外伝20話:奇妙な護衛部隊 -elCeksjun elRedan-
'20.01/29 一部演出修正あり。
'20.08/29 演出、表現に変更あり。
'20.09/13 演出を完全に変更してしまいました。
外伝20話:奇妙な護衛部隊 -elCeksjun elRedan-
* * *
王室護衛官たちが歩いていった先を見送ったのち、その場で立ち上がろうとしたティガルは、不意に腹を押さえてふらりとよろけた。スフィルは慌てて相棒の肩を支えた。
「大丈夫ですか、ティガル。これから動けますか」
「ああ、なんとかな」
口角を上げながら苦しげにつぶやいたのち、再び立ち上がったティガルは、訝しげにスフィルにふり返った。
「てかお前、なんで平気な顔して動いてんの? あの蹴りをまともに食らったんだろ?」
「いえ、ボクは平気です」
「その割に、涙ちょちょ切れてんぞ。痛みじゃなきゃ何だよ、憧れのカリエク様に感動して泣いたのか?」
「いえ、厳密に言えば、もう痛みが『引いた』んです。あの若い憲兵に見つめられてから、なぜか動けるようになって」
スフィルは自分でも不思議なことを言っているとわかっていたが、それ以外に言いあらわしようがなかった。
「スゲーな、あいつ。魔法使いか」
「魔法なんて、さすがにそれはありえないでしょう」
「いや、わかんねーよ。古今東西、あらゆる魔法の伝説があるんだ。魔法の絨毯や魔法のランプがあるなら、魔法の会計主任がいたって――いや、それはさすがにヘンだな。なんだよ『魔法の会計』って」
ティガルは自分で言いながら、ケタケタと笑った。
どうやら、いつものように冗談を言って笑える元気はあるらしい。それを確認して、スフィルはひとまず安堵の息をついた。これからの任務遂行に支障はなさそうだ。
しばらくすると、雑木林の叢をかき分け、ノワンが警戒の色をにじませながら顔を出した。
「ったく、誰かさんのせいで最悪の事態だぞ。まさかこんなゼロ地点から、スフィルの言うことしか聞かないダカと俺の二人だけで、体力カスのエズレ王子を護衛するハメになるとは……」
ノワンは今まで、《青獅子隊》に見つからないほどの奥に護衛対象を連れて隠れてくれていたらしく、それゆえスフィルたちが脱落したと思い込んでいるようだった。
「いえ、大丈夫です。ボクたち、まだちゃんと生きてますよ」
「なんだと?」
ノワンが驚きに目をしばたかせながらも、スフィルとティガルの腰の飾手拭を見やった。
「ほう、あの恐ろしく格上の相手に会って、殺されなかったとはな。俺の読みが外れたか……」
彼の読みの正確さに感心しながら、スフィルは言った。
「いえ、飾手拭を取られなかっただけで、ボクらが見事に惨敗したのは間違いないですよ」
「言っとくがスフィル、俺は出ていこうとするこの馬鹿を止めたんだぞ」
「悪ぃなぁ、ノワン。オレは止められると、尚更飛び出したくなる性分なんだよ」
「この天邪鬼め……」
悪びれもなく笑うティガルに対して、ノワンは忌々しげに吐き捨てた。
「あのですねティガル、今回助かったのは、本当にたまたまなんですよ。今回はただの試験で、本当にボクに危害が及ぶわけじゃないことはわかりきってるんですから、ボクより護衛対象を護ることを優先してください。もし次無謀に飛び出したら、挽肉決定ですから」
「ちぇーっ、わかったよ」
スフィルが腰にさした小槍に手を当てながら詰め寄ると、相棒は初めて降参とばかりに手を上げた。
それからスフィルは、ノワンが茂みの奥に待機させていたダカと護衛対象を迎えに行き、ダカにはこれから倉庫の前で見張りをするよう指示を出した。ダカはいちばん五感が鋭く、とりわけて目がいいので、敵が来ればすぐに察知できる上、武器が遠距離から攻撃できる弓なので、見張りに向いているのだ。
スフィルがエズレを連れて倉庫裏に戻ってくると、ノワンが呼びかけてきた。
「おい、スフィル」
彼は廃棄武器庫の壁に背をもたれて腕を組みながら、スフィルに対して深刻な表情を向けていた。
「まさかお前、これから任務成功を目指したいとか考えてねえよな」
「えっ?」
「その目。さっきまでとは面構えが違うよな。強敵に挑むこと考えてるときの顔だろ」
スフィルは一瞬、言葉に詰まった。
相棒ティガルならまだしも、ノワンとはそれほど行動を共にしているわけでもないので、まさか思考を見抜かれるとは思わなかったのだ。
スフィルは咄嗟に、顔に張りつけたような笑みを浮かべた。
「あの……ボクって、そんなに表情読みやすいほうでしたっけ? 一応、ポーカーフェイスは得意だと自負してるんですが」
「ゲーム中のお前の思考は読めねえが、すくなくとも、闘志は隠せてねえぞ。今、かすかに笑ってたのは無自覚か?」
「えっ、ボク笑ってました?」
「やっぱり気づいてなかったのか、お前」
呆れ顔で言ったノワンは、やがて長い前髪で隠れていないほうの目でスフィルを見据えて、眉をひそめた。
「まあそんなことはどうでもいいが、本当に諦めずに『やる』つもりなのか。任務成功まで」
日に焼けたノワンの顔は、明らかな嫌悪をあらわにしていた。
スフィルは最初、ノワンがまたスフィルの身を案じているのかと思ったが、すぐにそれはないと思いなおした。点数を稼ぐために途中であえて戦闘に入るよりは、ゴールを目指すほうがよほど、安全性が高いと言えるからだ。
であれば、反対する理由は、彼自身の事情からくる懸念以外にないだろう。
ノワンには、入学当初から希望している進路がある。
彼の故郷である月神州の、憲兵本部署の警護課。
月神州首長を筆頭に、一州を動かすレベルの要人を警護する部隊である。月神はかなり大きく、豊かな州なので、護衛にもかなり高いレベルが要求されるだろう。
入隊難易度としては、最もレベルが高いこの学校の卒業生で、総合成績の上位12人に入らなければならない程度。
ゆえに、絶対に変なリスクは負わず、少しでも堅実に成績を取っていきたいというのが、ノワンの一貫する姿勢である。
「その、さっきまでは、任務を諦めて点を取りに行ったほうがいいと思ったんですけど……」
わかっている。堅実な目標をもつ彼に、スフィルがいくら「諦めないのがポリシーなんだ」、「先ほど憧れの人にそう約束したんだ」と語ったところで、彼の心を動かすことは不可能だ。
それでもスフィルは、真摯な目を向けた。
「ノワン君、やっぱり、最後まで任務成功を目指そうと思います。どうしても、諦めたくないんです」
案の定ノワンは、深いため息をついた。
「やれやれ。お前は途方もない夢を追いかけてる割に、まともに現実的な判断ができると思ってたんだがな。そこの天邪鬼馬鹿にでも感化されたのか?」
「テメエは一々癇に障る言い方しかできねーのかよ」
横から詰め寄ってきたティガルを一瞥すると、ノワンはスフィルに視線を戻して淡々と言った。
「言っておくが俺は、どこぞの馬鹿と違って、狂気じみた賭けには乗るつもりはさらさらない」
「なんだと」
互いを睨みつける二人は、すでに一触即発状態になっていた。
「やめてください、ふたりとも!」
スフィルはすぐにふたりのあいだに割って入った。
「ノワン君、約束します。絶対に無事に殿下をお護りして、任務達成してみせます。協力してくれませんか」
「策はあんのか」
「今はまだありません、でも」
スフィルの言をさえぎって、ノワンがあからさまに落胆の息をついた。彼は端から、まともに説得を聞く気がないようだった。
「やれやれ。そんな案によく賭けたな、このバカは」
「だからテメエはそうやって……」
「やれよ」
「え?」
ノワンが小さく発した言葉に対して、スフィルは思わず聞き返していた。
「言っておくが俺は、絶対に賭けには乗らない。だがスフィル、お前が『できる』と言ってできなかったことは一度もねえだろ。お前の『できる』は信頼に値する。――いいか、これは賭けではなく信頼だ」
「ボクを、信じてくれるんですか……?」
まただ。また、目頭が熱くなった。
王室護衛官になると言って憚らない、最年少のチビな子供。カリエクに憧れて「全科目『秀』を取る」と豪語していた時期もあったが、結局それは叶わなかった。
その時スフィルは相当悔しがったが、達成できなかったことを非難する人間はいなかった。同時に、一緒に悔しがってくれる人間もいなかった。誰もスフィルにそんなことが可能だとは、端から思っていなかったのだ。相棒ティガルでさえ、さすがに無理だと思っていたらしい。
だからこそ、わかる。無理だと思われる状況で、スフィルの能力を信頼してくれることが、どれほどに得難く価値のあることか。
それになにより、ノワンは生粋の現実主義者なのだ。つまりは彼が、スフィルの主張が現実的だと判断してくれたということに他ならない。ぶっきらぼうでも、しっかり日ごろの行いを見て評価してくれているのだ。
嬉しさに力が湧いてくるとともに、じわりと涙が滲んでくる。
こみ上げる熱いものをなんとか抑えながら、スフィルはぎこちない笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、ノワン君」
素直に伝えれば、ノワンはなぜか、フイと側方を向いてしまった。
「ノワン君……?」
ぎこちない笑みのせいで、気分を害させたのだろうか。長い前髪で隠れているせいで、横を向いた彼の表情は読み取れない。じっと見ていると、ノワンはぶっきらぼうに言った。
「べつに、面と向かって感謝されるいわれはない。やり方が何であれ、俺は当初の希望どおり、月神州憲兵本部署の警護課に入れれば文句はねえ。お前が指揮する班ならそれができる。――そう思っただけだ」
「ノワン君……」
感動して見上げていると、彼はさも居心地が悪いとばかりに前髪を掻き上げながら、「ああもう」と、苛立たしげにつぶやいた。
「ホント無防備で危なっかしいヤツだよな、お前!」
「ええっ? でも一応、あえて敵と戦闘するよりは、任務成功を目指すほうが安全だと思いますけど……」
「そういう話じゃねえよ! クソ、お前がさっさと卒業してくれねえと、こっちの気がもたねえ……」
「ボクって、そんなに心配されるほど弱くないですよね……?」
スフィルの反論を無視して、ノワンはいつにも増してぶっきらぼうに言った。
「そんなことはいい! それよりお前、任務を成功させると豪語すんなら、なぜこの試験に派遣公安課なんかが関与してんのか、見当ついてんだろうな? 作戦を立てるにも、敵の意図を知らなきゃできねえだろ」
「ええ、それはそうなんですが――」
ノワンを落胆させることはわかっていたが、正直に白状するしかない。
「正直なところ、まったく理解を超えてます。派遣公安課なんて、そもそも普段、まったくウチとの接点がないですし……どう考えても、ボクたちの試験を手伝ってくれる理由がないんですよ」
憲兵13課一の上品課と下品課という両極端に位置するためか、警護課と派遣公安課の仲は、日ごろからよくない。ふだん関わりなどないはずなのに日常的に悪口を言い合う程度には、互いに嫌い合っている。
彼らとはただ接点がないどころか、仮にこちらが協力を要請しても、突っぱねられることが容易に想像できるほどに仲が悪いのだ。
「それに《青獅子隊》は、なにか目的があって来ているように見えましたし……」
「《青獅子隊》だと?」
眉をひそめたノワンに、そういえば彼にまだ言っていなかったと気づく。
スフィルは先ほど起こったことを、かいつまんで話した。
「こんなところに、《青獅子隊》が来たってのか……?」
ノワンは驚きに目を見開いたのち、木陰で休むエズレのとなりで木にもたれかかる、ティガルにふり返った。
「お前、事前になにか聞いてねえのか」
ノワンの問いかけに、たしかに、とスフィルも相棒にふり返った。
気さくで交友関係の広いティガルは、憲兵学校一の情報通である。
それに加えて、彼の家は代々宮内省に縁のある家柄らしく、よく親戚から、スフィルに王宮の情報を仕入れてきてくれる。
今回のことも、《青獅子隊》が王宮に勤務する部隊である以上、ティガルが何らかの事前情報を掴んでいてもおかしくはなかったが、彼は《青獅子隊》がいなくなった先を眺めなら、首を傾げただけだった。
「実は教官のあいだで、噂はあったといえばあったんだぜ。今日、王室護衛官が試験を観に来るって噂はな」
「それ、ホントですか!」
言外に、なぜ言ってくれなかったのかと問えば、ティガルは身振り手振りで弁解した。
「だって考えてもみろよ、王室が実務経験のない訓練兵を護衛官に採用するワケねーんだから、そんなの百パー、デマだろ」
「実際デマじゃなかったじゃないですか」
「いやいや、仮にオレがお前にそれ言ったところで、お前信じたか?!」
「いえ、それはたしかに――デマって考えたと思います」
「だろ? ったく、天下の王室護衛官様が、こんな憲兵学校なんかに、一体何の用があるってんだ」
「つまり、連中の目的はまったくの謎、ってことか」
ノワンはますます不可解な顔をした。
「まずそいつら、本物だって確証はあるのか?」
「あります。紋章をこの目で確認しましたし、それにあんなに戦闘経験が格上の人たちが、本物の王室護衛官以外で、そういるとは思えません」
「たしかに……」
とノワンは考え込む仕草をした。
「俺は一瞬しか見てねえが、あの長身の憲兵を前にしたときは、正直足がすくんだ。これが試験で良かったと心の底から思ったほどだ。――なるほどな、あれがウチの警護課の、元祖『バケモノ』か」
「あっ、でも! 言うほどバケモノって感じじゃなくて、意外とちゃんと人間っぽい方でしたよ。想像を遥かに上回るかっこよさで、感激していまいました」
先ほどの感動を懸命に伝えようとすると、ノワンが目を細めて見下ろしてきた。
「お前がどんなのを想像してたのか知らないが、さすがに人間としての原型をとどめてないとは思ってねえぞ、俺は」
「それはそうなんですが、なんかこう、他を寄せつけない貴公子様って感じの雰囲気で、とにかくカッコよかったんです……!」
「フン、『貴公子様』なんか、そんなに魅力的かよ」
吐き捨てるようにつぶやいたノワンは、一瞬機嫌を悪くしたようだった。
「ノワン君……?」
心配して見つめるスフィルに、ノワンはぞんざいに手を振った。
「生憎俺は、金持ちと権力者と公職の人間が大嫌いなんでな。貴公子様なんて、想像しただけで反吐が出る」
「そんなに嫌うことないのに……」
金持ちと権力者と公職の人間が嫌いだと称するこの同僚は、実際には護衛官である彼自身が、金持ちと権力者を護る公職の人間である。
その不思議な自己矛盾には、スフィルは首をひねるしかない。
「貴族のお坊ちゃまなんか、ロクなヤツがいねえからな」
ちらりとティガルを見やりながら言ったノワンに、
「オイ、テメエ。それはオレのことか?」
すかさずティガルが、聞き捨てならないとばかりに、片眉を釣り上げた。
「腑抜けた貴族のお坊ちゃまなど、憲兵学校にお前以外に誰がいる?」
「なんだとテメエ……」
ティガルが大股でこちらに歩いてくる。
いとも簡単に緊迫した空気になった二人の間に、スフィルは慌てて割って入った。
「はいはいはい、『貴族』ではなく『官家』ですよね。わかったから喧嘩しない!」
ティガルによれば官家とは、数百年前から王家に仕える、旧爵位のある家柄の総称らしい。革命で倒された先王家の時代から仕えている古い家もあれば、今のエルトワイカ王家になってから仕えはじめた、比較的新しい家もあるという。
一般人には馴染みがないので、皆によく「貴族」と称されるのだが、ティガル本人はそれが気に食わないらしい。
「いいか、オレはなぁ、変な偏見で『貴族』とか『お坊ちゃま』とか言われると、モーレツに腹が立つんだよ! 官家は古い時代の貴族と違って、べつに特権も領土もねーし、金持ちとも限らねえってのによ、お前らときたら、どうせカネ持ってるとか、頼めば大体融通がきくみたいな、謎の偏見でオレにたかってきやがってよぉ……」
ティガルはよく、それが原因で怒っているので、その情報は警護課の皆が知っている。それでも彼に面と向かって「貴族」「お坊ちゃま」と呼ぶ人間がいたら、その目的はティガルを煽る以外にない。
「そうかそうか。なら俺は、お前のような『貴族のお坊ちゃま』が目の前に存在していると、モーレツに腹が立つ。ま、任務上協力は惜しまねえが、くれぐれも俺たちの足だけは引っ張るなよ、お坊ちゃま」
「ちょっ、ノワン君!」
セリフからして、どう考えてもノワンは、ティガルを煽っていた。
「なんだとゴラァ! もういっぺん言ってみやがれ、このぼっち野郎!」
「俺は『くれぐれも俺たちの足だけは引っ張るな』と言ったんだが、聞こえなかったか? お得意の貴族のコネで、良い耳鼻科でも紹介してもらったらどうだ」
「テメエ、いい度胸じゃねーかよ。任務中にチームメイトを侮辱してそんなに楽しいか? 『足を引っ張るな』はこっちのセリフだぜ。チームプレイができない、メーワクな劣等生のクセによ! そんなにオレに刻まれたいってんなら、テメエの気障ったらしい顔を、いくらでも切り刻んでやるぜ?」
「できもしねえことを、偉そうに」
極限まで詰め寄ったふたりの横腹に、スフィルはすぐさま無言で小槍を突き立てた。
「っ痛えスフィル! 何すんだ!」
「任務中に喧嘩するなって、ボクさっき言いましたよね?」
まったくの真顔で言えば、詰め寄ったふたりは、ギクリと目を見開いた。
「まずはノワン君、お金持ちと権力者と公職の人間が嫌いなのは知ってます。なのにその全員と関わりのある護衛官という職を選んだ以上、任務中にその私情を抑えて行動する覚悟くらいできてるんでしょう」
「……ああ」
「なら、行動だけでなく言葉も慎んでください」
「……ハイ」
有無を言わさぬ調子で言えば、ノワンはしっかりと畏まって言った。
「で、ティガルはいちいち反応しない! 最年長なんですし、任務中は多少ムカついても我慢してください」
「でもオレ、そういうの我慢できねー性質っつーか……」
「これからプロの護衛官になるんでしょう! そんな幼児みたいな性質主張しないでください」
ビシリと言いきれば、ティガルは口をすぼめ、傍目からもよくわかるほどしゅんとした顔をした。言動が率直なところが、スフィルの思うこの相棒の美点だが、それで任務に支障が出るなら仕方がない。
「護衛で大切なのは信頼関係です。チームメイトである以上、たとえ相手が鬼でも悪魔でも、信頼し合ってもらいます。いいですね、これは班長命令です」
ティガルとノワンは、一度ちらりと相手の顔を見やると、やがて深く息をついてから言った。
「了解、班長」
チームがまとまっていなければ、任務成功するものもできない。
「ティガルの【天邪鬼剣術】とノワン君の【変幻速攻】、どっちもチームになくてはならない力です。そのバケモノっぷりに、ボクは期待してるんですからね!」
実を言えば、このふたりの能力には、めちゃくちゃ期待している。
任務以前に、そんなふたりの能力を引き出せずにこの試験が終わってしまうのが、スフィルは何よりももったいないと思うのだ。
そんなスフィルの思いを察したのか、ふたりは顔を上げると、
「ああ、期待してろ」
と、はにかんで笑った。
どうやら、真剣に心を入れ替えてくれたらしい。
もとが表情豊かなティガルはともかく、あのつっけんどんなノワンまでそんな表情をするんだと、スフィルは新鮮な驚きを感じていた。




