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ガジェット・ワールド/プロローグ  作者: 饂飩滲みるは
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第ジュッ章

残酷な描写があります。

 亮介は急造のブレスト・プロテクターを皮ベルトで胴体に固定した。野球のアンパイアみたいな格好だが、Tシャツよりましだろう。


「邦之叔父さん、レベルアップ可能権利は残してあるんですか?」

 彼は背中に白木の日本刀を背負いながら邦之に聞いた。


「ああ、3回分は残してある。って言うか、その呼び方嫌だから、昔のように邦ちゃんでいい」

 邦之は30本程の屋が収まった矢筒を確かめながら答える。


「邦ちゃんも夜目は利くんですよね?」

「ああ、使えるよ、お前のものとは原理が違うが」

「どんな原理なんですか?」

「ん? 僕のはエコー・ロケーション。超音波の反射波を映像化する」

「ほほう……」

 流石は病院の機材を吸収しただけはある。


 亮介は偵察に出るにあたって、練成で武器に能力付与を施してあった。洋弓の矢は半数が貫通の能力、残りの半数は爆発の能力が付与されている。矢の先端が鋭いものが貫通、丸いものが爆発だ。邦之の持つもう1振りの日本刀にも振動刃が掛けてある。


 二人は防空頭巾(?)の出来損ないの様なものを頭に被り、顔に靴墨を塗りこむと『ラブ』のゲートから街へと出て行った。


 2人の着ているものはほぼ真っ黒だった。時刻は午後8時を過ぎており、町並みは暗黒に沈んでいる。彼らを見つけることが出来るのは、亮介のように赤外線暗視装置をガジェットに分解した者か、邦之の様に超音波診断機を分解した者にしかできないだろう。


 2人はまず、大本命の自衛隊駐屯地に向かった。


『僅か10日でこんなに変わるものなのか』

 亮介は住宅街を抜けながらそう思った。


 自動車・バイク・自転車の類は、街から完全に姿を消し、大量生産の新建材で建てられた住宅は殆んど瓦礫の山と化していた。

 未だにガジェットの使い道が分らない人間が多いのか、あちこちにゴミのようにガジェットが打ち捨てられている。


 2人はそんな夜の街を楽々と通り抜けて行った。かがり火や松明が見えるとルートを変え、30分ほどで自衛隊の駐屯地に到着した。


 駐屯地には既にフェンスは無かった。何処からでも敷地に侵入できる。2人は東側で住宅に接した付近から敷地の中に入って行った。

 藪は避け、植え込みを隠蔽物に使いながら隊舎に近づいてゆくと、邦之が亮介を制するように手を挙げた。


「気をつけろ、鳴子が仕掛けてある」

 邦之はそう言って膝のあたりに張られた細いロープを指し示した。念の入った事に、人間の歩幅より少し狭い間隔で4重に張られている。ノクトビジョンでは判別しにくい。


 亮介が4本を纏めて飛び越えようとすると、たちまち邦之に首根っこを掴まれて止められた。


「お前は馬鹿なのか?」

 そう言いつつ邦之が指し示すところを見上げると、180センチ位の高さにもう1本黒いロープが張られていた。


「やべぇ、リアル自衛隊はんぱねぇ」


 2人は背をかがめ蟹の様に横向きに慎重にロープを跨いでゆくと、先に跨ぎ終えた邦之が小さく苦痛の声を上げた。


「……芝生の中に五寸釘が埋まっている。ロープを跨ぎ終わったら、足を持ち上げないで摺り足でジリジリ進むんだ」

 亮介は邦之のアドバイスで足の指を尺取虫のように伸び縮みさせて慎重に進んだ。確かに地面から五寸釘が2センチほどの高さで生えている。芝草が伸びているから気が付かないのだ。


 2人は幅2メートル程の五寸釘トラップ・ゾーンを抜け、ため息を付いた。


「やるなぁ、ヒールが使えなかったら、歩行に障害が出る。しかも、釘が錆びてくればもっと効果が高くなる」

 邦之は自分の左足にヒールを掛けながら呟いた。


 2人の位置から隊舎までは、まだ30メートル程の距離がある。隊舎は3階建てで、2人から見る側には窓に明かりは見えない。


「邦ちゃん、どうする? 情報を手に入れるにしても、そんなに都合よく作戦会議とかしてるかなぁ?」

 亮介は邦之の方を見て言った。


「これだけ、周到な奴等だ、日中は街に偵察隊を出し、今ぐらいの時間はその情報を集計しているはずだ。軍隊では、必ず情報担当の人間がいる。そいつを見つけ攫って来る」

 邦之は簡単そうに亮介に言った。


「お前にはまだ言ってなかったが、僕はヒール以外にもやばい力が使える。『麻酔』と『毒殺』だ」

 邦之の言葉に亮介は唖然とした。


「いいか、亮介。僕は隊舎の中に侵入し、司令部を見つけ自衛隊の高官を『魅了』で仲間にする。お前はこの前忍び込んだ倉庫の辺りで騒ぎを起こせ。奴らは必ず非常食料が保管されている倉庫に見張りを置いているはずだ。僕はそのドサクサに紛れて司令部を強襲し、情報将校を『魅了』する」

 邦之の作戦に亮介はゲンナリした。


『俺はオトリかよ』と心の中で呟いた。


「倉庫の見張りには多分4人程の人数が立っている筈だ。お前は5分位騒ぎを起こしたら全力で基地の外に脱出しろ。僕は後で合流する」

「合流する場所は?」

 亮介は直ぐに聞き返す。


「そうだな、つばきがアルバイトしてたというファミレスの前にしよう。亮介が倉庫前で撹乱を始めるのは今から15分後にしよう。言っておくが、攻撃を受けたら情け容赦なく相手を殺すんだぞ? どうもお前らは現実感が希薄でいかん」

 亮介は邦之に念を押された。


 2人はお互いの腕時計(邦之が『ラブ』に合流した時に亮介に貰ったタグホイヤーの腕時計)を確認すると、二手に分かれた。


 邦之は素早く隊舎に駆け寄ると、背中の日本刀を抜いてコンクリート製の壁を豆腐でも切るように繰り抜き始める。有事の際に防壁として使用できるように作られただけあって壁の厚さが尋常ではない。それでも1メートル四方の壁を繰り抜くと、邦之は建物の中に侵入した。


 邦之は内部に入ると部屋を仕切る間柱に手の平を当てて『聴診』の能力を使用する。柱を伝わる振動を増幅して人の気配を探る。

 ここは隊舎の東棟、食糧倉庫はコの字状に作られた隊舎の西側、案の定倉庫守備の為隊員は西棟に集まって寝起きをしているらしい。


 邦之は手近の階段を音も無く3階まで上った。


 邦之は3階の廊下を音も無く西棟に向けて進んで行った。彼は『コ』の縦棒の部分玄関棟に曲がる角で立ち止まり、柱の影から西棟の方を盗み見る。幸い西棟への曲がり角に歩哨は立っていない。


 邦之は玄関棟の廊下を風のように駆け抜け、再びその角に張り付いた。そっと覗くと10メートルほど離れた部屋の前にボウガンを持った歩哨2人が立っていた。廊下はランプの明かりで明るく照らされている。


 邦之は身を隠した柱に『聴診』を掛けた。

『部屋の中に10人か……』

 頭でそう考えると、腕のタグホイヤーで時間を確認する。


 亮介と打ち合わせた時間まで後3分ある。邦之は肩に掛けていた愛用の洋弓を手に持ち変えると、矢をつがえてジッと待った。

 程なく、隊舎の外=食料倉庫の方から大きな爆発音が響き、『襲撃か?』『爆弾?』『そんな馬鹿な!』様々な声が聞こえる。亮介が撹乱を始めたのだ。更に続く爆発音。

 邦之が柱の影から覗いていると、扉が開け放たれて8人の男女が部屋から飛び出してきた。


「お前ら2人はこの部屋の窓から、ボウガンで敵を狙撃しろ。我々は階下に降りる」

 隊帽に2本線が付いた上官らしき男はそう言うと、他の7人を連れ奥の階段を駆け下りて行く。


 廊下に居た歩哨は慌てて部屋の中に走りこんだ。それを見ていた邦之は、すかさず部屋の扉まで走り寄った。

 部屋の中には4人の人間がいる筈だった。


 邦彦は肩膝立ちで背後から素早く矢を射掛けた。オリンピック代表は伊達ではない。邦之は1秒間に2射という速さで、4人の背後から正確に心臓を射抜く。


 人間の『死』は脳に酸素が供給されなくなってから30秒ほどで訪れる。矢の様な低速で標的に衝撃をあまり与えない武器では、延髄を正確に打ち抜かない限り、頭への攻撃は控えた方がいい。頭に矢が刺さりながら、普通に動き回れるからだ。その点心臓は、心膜内に出血すると心タンポナーゼを起こして数秒で心臓は停止する。


 4人の中の一人、さっき廊下に立っていた歩哨の片方が背中の矢を折ると、胸から突き出た鏃を引き抜き邦之の方を振り向いた。そいつはレベルアップ権利を残していた奴に違いない。驚愕した表情で邦之を睨むが、邦之が飛び込みざまに振るった日本刀の一閃で首と胴を切り離されて無常に床にくず折れた。


 邦之は床に倒れた人間の中で唯一の女性を抱き起こして、胸から生えた矢を抜いた。年齢は34~5と年増女だったが、むさ苦しい男を助ける趣味はない。胸からは勢い良く小指ほどの血の噴水が飛び出す。


 邦之は女の胸に手を当てて『レジスト・ヒール』を掛けた。

 頭の中にあの声が聞こえた。


『ドレイン・ヒールを行います。よろしいですか?』


 邦之がOKを選択すると『彼方のレベルがひとつ下がりますが、よろしいですか?』それにもOKを選択する。すると視界の隅でガジェットが消費される気配がして、女の傷が癒された。


 女が彼の首に腕を廻して唇に吸い付いてくる。邦之は儀式なので仕方なく30秒ほど女の舌を弄んでやった。その間に他の3人が死亡したらしく、『人間=鋼伝寺邦之はレベルが上がりました』という声が頭の中に3回響いた。こいつ等も其れなりにレベルは高かったのだろう。レベル14の邦之が3つもレベルが上がるとは……。


「お前の名は何と言う?」

 邦之は強引に女から唇を外すと、名前を尋ねた。


「今田洋子です。ご主人様」

 洋子の瞳は霞が掛ったようで、邦之にひたと向けられていた。


「これからここを脱出する。お前は遅れないように俺の後を付いて来い」

 邦之は傍らに出来たガジェットの山を素早く回収しながら言った。


 部屋を出ようとした邦之は、テーブルの上に広げられた地図を引っ手繰ると手早く畳んでズボンのポケットにねじ込んだ。

 邦之はまだ階下で怒号や悲鳴が交錯する中、『魅了』された洋子を伴って、侵入した経路から脱出を始めた。


鋼伝寺邦之・総合レベル16

 肉体強化レベル12

 スキル=暗視

 固有能力・ヒール・ドレインヒール・聴診・麻酔・毒殺

 レベルアップボーナス、6

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