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ロウとツバサ

 目の前に立つ黒赤目が異様な気配を放っていた奴と同一人物だと気づいて驚く狼。


 黒赤目のプレイヤーはそんな狼に若干呆れながらもスキルのせいで迷惑をかけた事には違いがないので謝罪した。


 そんな黒赤目に色々話を聞こうと思う狼なのだが黒赤目はリアルで少し用事があるらしく12時にもう一度ログインし会って説明するという黒赤目。

 

 それに渋々狼は了承する。


 そして了承した狼に黒赤目はさらに言った12時まで狼にもログアウトしてほしいと。

 

 狼はそれは絶対嫌だと断った。だが黒赤目の何度も必死に頼み狼は根負けしそれにも渋々了承した。

 

 そして現在夜の10時、ログアウトした直後、狼は自分のベッドの上でイライラしていた。


 本当なら黒赤目がログアウトした後狼はロドスを出て探索やレベル上げ体験版から追加されたもろもろを調べようとワクワクしていたのにまさかのお預けだ。


 このゲームを何より楽しみにしていた狼にとってはまるでタバコを取り上げられニコチンの切れたヘヴィースモーカーのような状態だった。


「あああぁぁぁぁぁあああー!クソ!」


 俺はベッドの上でブリッジしながら声を荒立てていた。さながら禁断症状だ。

 後2時間どうやって時間を潰せばいいか分からない。


 速くログインしたい。続きをしたい。それだけが頭の中でグルグル回っていた。


 ブリッジをして叫びゲームの事で頭がいっぱいの俺は俺は気づかなかった。実はその時怪我をして帰ってきた俺を心配して見にきた母がドアの隙間からこっそり覗き込んでいたことに。


 怪我をして帰ってきて、きっとナイーブになっているのだろうと思った母であったが実際のところそんな事は微塵もなく狼は自室のベッドの上で元気であった。


 そんな狼の姿を見た母はそっと扉を閉めて見なかったことにしようと静かに思い階段を降りていった。




 それから時間は過ぎすっかりおとなしくなり、と言うかベッドの上で布団をかぶり完全に眠っていた。いくらゲームが楽しみだからといっても狼は少し疲れていた。


 あの自転車置き場で起きた出来事のせいで。

 そして時間が11時59分から12時に変わった瞬間狼の横に置かれたスマホからアラーム音が鳴り響く。


 それは狼が12時になったら鳴るようにセットしといたものだった。


 狼はログアウト直後空いた2時間を何に使えばいいか分からずどうしたものかと考えたがふと、自身の疲労状態から約束の時間まで仮眠をとることにしたのだ。

 

 最初狼は2時間だけ寝て約束の時間に起きれるか少々不安であったがそれは杞憂だった。


 狼はアラームが鳴ると直ぐに目を開け横に置かれたスマホを手に取りアマームを解除、そして流れるような手つきでイヤホンを装着、装備し目を閉じアプリをタップし起動する。


「時間ぴったり、少し寝たから気分も悪くないし、後2時間はいけるな」


 仮眠から起きたばかりで自身の体調はどうかと直ぐに確認するがとくに問題ない。頭の傷も殴られたところも。


 だがそれでも俺は後2時間しかまともにゲームは出来ないだろう。


 理由は簡単、俺は基本6時間きっちり寝ないと体が保たないのだ。限界を超えて今から3時間あるいは5時間ゲームを続けたとしても絶対寝落ちしてしまう。


 いくら楽しみにしていたゲームであっても生物であるが故に睡魔には残念ながら勝てないし無理してやっても面白くはない。無理せずじっくり俺はあの世界を楽しみたい。

 

 そして目を閉じた俺はログイン準備が出来た事を確認するとあの呪文を再び口に出して唱える。


「Vシフト!」




 ログインし緑の光が消えると再びオオカミを模したようなロボットアバターに姿を変えた俺はあの路地裏にいた。どうやら最後にログアウトした地点から再スタートする。この仕様も体験版と同じだ。


 だが確実にこの世界の仕様は体験版から幾つか変わっている。だから俺は聞かなければならない。色々物知りそうに俺を追いかけ回したあいつに。


 俺は後方を振り返り広がる闇に向かって言葉を投げかける。


「約束通り来てやったんだ。隠れてないで出てこい。そんで色々説明しろ」

「時間通りに来てくれたのもそうだけど、私がいる事に気づいたのも見事だね。どうして分かったの?」

「・・・・・・かんだ」

「かん、ねぇ」


 闇の中から黒赤目はゆっくりと姿を表した。そして俺が黒赤目に気づいた理由を言うと何やら物知り風だった。こういう時表情が無いというのは不便だと心から思う。言葉でしか相手の変化を知ることができない。


 俺は現象怪しさしかなく信用もできない黒赤目を見たままさっさと本題を切り出す。


「話すのなら早くしろ。時間が勿体無い」

「それもそうだね。なら歩きながら少し話始めよう。で、何を話してほしい?」

「・・・・・・そうだな。まずは・・・・・・」


 まず何を何を聞こう。俺のリアルをなせ知っていることか?それとも俺の知らないこの世界の仕様だろうか。


 どちらも俺の中では同じ位重要なことではあるし、正直悩むところーーなのだがさっきも言った通り時間が勿体無い。


 なので俺はさっさと選んだ。


「この世界の仕様についてだ」

「意外だね。リアルの方を聞くと思ったのに」

「確かにそれはある意味ゲームの仕様より重要だ。だが俺は今ここにいる。だから今聞くのはこの世界の事でいい」


 俺の前に立つ黒赤目は俺の聞きたい事を聞く背中を向けて歩き始める。そして笑いながら言った。


「ふふ、やっぱり君は面白いね狼くん。おっと、私も聞くのを忘れてた。この世界では君の事をなんて呼べばいい?」


 名前?そう言えば名前の登録はまだしてないな。


 前を歩く黒赤目の後ろを歩きながら初ログイン時自身に名前をつけるのを忘れ現在名無しである事に気づいた俺はウィンドウを開いて自身の情報の名無しになっている名前欄をタップしサクサク入力し確定を押した。


 そして俺は前を歩く黒赤目にこの世界での名前を言う。


「俺の名前はロウだ」

「ロウ?ふふ、変わってないじゃん」

「表示を漢字からカタカナに変えただけだからな。文句あるか?」

「ふふ、いいや。呼び分けるのも面倒からそれの方が好ましい」

「俺はべつにお前に好かれても嬉しくないけどな」

「酷いな、これでも一応女の子なんだからそんな冷たい事言われたら泣いてしまいそうだよ」

「・・・・・・どうだか」


 目の前を歩く自称女の子の黒赤目は泣きそうなどと言いながらその実声はどこか楽しそうだ。

 べつに楽しくなるような会話をした覚えはないはずなのだが。やはり俺はこいつを怪しいと思い。信用などまったくしていなかった。


「ーーツバサ」


 唐突に前を歩く黒赤目はそう言った。


「は?」

「ツバサ、私の名前」

「聞いてないんだが」

「うん、私が名乗りたいから名乗っただけだよ」


 黒赤目あらためツバサは俺の興味なさげな反応を無視して何やら一人楽しそうだった。


 今日初めて会ったというのにツバサの態度は俺とは真逆に見える。いったい何故なのだろう?


 そんな俺の疑問なぞ知らずツバサは前を歩きながら俺の方を振り返った。


「さぁ速く行こう。ロウ!」

「・・・・・・はぁ、急ぐのはいいが、ちゃんと俺が聞きたい事を話をしながらで頼む」


 ロウはツバサが行く方を後から追いながら闇の広がる路地裏を突き進む。


 そしてロウはこの後ツバサの口から知る事になる。この世界の秘密の一端を。



 






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