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 ー約10年後ー




「オリハルコンとヒヒイロガネの合成剣がぁぁぁあぁあぁぁぁあぁっ!?」



「……それは申し訳ありませんでした」




〈勝者、トカゲ!〉



 音声拡張魔道具で審判の判定が知らされると、闘技場に大歓声が上がります。


 現在私はレオン殿の故郷であるベスティア国で年に1回開催される闘技大会にゲストで来ています。


 5年前までは一般参加でしたが、「トカゲが参加するとエントリー時点で優勝が決まる」と言われ、エキシビジョンマッチなるものに強制参加になり、更に昨年からは武器(剣)部門が新たに併設され、そちらの試し切りの的役(まとやく)にゲストで参加させていただいています。




〈エントリーNo.30酒好き鍛治師〉




「今年もよろしくの、トカゲ野郎」



「はい、よろしくお願いします。今年は負けられません」



「それはこちらのセリフだわい? なぁに、トカゲ野郎の腕が1本や2本吹っ飛んだ位なら、魔女が生やしてくれるから安心せい」





〈それでは始め!〉




 うむ、大本命のお出ましです。

 ふざけたエントリー名ですが、彼は『伝説の鍛治師』と呼ばれる様な化け物です。しかも自信満々なご様子。油断は出来ません。


 昨年は尻尾の先をスパンと切られ、救護班の魔女に生やしてもらいましたが今年は秘策があります。



「なっ!?」




 ガキィィィィィィィンッッッ




 審判の始めの合図と共に、私は地面を蹴り上げ伝説の鍛治師目掛けて腕を振り下ろしました。



「危ないわいっ! 何考えとる!?」



「的役が自ら武器に向かって行ってはいけないと言うルールはありません……よっと」



 ガキィィィィィィィッ





「死んでしまうわいっ!! このっ!」



 ガキンッ



「大丈夫ですよ。多少怪我した所で魔女が全力で治してくれますからね」



「このトカゲ野郎っっっ!?」



「はっはっはっ!」



 


 伝説の鍛治師はブチ切れてしまいましたが、会場は大賑わいです。声援ありがとうございます。頑張ります。

 今日の為に爪を伸ばして整えていた甲斐がありました。

 さて、畳みかけましょう。


 私は背中に収納していた羽を出して、空に舞い上がり、そのまま剣めがけて滑空(かっくう)して行きます。

 死なないで下さいね、酒呑みの友よ。




「っ!!!?」



 ガキィンッ


 ガキィンッ


 ガキィンッ


 ガキィンッ


「ムリムリムリ! ギブアップっっ!!!!」





〈今年の優勝者、トカゲ!〉



 大歓声に応えて、観客席に手を振ります。皆様、トカゲはやってやりましたよ!


 この武器部門は私の体の一部を切り落とせば剣の勝ち、私が耐えたら私の勝ちと言う大会ルールがあります。


 昨年は他の出場者が腕や脚など正々堂々狙って斬りかかってきましたが。

 しかし、何を思ったのか酒呑みの友は最後に登場し、鱗の強度が1番低い尻尾をしれっと狙って斬り落とし、優勝を()ぎ取りました。

 会場からは大ブーイングでしたが、本人曰く「切り落とせば何処でも問題無かろう」とコメントしていました。昨年の雪辱(せつじょく)が晴らせて何よりです。



「剣はまだ大丈夫そうですが、何でギブアップしたんですか?」



「ぜぇ、はぁ……ら、らい……来年にかける……。こ、この素材をなるべく使い……ぜぇ、はぁ……」



「私は3ヶ月後からオーナーの所に就職するので、来年この大会にはもう出ませんよ?」



「な、なんだと?」





 そう、何を隠そうこの大会の優勝賞品はオーナーの所の宿。宿泊権利1年分山分け参加資格でした。


 元はこの国の王様を約10年に1度決める国内の大会だった様ですが、法改正の為に年に1回の国籍関係なしの闘技大会に変更になりました。


 参加種族が千差万別で誰が勝つのか謎なので、宿の大型獣人族用の部屋が20年分も大会委員会によって予約されていた訳です。

 レオン殿からその話を聞いて、また宿に泊まれる可能性が出来たと思った時は凶悪な笑顔を作ってしまいました。







「ふぅー。エライ目にあったわい。来年からこの武器部門はなしかの?」



「いえ、妹が代わりに出るので心配しないで下さい。勝ち逃げするのは悪いですから、今年の宿泊資格は半分譲りますよ」



「来年から絶望しかない……」



 子育ても落ち着いて来た妹のルナが参加予定ですが、私から普段妹の逸話(いつわ)を聞いている酒呑みの友は泣いてしまいました。

 友よ、強く生きて下さい。











 ー時を戻す事 宿帰りー



 カルファとの初対面も済ませてお土産を手渡し、私は宿の方々から頂戴(ちょうだい)した連絡先やら雇用契約書やら移住優遇証明書等を出しながら、妹に移住先の相談をしました。



「私のオススメはここ一択です」



「オーナーの国ですか?」



 妹が手にしているのはオーナーにいただいたパンフレット。そう言えばどんちゃん騒ぎの最中にいただいたので、中身まで見ていませんでした。


 昔はこんな国なかったと思いましたが……はて? 妹の話によると、この大陸では比較的新しい種族混合国家だそうです。



「高齢者向けの居住施設に医療充実。なるほど、老後に住むには良い場所ですね。しかし、思ったよりもお金がかかる国ですね。……ふむ」



「体が動く内は働けば大丈夫ですよ兄者。そもそも里帰り中でこちらにお世話になっていますが、私の国籍は今現在この国です」



「それを早く言いなさい」



 魔大陸から死に物狂いで飛んで入国手続きを済ませて途中から船で来ましたが、どうにかこうにか妹の所に着いた早々に訳の分からないくじ引きを引いて「旅行して来い」と親族一同恨みの(こも)った目に見送られながら、最低限の情報とアンケート用紙を超速達マルカ便で宿のポストに送っただけで訳もわからず宿に向かいました。

 ちなみに翼の無い妹が徒歩で行く予定でしたので、船を予約してあり、私はソレに乗って行きました。



 妹が移住しているなんて思いませんでしたよ。

 結局それからオーナーの国に戸籍を取得し、念願叶って高齢者向け施設に入り1ヶ月くらいは大人しくしていましたが、暇すぎてレオン殿の仕事を手伝いつつもあちこち引き()り回されたり。

 闘技大会の優勝賞品でバカンスを楽しんだり充実した日々を過ごしていましたが、ある時オーナーからお声がかかりました。




「新しい宿を建設する予定なんですけど、そこで働きませんか?」



是非(ぜひ)



 正規の雇用は宿が建ってからですが、計画当初から関わらせていただいた新しい宿のコンセプトは『山、大人の隠れ家』。


 今現在ある宿は本国とは離れた島に作られていますので、そちらは『海、ファミリー向け』に変更するそうです。

 隣の土地も買って建物を増築したり、庭を改装して『プール』なる物を作る予定だとか。



 いや、それにしても。



「これ隠れ家ですか?」



「隠れ家です」



「…………そうですか。ハッキリ言ってもいいですか?」



「はい、何ですかトカゲさん?」



「これダンジョンですよね?」



「隠れ家です」



 部屋の配置や施設など色々図面で決めている最中、いざ建設予定地に足を運びましたが……そうですか。隠れ家ですか。

 いや、ダンジョンでしょう。



「オーナー」



「隠れ家で……どうしました?」



「宿名物の水まんじゅうはメニューから消して下さいね」



「大丈夫です。水玉模様にして見分けがつくようにしますから」



「そうですか……」



 どうやら私の将来の就職先は凄い所の予定ですが、もう今更引き返せません。社割と3食(まかな)いおやつ付きは逃せませんのでね。


 レオン殿もアルバイトから一転、正規社員としてこれから私と一緒に新規宿に就職予定ですが、今回の建設予定地の視察には同行しませんでした。

「帰って来たらどんなだったか教えてくれ!」と言われていましたが、詳細は伏せておきましょう。

 道連れは多い方が良いです。



「ここは何が狩れるんですかね?」



「山菜です」



「いや、何の魔物が──」



「山菜です。他には苺とか梨、ブドウ、柿なんかも美味しかったですね。魔も……ゲフンゲフン。季節ごとに取れる物が違うので、頑張れば栗もありますよ。モンブラン作るの楽しみです」



 何を頑張ったら栗が手に入るか知りませんが、『モンブラン』なる物が気になります。

 食料調達班の班長はレオン殿なので、働きに期待しましょう。

 

 私は宿の主人として一癖も二癖もある従業員をまとめ上げるのを頑張ります。



 老い先短いトカゲですので、皆様お手柔らかにお願いしますね。








後日談



獅子

「ここで栗狩れるのか?ダンジョンだろどう見ても。まぁ、あのオーナーだから仕方ないか」


トカゲ

「おや? あんまり驚きませんね?」


獅子

「オーナーは一見無害そうに見えるが、ぶっ飛んだ思考の時あるからな。俺の知り合いの中だと、ダントツで頭おかしいと思う」


トカゲ

「流石に、私より付き合いの長い方のセリフは重みが違いますね」


獅子

「『オーナーだから仕方ない』ってのが、仲間内での合言葉みたいなもんだな。トカゲの旦那もその内オーナーの奇行に慣れるさ」


トカゲ

「あー…………」遠い目




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