表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/94

あたしはそこで待つ

「お前が、クジャ……だと?」

「お初にお目にかかる。正確には、二回目かな?」



 二回目。

 やはり、あの時のフクロウと同じ魔術師。

 あれが、あの時のフクロウが、クジャ?

 ということは、まさかこいつ……。



『まさか、裏切るつもりか!? お前のためでもあるんだぞ!?』

『ク――』



 ジャ……?

 


 パミュを、売った……? 何故? 講和? だったら嫁がせるなり、方法は幾らだってあるはずなのに……。

 


 何故あんな、凄惨なやり方を……。

 


 クジャが口元に手をやり、パミュの顔で、笑う。

 パミュの『紺色』の瞳が、深く色味を増した。

 


 初手見鬼。

 魔術師の基本にして定石。

 だがこいつ……。

 


 握った拳が、メキメキと音を鳴らす。

 


 パミュの身体で……この野郎……っ。



「口に出してもらって構わんぞ?」



 目を向けた。

 鏡を見たわけじゃない。

 だが、自分が今にも人を殺しそうな面をしているってことは、わかった。

 クジャがせせら嗤った。先日何十人と殺してきている俺を見ての話である。



「見えている言葉にいちいち反応していてもきりがない。表に出された言葉に反応するとも限らない。が、今回は特別よな。褒賞の前金。表に出す気があるなら、答えてやるが?」


「てめぇか?」


「ん?」


「パミュを売っ――」


「あぁー大丈夫です大丈夫です。褒賞の前金は全て、お金でもらいますんで。彼のことは気にしないでください。せいぜい機嫌悪そうな彫像とでも思っていただければ」

 


 言ったのはティアラナだった。両手は俺の口を塞いでいる。その顔には、いつもの分厚い笑顔が張り付いていた。

 パミュ、というよりクジャは、目を点にしていた。そして大口を開けて笑った。



「相変わらずよな、白亜のは。あたしは白亜ののそういうところが好きだ。金銭を第一に置いているわりに権力には媚びない。また腐らせることもせず、自分と周りの投資に惜しみなく使う。お手本のような魔術師の生き方よな。素晴らしい。魔術に生涯を捧げていなければ、こうはならぬ」


「お褒めに預かり、光栄の極みでございます」


「ビュウ=フェナリス」

 


 呼ばれたものの、現在返事のできない俺は、目だけを向けた。心なしか、俺の口を押さえるティアラナの指の締め付けが、強くなった気がした。



「その状況では何も言えぬな。あたしも俗物の目と耳を借りていては、これ以上の真贋見極めること能わぬ。褒賞の件もある。ここから先は――

 互いに正対して呪を語る領域よ」

 


 呪を語る。魔術師として話そう、向き合おうという意味だが、親しい人間とそうでない人間とでは、多少意味合いが違ってくる。

 親しくない人間に向ける、呪を語ろうという意味は――



 双方のしゅを見せ合おうってことだ。

 この俺様を、ルビィ様を試そうってか。


 

 ガキが……っ。



「ふふふ。セレン」

「は、はい!!」

「二人を謁見の間まで案内せよ。あたしはそこで待つ。お前たちがどのような呪を奏でてくれるのか、今から楽しみにしているぞ。ビュウ=フェナリス。そして白亜の」

 


 パミュが音を立てて消えた。

 ティアラナの手が俺の口から離される。



「どうして割って入ってきたんだよ」

「え? お金がほしいから」



 チッ。 



 舌打ちした。

 ティアラナの冗談すら満足に聞き流せないほど、今の俺は気が立っていた。



『俗物の声は聞くに及ばぬ。俗物の醜態は見るに堪えぬ』

『俗物の目と耳を借りていては、これ以上の真贋見極めること能わぬ』



 あのやろー……っ。



 足の横で握った拳が、軋むような音を立てる。


 

 あるいはそれは、この街でかぶっていた、ビュウ=フェナリスの仮面が軋む音だったのかもしれないと思いつつも、止めることはできなかった。



「くそっ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ