表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/94

怪物

「正確に言えば、あんたがエルメルリアにいれている、間者を俺の下につけてほしいってことなんだけどな。カーヤ、ピシャスも、そうなんだろ?」



 クジャの目元が、押し上げられたように細くなる。口端は、嬉しそうに持ち上がっていた。



「魔装から見るに――勘か?」

「勘だ」



 クジャは含み笑いを見せるや、脇に置いていた台の上からグラスを取って、回した。グラスの中の赤ワインに、俺の姿を映し出す。

 

 疑似的に作った血の海に人間を沈め、死念を落ち着かせる。高魔力魔術師がよくやる療法だ。

  

 ワインをユラユラと揺らし、さざなみを起こして、止めた。



「くくく。虚装よな」



 ピクリと、俺のコメカミが動いた。

 虚装とは、思念の量を調節し、魔装を自在に揺らす技法のこと。カーヤはこれでティアラナを欺いていたと考えられる。S2技法に属する。



「庇うことはない。落胆もしなくてよい。虚装を見切ったわけではない。お前がエルメリアに来てからの資料(データ)から、この程度の核心をつかむ頭はあると踏んだ。それだけのこと。気づいた切っ掛けはセレンであろう? あやつは、先を読んで話すということを知らぬからの」



 セイレーンはティアラナに対し、カーヤとピシャスの秘密について語ることを、上、つまりはクジャから禁じられていると言った。これはつまり、カーヤとピシャスが泳がされているか、クジャの部下かの二択ということを示している。

 


 気づいたのは、クジャが全ての黒幕だとわかった時だ。逆からたどってようやく察した。答えは至るところにあったのだと。



「心配しなくても奴を処断はせぬよ。頭こそ弱いが、急所では使える。それがあたしのセレンに対する評価よな。何よりうちは武官が少ないのでのう。平和になると優秀な武官が減っていく。よい傾向とも言えるが、元軍人としては寂しいことでもあるのう」


「文官の苦衷が見えるようだな」


「ほぉ」


「この国は文官が強いという。あんたのやっていることが常に無茶苦茶だからだ。カーヤとピシャスにしてもそうだ。パミュのためとはいえ、影姫おいてまですることじゃなかった」



 嘘だった。

 こいつは常に自分のためだけに動いている。

 そんなことはわかっている。

 だけどそれを、パミュには知らせたくなかった。

 親には愛されている。そうパミュには思わせておいてやりたかった。例え白々しくても。



「あんたの親心は買う。だが、カーヤとピシャスでは力不足だ。力はあっても精神があまりにも未熟すぎる。だから、次からは俺が大将の役目を担う」



 クジャは何も言わず、グラスの中のワインを回している。



「頼む。カーヤとピシャス。その他の間者も俺の下に置いてくれ」



 拳を握りながら、頭を下げた。

 しばらくして、クジャの笑い声が響いた。

 鈍い音が響く。クジャが持っていたグラスを台の上に置いた音だった。グラスの中の紅い湖面が、静々と揺らめく。



「殊勝なことだ。確かにあたしは、カーヤ、ピシャスを頭に据えて、間者による人の柵を、エルメルリアに構築している。調練も兼ねてな。が、それももう撤去しようと考えておる。理由は聞かずともわかるだろう? 愛しの娘だ。あんな目にあった昨日の今日で、同じ街に送るほど愚かではない」



 薄ら笑いを浮かべながら、クジャが言った。

 俺は苛立ちの全てを手に集中していた。



「俺が上につけば、あんな事態は起こさせない」

「いいや、起きる」

「見くびるなよ俺を」

「見くびってなどいない。厳然たる事実よな。お前がどれだけ強くとも、元をたどればあたしの部下。起こそうと思えば、起こせる」

 


 こいつ……。

 頭の中がカッと熱くなる。

 いや落ち着け俺。ただの挑発だ。魔術師は――



「無意味なことはしないもの」



 クジャの言葉。

 顔を上げた。

 恐らく、俺の顔は呆けていたことだろう。

 


 バカな。

 どうして俺の整纏(せいてん)を貫ける?

 


 今の俺の思考言語は、この世界にはない、地球の言葉だぞ?



 こいつに、俺の整纏(せいてん)は絶対に崩せないはずなのに……っ。



「くっくっく」



 クジャが頭を抱えながら、せせら笑っている。

 重い。

 自分の才能がただただ重いと言わぬばかりの顔で。



『――ハルモニカの前でこんなこと言いたくはないですが、怪物ですよ、完全に』



 いつぞやの、セイレーンの言葉。

 あの時は、何をバカなと受け流していた。

 


 しかし、今、ハッキリと思った。



「くっくっく……あーっはっはっはっはっは!!」



 こいつ……怪物だ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ