19.
久しぶりの実家の風呂をつかい、こざっぱりとしたしじら織の浴衣に洗い髪を垂らし、結香が自室にはいると、仁資が香葉を相手に酔っぱらっていた。
銚子が何本もころがり、仁資は楽しそうに飲んでいるが、香葉は正座をしたまま、仁資の戯言にいちいちうなずいて相手をしている。
なにより結香の部屋に、日本酒とするめの匂いが充満しているのが許せない。壁にかけたスーツにも染みついているはずだ。
「アンタっ、なにやってんの。さっきひとりきりにしてあげるとか、なんとか言ってなかったっ?」
「いやあ、そうは言っても客人だし、なんの歓待もしないわけにはいかないだろう。
幸い、飲める口だというし、話し相手も欲しいと言うし」
赤ら顔の仁資はくつろぎきって、コップで冷酒をあおっている。香葉のまえにはちいさな猪口があるが、ほとんど口はつけられていない。
どうやってとっちめてやろうかと策を練っていると、スマートフォンが鳴った。時宗からのコールである。ロンドンは早朝の時間帯だ。
『メール読んだ。香葉くんと話をしたいのだが、できる状態かな?』
「さあ、どうだろう。仁資兄さんがむりやり酒を飲ませて、邪魔しているんだ。酔っぱらってはいないだろうけど」
『ああ、仁資には頼みごとをしていた。見つかったか聞いてくれ』
仁資にそのまま伝えると、さっと酔いが覚めたようで無言で部屋から飛び出していった。ザマアミロとほくそ笑みながら、香葉にも話が出来るか確認する。
「え……時宗さんと? そりゃあ、話してみたいけれど、オレなんかが」
結香が冷ややかに睨むと、香葉はさっと口をつぐんだ。緊張した顔で、こっくりとうなずく。いちおう、結香の厳命は覚えているようだ。
「大丈夫みたい。代わる?」
『そうだな、せっかくだから私の部屋のwebカメラをつかってくれないか。顔を見たいんだ。私は彼のことを、ずっと前から知っていると思う。顔を見れば確信がもてる』




