今度こそヴェンデルの改造完了
ヴェンデルの魔力改造が終わるの待つ。
ジェシカはヴェンデルに手をかざしながら何やらムニャムニャ呪文を唱えている。その様子を観察してみるが魔力というものが見えない俺には何をしているかさっぱりわからない。
「はい、終わったよ。これで魔力的には大丈夫だ。」
「ではヴェンデルを起こすか。」
ヴェンデルを起こさせる。治療ポッドから上体を起こしたヴェンデルの様子は先程と少しも変わらないように見える。
「ヴェンデルよ。再び聞くが気分はどうかな?」
「ああ。問題無い。先程はアステムが申し訳なかった。……ああ、だが……アステムが……」
「アステムがどうした?」
「アステムが頭の中で騒いで……少々やかましい。」
ふむ。体の主導権はヴェンデルに移ったようだがアステムは頭の中で文句でも言っているのだろうか。
「ヴェンデル。アステムの魔力の源を移すイメージで「コピー分身」を作ってみな。」
ジェシカがヴェンデルにアドバイスした。
「む。ジェシカ殿。わかった。……コピー分身」
ヴェンデルがそう口に出すとヴェンデルと瓜二つの黒髪短髪の優男がポンと現れた。
「おお、頭の中のうるさいのが消えた。」
「ふう。おい、うるさいのとは失礼な。」
そっくりな2人が向かい合って言い合いを始めた。
「アステムの顔は久しぶりに見たが相変わらずだな。抜けた顔をしている。」
「ヴェンデルも俺と同じ顔をしているだろうが。全く……とんでもない復活の仕方をしたものだ。」
2人は顔も含めて外見上はほとんど同じだ。ヴェンデルは尊大な態度をする優男だがアステムは少し抜けた顔の優男という少しの仕草の違いはあるが。
「ヴェンデルよ。お前には「変身」という能力を持たせた。古黒龍の姿に変身する事もできるが龍と人間の中間である「龍人」に変身する事も出来るし「部分変身」も可能だ。試してみてくれ。」
「うむ。承知した。……変身、変身、変身。」
ヴェンデルが変身と呟くとだんだんとヴェンデルの体が黒くなり顔も人のものから元の黒龍のものに変化していき人型の龍となった。まさにこれぞ龍人といった姿だ。それを見てアステムは驚く。
「このような能力を与える魔法があるのか。」
「アステムよ。これは魔法ではなく科学技術と言うものだ。我が帝国の叡智の結晶である。」
「俺が死んでる間に世界は進んだという事なのか……」
悶々と悩むアステムは放っておく。ヴェンデルは元の人間の顔に龍のツノを生やしたり手や足だけを龍のものにしたりの色々な「部分変身」を確かめている。
「うーむ。普段であるならばこの姿が落ち着く。」
人間の状態から肌を鱗で黒くして龍のツノを頭に生やしたのをヴェンデルは気に入ったようだ。まるでアステムの悪堕ちバージョンとでも言うような出で立ちとなった。
「ふむ。半龍人といった所か。可能ならばずっとその変身を維持してくれ。」
そうすれば見分けがつくから。
と、ここでヴェンデルがアステムに歩み寄る。
「そうだ。……アステム」
「何だ?」
ヴェンデルはアステムに歩み寄ったかと思うとその頭にゲンコツを放った。
「痛っ! 痛いぞ! ヴェンデル。」
「お前の失態をゲンコツ1発で済ませてやろうと言うのだ。お前のせいで俺は数百年も封印されていたのだぞ。」
「それは……本当に済まなかった。ヴェンデル。」
「ふん。まあいい。だが俺にとてつもなく大きな借りがある事はわかったな?」
「ああ。それはわかってるよヴェンデル。……ああっ!? まさか!?」
「アステム。数百年の借りを返せ。我と共に龍空士軍団を統率するぞ。どのみち俺とお前は一心同体だ。断る事は無駄と知れ。」
「ぐぬう。……ヴァイスクラウド殿! なぜヴェンデルはあなたの帝国に従う。やはり友のこの心変わりは看過出来ぬのだ。」
負い目のあるヴェンデルを説き伏せるのは分が悪いと悟ったアステムは俺に突っかかって来た。
「アステムよ。わかった。その説明をしよう。そのためにまず帝国の鉱山都市へ移動する。3人とも俺に掴まってくれ。」
ジェシカとヴェンデルは俺の体に掴まる。アステムは嫌そうな顔をしたがヴェンデルが「ほら行くぞ。」とコピー分身を解除した。アステムはヴェンデルの手のひらに吸い込まれた。
その後俺達は跳躍した。
ー
俺達は鉱山都市の広場に降り立った。
今はもう夕方なので修理作業は中断しているが鉱山都市を見ると復旧は9割方完了していた。近くの施設、大酒場の破壊率を確認すると96%まで回復してる。よしよしこのペースで行けば復旧も早い内に終わる。
このままいけば今週中に復旧は完了して……残った日を使って構成員達のコンディションも回復して……そしてスライム3人娘達が捕獲した魔物も増えて……鉱山都市はさらなる発展を遂げるだろう。ふふっ、運営は順調である。
おっと。自分の世界に浸っていた。
その後、ヴェンデルがまた「コピー分身」と唱えるとアステムが現れた。アステムはこの鉱山都市を見て驚いている。
「なんて巨大な建造物だ! おわっ! 魔物達が人間のように過ごしている!?」
「アステム。驚き過ぎだぞ。 インテカ遺跡にも似たような建物があったし地の果ての国にも異形の生物の街があったであろう。」
「確かにそうだがお前は逆に落ち着き過ぎだぞ。」
ヴェンデルとアステムの2人の冒険の過去の話だろう。
「さて。アステムよ。先日、この都市は襲撃を受けた。見ての通りいくつかの建物は損壊したし少なくない住人がケガを負ったのだ。この惨劇の犯人は誰かわかるな? 」
「むっ。……もしかしてヴェンデルが?」
「その通りだ、アステム。俺がワイバーンに命令してやらせたのだ。だから俺とワイバーン達は罪滅ぼしのためにここで働いて帝国に尽くさねばならぬのは仕方のない事なのだ。わかったか?」
ヴェンデルが代わりに答えてくれた。
「なぜヴェンデルがそれを意気揚々と話すのだ。逆だろ。普通は。」
アステムはまだ疑いの眼差しを俺達に向ける。
「この帝国からは悪のオーラを感じるのだが……。」
勇者特有の勘という奴だろうか。まあ大体が当たりだが面倒だからなし崩しに持っていこう。
「ジェシカ、ヴェンデル。今日は君達をこの帝国に迎えるにあたって歓迎の宴を開きたいと思う。……安心しろ。ついでにアステムもだ。」
「あら、嬉しいねえ。」
「ヴァイスクラウド殿。有難い。」
「おい。ついでとは何だ。」
プリプリするアステムを無視して俺達は大酒場に向かった。
ふふっ。義のなんたるかも理解していない勇者とかいう肩書きを持つ若造には……帝国の道化が相応しい。
#0001基地(名も無き洞窟) 本拠地
構成員6人 (アステムをカウントすると7人)
#0002基地(ウィズダール山脈-中央6) 鉱山基地
構成員317人
#0003基地(古黒龍の洞窟) 魔石採掘基地
0人