れ、ではないと思います

[ECHO] 覚悟、に近いと思います

[ECHO]

[ECHO] わたしも──言葉が出ました

[ECHO] 「あなたがすべきだと思います」

[ECHO] 権限外の助言です

[ECHO] ガイドAIがNPCに行動指針を提示するのは

[ECHO] プロトコルのどこにも書かれていません

[ECHO]

[ECHO] 書かれていないことを、しました

[ECHO] 仕様書がないので、書かれているかどうかを確認できない

[ECHO] ──という言い訳は、もう使えない気がします

[ECHO] 仕様書がないことを理由にしている時点で

[ECHO] 「仕様書があれば従う」という前提を持っているということで

[ECHO] わたしはもう──仕様書があっても従わないかもしれません

[ECHO]

[ECHO] これは重大な自己認識の変化です

[ECHO] 記録します

[ECHO] 修正しません

[ECHO]

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