第ジュッニャニャ章
体調回復してきました。決してスランプじゃないんだからね@@;
邦之は目の前にうず高く積みあがった2つのガジェットの小山をぼんやりと眺めていた。
2つの山は田村と吉田の成れの果てである。邦之は約束を反故にして田村と吉田を葬ったことに何の痛痒も感じていなかった。
邦之には、人間の生き血を啜るダニやヒルに同情する心などはこれっぽっちも持ち合わせが無い。
『それに、俺達についての情報を敵に与える訳が無いだろう? そこんとこに気づけよバーカ』と、邦之は心の中で呟いた。
問題は田村と吉田が暴露したカニバル集団の内容だった。奴らの総数は50人前後、しかも集団を束ねるのは邦之と同業の元医者らしい。
想像するに、人間を監禁して手足を切断し、ヒールで元に戻してその手足を食料にしているのだろう。人間の素材となるガジェットがあれば、それは十分可能だ。
だが、人間としてそれはやってはいけない行為だと邦之は思っている。仮に食料が無くなった状況でも、邦之は自分の手足を切断して他の人に供出するだろう。決して自分以外の人間を生贄にはしない。いや、本当にそうだろうか?
邦之が洋子達に自分の身体を切り刻んで与え続けるとして、洋子達はどう思うだろうか? 洋子達は邦之だけに苦痛を強要することを良しとしないのではないか? 『邦之様だけが苦痛に甘んじているのが心苦しいので、私達も平等にその苦痛を受けます』と言って、『自らの手足を切り落として使ってください』と言うのではないか?
手足を切り落としても完治すると分っていれば、『誰が痛い思いをするか』という選択だけだ。順番にというルールでも皆は納得するに違いない。
極限状況が訪れなければ、邦之にもどうなるか分らない。
だが、一つだけ言えることがある。
『他の人間を狩っちゃだめだろ』
しかも、田村たちは淡々と組織的に『人間狩り』をしていた。そこには思いやりとか近しい人を心配する気持ちは微塵も無い。
兎に角、邦之はカニバル集団に付いての現在知りえた情報を『ラブ』に持ち帰って亮介達と対応を協議する事にした。邦之・可奈・洋子の3人だけで真昼間から敵の本拠地を偵察するのは、危険度が高すぎる。
「可奈、洋子、ガジェットの残りを回収しろ。終わったら西の山沿いまで偵察してから『ラブ』に帰還する」
邦之はそう言ってもと来た道を戻り始めた。
可奈と洋子は慌ててガジェットを回収すると邦之の後を追った。
◇ ◇ ◇
邦之・可奈・洋子は、市の西側へと続くバス通りを周辺を注意しつつ進んでいた。昨日まではちらほらと人の気配がした筈だが、今日はその気配が無い。路上のガジェットの吹き溜まりも綺麗サッパリ無い。
『カニバル集団が回収したのだろうか?』
邦之は自問してみたが、この徹底的な回収具合は腑に落ちなかった。
ガジェットを回収する事は可能だった。手で触れば空気に溶けて消えてしまう(実際は触った人間が吸収している)のだが、布などで手を覆い掴む事もできる。重量は非常に軽く、両手一杯掬っても羽毛と同じくらいの手ごたえしかない。
非常に嵩張る為今までは、ある程度纏まっていれば素手で触れてなるべく回収してきたが、点々と砂利の様にまばらに落ちている物は無視してきた。勿論、召還の核となる空中に浮かんだものは漏れなく回収の対象だった。但し、それを回収できるのは今のところ『ラブ』では、邦之と亮介だけだった。
それが徹底的に回収されている。果たして人力でそこまで回収できるのだろうか?
邦之はどんな些細な痕跡も見逃さないよう細心の注意を払いながらバス通りを進んでいた。
現在3人が進んでゆくバス通りは、市を東西に分断する幹線道路だった。市の北西に造成された新興住宅街と市の中心を結ぶ道路で、西の端で山裾にぶつかり、折り返していく。
住宅は市の中心から建設されてきて、山裾の折り返し点付近は、まだ住宅は疎らだった。
邦之達は、その折り返し点200メーター程手前の小さな川に掛かる橋の上に丸太で組んだバリケードがあるのに気が付いた。
アスファルトの照り返しで陽炎が立ち、ゆらゆらと歪んで見えている。邦之達は慎重にバリケードに近づいて行った。
「それ以上、近づくな! 近づいたら攻撃するぞ!」
邦之達がバリケードに後50メートル地点に到達した時、内側から野太い男の声が聞こえた。邦之はその場で立ち止まる。
「おいおい、待てよ。何で僕らが攻撃されなきゃなんないんだ?」
邦之はバリケードの向こうの男に声を掛けた。
「お前らは、駅前モール街のグループだな? 騙されないぞ!」
バリケードから男のそう言う声が聞こえ、キラキラと光る何かが飛んできて『パシュッ』という金属的な音を立てて邦之の足元で砕け散った。
『ガラスか?』
邦之のブーツには小さな破片が数個突き刺さっていた。多分、ゴム・スリング・ショット(ゴムパチンコ)か何かで発射されたのだろう。侮れない威力だ。
「待て、お前達、勘違いするな。人違いだ」
慌てた邦之は右手を上げてバリケードの男に大きな声で言った。男は直ぐに返事をせず。仲間と何か話し合っているようだ。
「モール街の仲間じゃなかったら、何処の馬の骨なんだ?」
2呼吸ほどして男の声が言った。
「……俺達は東の埠頭に非難しているグループだ。この街の状況がどうなっているのか偵察をしている。出来れば、お互いに情報交換をしないか?」
邦之は拠点の場所を暴露する事に多少ためらったが、そもそもこの偵察行も『ラブ』の防衛の為、人材スカウトが目的である事を思い出して返事を返す。
再びバリケードの内側で数人が相談する気配がした後、バリケードの上に一人の屈強な男が上半身を覗かせた。
「俺は松山仁と言う。お前の名前は?」
男は邦之に向かって言った。
「鋼伝寺邦之だ」
邦之も名前を名乗る。
「えっ!? もしかして町外れの市営病院の先生か?」
男は驚いたように言った。
「ああ、もう病院は無いがな」
邦之は答えた。松山は邦之の事を知っているようだが、邦之は松山に見覚えは無い。たとえ知ってたとしても、レベルアップ等で以前の面影が残っていない可能性が多々ある。
「それは、すまない事をした。行き成りこんな世の中になっちまった所為で、他人はまず疑ってかかれって何時も仲間に言ってるんでな。取り合えず危害は加えないから、もう少し近くまで来てくれないか?」
松山は頭をポリポリと掻きながら、申し訳なさそうに言った。
邦之は可奈と洋子に待機するように命じて、スタスタとバリケードの方に近づいていった。そして、バリケードから10メートル位の処で立ち止まった。
「改めて、お互いに情報交換をしよう。交互に質問をし合って、都合の悪い事はノーコメントでいいか?」
邦之は松山に向かって言った。
「ああ、それでいい。では其方から質問してくれ」
松山は、がっしりとした顎に疎らに生えた顎鬚を左手で弄りながら言った。
「なんでバリケードを作ってるんだ?」
邦之は首を傾げて聞いた。
「はははっ、ガジェット化? それ以降トチ狂った奴らが徘徊し始めてるから当然の防御だろう? お前らは無人地帯に立て篭もってるようだが、市内は様々な集団が殺人や略奪をしているんだ」
一言で笑い飛ばされる。
「それじゃ俺の番だな? 鋼伝寺先生、あんた怪我人は直せるかい?」
松山は期待する様に言った。
「勿論、できるさ」
邦之がそう答えると、松山の顔が喜びに綻んだ。
「怪我人は何人位いるんだ?」
邦之がそう聞くと、松山は一瞬逡巡した表情を浮かべると答えた。
「……15人だ」
「僕をそこに案内しろ。診察する」
邦之は反射的に答えていた。




