第ジュッイッ章
「はぁはぁ、ぜぃぜぃ」短いですが、書きました。
読んでくださいm(__)m
亮介は邦之と別れて、身を隠しながら慎重に隊舎を大きく回りこみ、西側の倉庫に向かった。
亮介は、まだ高校生(世界が崩壊しなければだが)で、お互いに必殺の武器を持ち、実際にそれを相手に使用するなどという経験は全く無い。一般的にそうだろう? 自衛隊(軍隊)という処は、亮介の様な暴力否定教育を受けてきた人間を、いったいどうやって人殺しも已む無しとういう人間に作り変えるのだろうか? 亮介にはそれが不思議でならなかった。
だが、今はそんな事を気にしてる暇は無い。邦之の命が掛っているからだ。その延長線上には、母や妹、亜理紗の命も掛けられている。
自分が大事にしている『ガンプラ』や『フィギュア』がバットで壊されそうになっている時に、思わず手を出して庇いたくなる心理そのままだった。自分の手がどうなるかは後で考えればいい…………亮介の今の心境はその様なものだった。
暗闇でも見通せる目を持った亮介は音を立てずに闇の中を警戒しながら進んだ。
しばらくそうやって慎重に移動していると、自衛隊の正門から真っ直ぐの隊舎玄関にかがり火が焚かれ、2人の歩哨が立っているのが見えた。だが、歩哨はだらだらとお喋りをしながら警備をしていて、30メートルほど離れた路上を素早く横切った亮介には全く気付かなかった。
亮介は食糧倉庫の裏手に回ると、手ごろな隠れ場所が無いか、辺りの様子を観察する。
倉庫は亮介が訪れた時のまま黒々とした姿を見せていたが、外装の波トタンは全てが木の板に取り替えられていた。
亮介は倉庫の背後に立つナイター用の水銀灯の鉄柱を発見すると、それににするすると登り、最上部にあるキャット・ウォークにしゃがみ込むと、息を殺して下の様子を窺がった。
地上15メーターの此処からは、下の様子が良く見える。隊舎の屋上より若干高い。
倉庫の前には焚き火が焚かれ、4人の兵士がボウガンを手に歩哨に立っていた。
隊舎の1階部分の全ての窓からは、ランプの明かりが零れ倉庫の前を照らしている。2階部分の窓にも隠微な明かりが見え、男と女がお楽しみの最中である様だ。3階には明かりの漏れる部屋は1つしか無かった。
ランプの光が漏れている部屋に人が全ているとすれば、人数は300人前後だろう。
『えーっ……俺一人でこいつ等相手にするのかよ?』
亮介は心の中でぶちぶちと呟いた。
まだ夜の9時を過ぎた時間で、隊員は殆んどがまだ寝ていないだろう。こんな所に爆弾を放り込んだら蜂の巣を突いたような騒ぎになるのは明白だった。
しかし、騒ぎは起こさなければならない。
亮介はたじろぎながらも、30メーター以上離れた背後の松ノ木にフック付きのロープを投げつけ、松の幹とキャット・ウォークの間に脱出用のロープを張り渡した。いざとなった時の脱出路を確保しておく為だ。
亮介はドキドキする胸を宥めながら、肩から洋弓を外すと左手で構えた。右手の腕時計をチラッと見るともう打ち合わせした時間だった。
彼は矢筒から反しの無い爆発性の矢を取ると倉庫前の焚き火を狙って発射した。
矢は鋭い風きり音と共に焚き火に突っ込み、『ドカンッ』という腹に響く爆発音と共に爆発する。
近くに立っていた歩哨の一人が、火の粉を浴びて火達磨になった。
「敵襲だ! 爆弾だぞ!」
他の歩哨が壁に張り付いて大声を上げる。
「敵はどこだ!」
亮介は無我夢中で二の矢をつがえると、まだ大きく燃え続ける焚き火の残りに2射目を射ち込んだ。再び大きな爆発音がして、炎が飛び散り倉庫前が薄暗くなる。
すると即座に隊舎の1階の窓全てと3階の窓が開かれ、そこからかなりの数のボウガンが突き出される。それらは襲撃者を探して上下左右に獲物を探して振り回されていた。その数は全部で20丁以上ある。
『あ、あんな数のボウガンに狙われたら……洒落になんないだろ……』
亮介は冷や汗を流しながら、反しのある貫通の矢でボウガンをもった隊員を狙い撃ちにし始めた。1人、また1人と亮介の矢が兵士達に命中してゆく。
「弓矢だぞ! 射線は右上だ、探せ!」
指揮官らしき男の声が、亮介の矢が飛んでくる方向に気付き的確な指示を出してきた。
『……もしかして、俺やっちまった? 爆発の矢のままの方が良かったんじゃね?』
亮介は青い顔で再び爆発の矢を打ち始めた。
矢は窓から飛び込み、部屋の中で爆発して2~3人を纏めてなぎ倒してゆく。如何せん、多勢に無勢である。矢の発射速度も1秒に1射が精々なのだ。
「いたぞ! 照明塔の上だ!」
誰かが亮介を発見して声を上げた。
途端にボウガンの短矢が一斉に亮介に向かって発射された。
数十本の矢が唸りを上げて亮介を目掛け飛んできて、彼は『ヒィ』と短い悲鳴を上げた。
矢の数本は亮介が遮蔽物として利用していた水銀灯を破壊し、亮介の姿を丸裸にする。また、他の数本が急造されたプロテクターに浅く突き立ち、亮介の睾丸は恐怖で縮み上がった。
亮介は恐慌に駆られて、目暗めっぽうに爆発性の矢を乱射した。それでもボウガンの矢は、どんどんと彼を目掛けて飛んでくる。
亮介は無我夢中で矢を撃ち続けた。頭の中で『人間=鋼伝寺亮介はレベルが上がりました』という声を何度も何度も聞いたような気がする。
奇跡的に致命的な矢は受けなかった。キャット・ウォークの金網状になった鉄板が、下からの短弓の半分以上を防いでくれたのだ。
目暗射ちする亮介に向けて、倉庫の影から細長い棒の様なものが、ねずみ花火のように火花を撒き散らしながら飛んできた。
それは彼の手前5メーター位のところで、紅蓮の炎を空中に振り撒きながら大爆発を起こした。彼は爆風でキャット・ウォークの手摺に背中をしたたかに叩きつけられた。
『……ダイナマイトだ』
チカチカする頭を左右に振りながら、亮介は声に出さずに呟いた。耳がキーンとして鼻の中には錆び臭い匂いがする。
『これ以上は無理だ』
彼はそう判断すると松の幹に渡したロープに洋弓を引っ掛けて、照明塔の足場から一気に脱出する。
彼はかなりのスピードで地面に打ち付けられたが、全身に脂汗を滲ませながら一刻も早くここから逃げ出そうと脱兎のごとく駆け出した。
「やったかー?」
「いや、逃げ出したぞ!」
「深追いはするなぁ」
などの声が背後からするが、ダイナマイトでつんぼになった亮介の耳には全く届いていなかった。




