35.
「蓉一さん」
身長も吉鷹より高く、幅は倍以上ある巨体を見ると、幼いころからの条件反射で顔がほころび声が弾む。
蓉一はいちど床に膝をついて叔父であり当主でもある飛梢に頭を下げると、巨体に似合わぬ敏捷さで道場の雨戸を閉め始めた。
あわてて吉鷹も立ち上がり手伝う。お互いに幼少時より手慣れた作業だから動きに無駄がない。
てきぱきと雨戸を固定しながら、他愛のない話を吉鷹が一方的に続けるのに、蓉一は言葉は少ないながらも、しっかりと頷き、応じてくれる。
蓉一といると無条件で甘えたくなるし、じゃれつきたくなってしまう。
初対面の時から、大きくて優しい人とひとめで好きになってしまい、甘えん坊の仔犬のようにじゃれて、抱き着いてしまった記憶がうっすらとある。
実際、蓉一は防衛省のキャリア官僚でありながら、つねに現場の最前線を飛び回っており、部下からも絶大な信頼がある。世界のどこの国、どこの文化圏へ行っても異様なほど男にもてる。ただし、女性には不思議なほどもてない残念な面がある。
ふたりで雨戸を閉めて志摩津本家の食堂に向かうと、すでに志摩津本家の翼生――つまり蓉一や松芳たちの父親、と飛梢がビールを飲み交わしていた。
食卓には唐揚げととんかつが山のように盛られている。体力馬鹿の男ばかりの所帯だから、全員が肉食で大食漢だ。いちばん食の細い松芳ですら、常人の3倍は食べる。野菜は、申し訳程度に添えられた肉じゃがと、志摩津の母の前にあるサラダくらいである。
翼生は蓉一と同じく岩のような巨漢で、やはり男が慕う男だ。ほかの人の前では志摩津家当主として毅然としている飛梢も、身内だけになると「だからね、兄さん」「でもね、兄さん」と甘えたになっている。
翼生にすすめられたビールを飲みながら、氷賀一彦の話になった。同じ区内でそれなりに名の知れた人物なので翼生たちも名前は知っていたようだ。氷賀香葉の弁護を長谷部結香が担当していると聞いて3人そろって眉をひそめ、遺稿が長谷部家から発見されたと言うと、
「手を引け」
と3つの声が重なった。




