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ガジェット・ワールド/プロローグ  作者: 饂飩滲みるは
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第ハッチ章

続けて書いてます。

 亜理紗ストリップ事件後、亮介と亜理紗はこの税関基地の警備方法を話し合い、亮介は水筒、弁当、白鞘の日本刀を持って街の探索に出かけ、亜理紗は別の日本刀を腰に挿して税関基地の門番に立ったのだった。


 今回の探索は、災厄3日目の街の様子を探る事と、ガジェットの回収、できれば自分達と一緒にコミュニティを作って行ける仲間を数人獲得してくる事だった。


まあ、亮介には当てが無い訳でもなかった。父方の叔父がこの街の総合病院でインターンをしているのだ。


 鋼伝寺邦之=前回のオリンピックのアーチェリー日本代表にして駆け出しの外科医である。洋弓の使い手で、一応頼りにはなりそうなんだが、人格に難がある。(女癖が非常に悪い)


『誰も居ないより、よほどましなんだがな』

 かれはそう思い込み病院を目指して歩き出した。邦之叔父は病院付属の寮で暮らしている。


 港の税関基地から、この町の総合病院までは、繁華街を抜ける事無く行き着くことが出来る。それでも道筋の個人住宅は、所々荒らされて住人の気配はしなかった。


 亮介は道端に討ち捨てられた乗用車やオートバイなどをガジェットに分解しながら総合病院を目指して歩いてゆく。


 数箇所で、人相の悪い男達が数人、たむろしながら亮介を粘着質な視線で眺めていたが、

背中に背負った白鞘と筋肉隆々な彼の姿を目にして、襲ってはこなかった。

 亮介はそんな様子を確認しながら、総合病院の独身寮に到着いた。


「おい、そこの男。それ以上ここに近づくんじゃない!」

 亮介は寮の手前15メーター付近で呼び止められた。


 声のした方向、独身寮の4階のベランダには、邦之叔父らしき人間がアーチェリーに矢をつがえて亮介を見下ろしていた。


「おーい、叔父さん、撃たないでよ」

 亮介は両手を上げて邦之にアピールする。


「俺はおじさんと呼ばれるほどの歳じゃねえぇ! 若干30歳のイケメンお兄さんだぁあぁ!」

 邦之の怒鳴り散らす声に亮介はそっと眉間を押さえた。


「そうじゃなくて、あんたの甥っ子の亮介ですよ!」

 彼はイライラした声で言い返した。


「ん? 亮介だって? お前Tシャツの下にプロテクターでも着てんのか?」

 4階のベランダから疑わしげな声が返ってくる。


「レベルアップして体つきが変わっちゃったんですよ! そっちに上がっていってもいいですか?」

 亮介は両手を広げて説明した。


「へ~、そうだったか。じゃあ、上がって来いよ」

 邦之は洋弓につがえていた矢を下ろして彼に手まねで上がってくるよう促した。


 亮介は総合病院の独身寮を最上階の4階まで上がって行った。


 4階の踊り場には綺麗なおねいさんが待っていて、彼を邦之叔父の部屋まで案内してくれた。そこには、Wベットの上であられもない姿の4人の女性に囲まれた邦之がいた。女性達は全員素っ裸で、邦之はそんな女性の身体を弄んでいた。


「やあ、亮介。いい世界になったもんだよな」

 彼は薄っすらと笑いを浮かべながら言った。


「叔父さん、頼むから彼女達に何か着るように言ってよ」

 亮介は目のやり場に困って、邦之に頼んだ。


 叔父は昔から女に見境のない性格だったが、世界がガジェット化してから、その傾向は助長されてるようだった。


「しょうがないなぁ、ちょっと君達パンティか何か履いておいてよ」

「「はーい」」

 女の子達は、邦之の言葉に素直に従って隣の部屋に消えていく。亮介はほっとしてベットの脇のソファに腰を下ろした。


「あの子達は、何なんですか?」

 亮介は邦之をジト目で睨みながら言った。


「ああ、僕が保護している看護婦や女医さんだよ。物騒な世の中だからね」

 確かに邦之はイケメンで女にモテまくる人種だ。本人もそのことを自覚してるのが尚悪い。


「3日前、文明の利器が全ておもちゃに変わちゃった時は、ビックリしたよ。いわゆる異世界物ってやつ? 病院の機材は全部ガジェット? になっちゃうし、薬も漢方薬と生ワクチン以外は全て駄目。どうやらオートメーション設備で生産される物は全てガジェット化するみたいだね」

 邦之は口をへの字に曲げながら言った。


「最初の日に何人人を殺したか分らないよ。何せ職人が作ったメスと消毒用のアルコール、麻酔用のエーテル位しか残ってなかったからね」

 顔を歪ませて話す邦之を亮介は黙ってみていた。


 医者の使命感がこの災厄でとことんまで試されたのが窺い知れる。


「そして、僕は気付いたんだ。いつの間にか如何わしい呪術師やエセ・サイキック・ヒーラーみたいに患者を治療できることにね」

 邦之はサラッと衝撃的な事を言った。


「ええっ、叔父さんそんな事出来るの?」

 亮介は驚いて叫んでいた。亮介ができるガジェット練成はゲームに於いては『付与魔術』に相当する。対象の素材の性質を変化させる能力である。しかし、叔父は素材ではない人間の身体に術を施す事が出来ると言う。


 彼は今まで試した事が無かったが、人間はガジェット化しているにも関わらず術が施せるのかもしれない。


「うん、できるよ。でも、僕以外の人には無理だろうね。他の先生は僕ほど人殺しをしていないし、レントゲンのガジェットやCTスキャンのガジェットを吸収できなかった、最も重要なのは、僕ほど人を助けたいと思わなかっただろうからね」

 邦之は何食わぬ顔で言った。


「それに、病院にある薬は粗方僕がガジェットに分解して集めちゃったからね」


 亮介はRPGにおけるいわゆる『治療師=ヒーラー』が目の前にいるのを発見した。


「それで? なんで叔父さんは病院の方じゃなくて寮なんかにいるの? 患者さんは?」

 亮介は素朴な疑問を口にした。


「ん~、病院にはもう誰もいない。昨日の午後にね、病院に備蓄されている非常食を狙って来た賊に襲われて、皆死ぬか逃げるか……兎に角、誰もいなくなったのさ。

 僕は幾ばくかの食料を持って彼女達を保護しながら、寮に立て篭もったって訳」

 邦之は肩をすくめて言った。


 叔父の話を聞いた限りでは、とてつもない美談である。彼は正義の味方だ。だが……


「叔父さんの話を聞く限り、とっても良い話に聞こえるけど、それでさっきのように全裸の女の人に奉仕される場面とは直接結びつかないんだけど?」

 亮介はジト目で叔父に質問した。


「アッハッハ、そんなことか? 僕が女に極モテするからってことじゃ駄目かい?」

 邦之は可笑しそうに笑って言った。


「叔父さん、此処でさっきの女の人達と一緒に何日ぐらい暮らしていけるの?」

「ん? そうだなあ、1ヶ月位かな?」

「その後はどうするの?」

「昨日の今日だから、まだ考えてないよ」

 邦之は頭をぽりぽりと掻きながら言った。


「実は俺、仲間を探してるんだ。港のね、税関跡を占拠して、10人程度の人数なら1年ぐらい生活していく物資を確保した。だから信用できる仲間が必要なんだ」

 亮介は真剣な眼差しで言った。


「ふむふむ、それで僕を誘いに来たって訳か? 我が甥ながら目の付け所がいいねぇ。僕は喜んで協力するよ」

 邦之は顎を指で摘みながら、まんざらでもない様子で答えた。


「だが、問題が一つある。それは、叔父さんがどんな女の子にも見境無く手を出す事だ!」

 亮介は邦之を指差すとビシッと言い放った。


「えぇぇ~! 亮介お前、僕の事そんな目で見てたのぉお? それって、酷くない?」

 邦之は自分の頭をガシッと両手で挟み込むと心底驚いた表情で仰け反る。


「俺は叔父さんの事、学生時代から見てきた。そして、叔父さんの毒牙に掛った無数の女の子の事もね。

 今、俺達のグループには長壁亜理紗っていう俺の彼女が居るんだ。叔父さんを仲間にすることで亜理紗に危険が及ぶなら、叔父さんを仲間にすることは断じて出来ない!」

 亮介は拳を固めて叫ぶように言った。


「あのさあ、亮介。お前さっきから僕の事『本物の変質者』若しくは『色狂いの野獣』って思ってない?」

 邦之はこめかみを押さえながら言った。


「残念ながら、思ってます! うかうかしたら姪の『つばき』やお母さんまでも美味しく食べられちゃうのではないかと……」

「ストッッープッ!!」

 邦之は大声で亮介の言葉を遮った。


「りょ、亮介君……僕は義姉さんや姪にまで手を出すような、は、犯罪者じゃ無いと思うんだがね……」

 邦之は手をワナワナとさせながら言葉を続けた。


「……でも、さっきの様な光景を見せられちゃうとなぁ……説得力ないよなぁ」

 亮介は明後日の方向を向いて言った。


「少々誤解しているようだから、君にだけは教えよう。彼女達は僕のドレイン・ヒールの治療を受けて『魅了』状態になっているんだ」

 邦之はむっとしながら言う。


「え? 『ドレイン・ヒール』? 『魅了』? 何その『厨二病』の様な名前?」

 亮介は驚いて聞き返す。


「彼女達4人は、昨日の襲撃の時、致命傷を負って死に掛けていた。そのままでは助からなかった。僕は医者としてなんとしても彼女達を助けたかったから、ヒールを施したんだが、ヒールで直るような怪我じゃなかった。

 亮介ももう知っている通り、レベルアップによる肉体修復を使えば或いは、4人の内1人ぐらいは回復したかもしれない。他の3人を犠牲にしてね」

 邦之は真面目な顔で言った。

「だが、僕は彼女達全員を助けたかった。そうしたら、突然彼女達を助ける事が出来るようになっていたんだよ。多分僕のレベルが15以上に上がった為であるみたいなんだが……とまり、僕は彼女達の命を救った。僕の『レベル』を犠牲にしてね……

 頭の中で『ドレイン・ヒールを行います。よろしいですか?』って声が聞こえ、OKを選択すると『彼方のレベルがひとつ下がりますが、よろしいですか?』って声が聞こえた。僕がOKを出すと数種類のガジェットが消えて彼女達が助かったんだ。

 僕はレベルダウンの事など気にせずに次々に彼女達を救って行ったんだが、どうやら『ドレイン・ヒール』を施すごとにレベルアップ経験値の約50%が加算されるらしく、4人を救った時点で4レベルダウン、2レベルアップでトータル2レベルダウンという結果だったよ。

 夢中になって彼女達を救った後で、彼女達の状態をチェックしたら『魅了』という状態になっていて、ちょっと『ラッキー』と思ったのは正直な処だ」

 邦之はゆっくりと噛んで含めるように亮介に語った。


「……何となく、経緯は納得しました。でも、『魅了』って、叔父さんでも治療出来ないんですか?」

「ああ、どうやら出来ないみたいだ」

 邦之はガックリと首をうなだれて答えた。


 しかし、亮介には見えない邦之の唇に笑みがこぼれたのは、内緒である。


「分りました、疑ってすいません。叔父さんさえ良ければ、僕らのグループに合流してくれませんか?

 正直言って、税関施設は広すぎて、僕一人じゃ守り切れそうもないんですよ。それに、ガジェットの事についても、分らない事だらけで、叔父さんにもその解析を手伝って貰いたいんです」


「そうか、僕の事信用してくれたか。それじゃ早速荷物をまとめてお前の縄張りに移動しよう」

 邦之はそう言うと勢い良くベットから立ち上がった。



鋼伝寺亮介・総合レベル10

 肉体強化レベル3

 スキル=暗視・ステータス・アナライズ

 レベルアップボーナス、4


長壁亜理紗・総合レベル3

 肉体強化レベル3

 レベルアップボーナス、0


鋼伝寺邦之・総合レベル14

 肉体強化レベル12

 スキル=暗視

 固有能力・ヒール・ドレインヒール

 レベルアップボーナス、3


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