ギルド・イン
宿屋で一夜を過ごした俺は,とあるギルドの目の前に立っていた。
採掘者ギルド「掘る者の集い」だ。
……どうせ戦士ギルドとか予想してただろ?
モブの名前も無き受付嬢しか出なかった採掘者ギルドなんて一片足りとも脳裏を掠めなかっただろ?
でも採掘者ギルドなんだな!これが!
採掘者ギルドをなぜ俺が選んだかの理由は,依頼をこなしているときにでも話そう。
ということで,俺は採掘者ギルドに登録すべく,その門戸を叩いた。
「ようこそ採掘者ギルド『ミレラリオ』へ!……ってあれ?あなたは確か昨日の」
「登録を頼む」
「へ?」
「登録します」
「……本当ですか?」
「本当です」
俺が受付に近づきながらそう言うと,受付嬢は顔を下にむけてプルプルを震え始めた。
……後ろ暗い冷たい薬の副作用か何かだろうか?
俺は心配して声をかけた。
「大丈夫か?」
「い,いっやったーーーーーーー!!」
「のわぁ!?」
受付嬢は勢い良く天に向かって渾身のバンザイをした。
「いやあもうホント助かります! 最近新しい人が入らないわ,人はどんどん辞めてくわで,大変だったんですよー」
「そ,そうですか……」
「ありがとうございます!そしてありがとうございます!」
受付嬢はブンブン俺の手を掴んで何度も振る。
「さあさあ!ちゃっちゃと登録を済まして,バンバン依頼をこなしてくださいね!」
「あ,ああ」
「取り敢えず,この用紙の必要事項を記入して下さい。あ,字は書けますか?」
「問題ない」
俺は受付嬢の勢いに押されながらも,書類にペンを走らせる。
名前……,年齢……,性別……,住所……,特技……,過去に患った病気……,ん?………………。
「あの」
「はい何でしょうか?」
「この『性癖』ってのは……何?」
「あ,それはジョーク項目です♪」
「…………」
「えーと,ほら!うちのギルドって地味じゃないですか。だからちょっとユーモアを入れたほうがいいかなーと思って,その,私が……」
お前かよ!
っていうかこのギルド大丈夫だろうか?今更だが心配になってきた。
取り敢えず,「スカ◯ロ以外は何でも」と書いておこう。
「はい。書けたぞ」
「ありがとうございます」
そう言って受付嬢は,各項目を目で確認していく。
受付嬢が用紙の下の方に目を移して,おそらくさっきのジョーク項目のところで,目の動きが止まった。
そして受付嬢はこちらを向いてニコッと笑顔を作る。
「ケンイチ様。私,アミュットと申します」
「なぜ今,このタイミングで自己紹介をする……」
「以後良しなに……ポッ」
「なぜそこで頬を染める!?」
ユーモアというか,お前の男あさり用の項目かよ!!
「取り敢えず,早速今日から動くから」
「わあ,助かります」
「そうだな……。薬草集めの依頼はあるか?」
「はい。10件ございます」
「じゃあ全部頼む」
「え?あー申し訳ございません。依頼の同時契約は最大で3件まで何ですよ」
「そうなのか。まあだったら3件よろしく」
「はい。……えーと,大丈夫ですか?」
「問題ない」
「そ,そうですか。では,こちらから3件選んで下さい」
アミュットはそう言って俺の前に「依頼書」の束を置いた。
俺はざっと見て次の3件を選んだ。
「薬草10枚一束で,5束以上。10束以上には追加報酬」
契約金:8銅棒
報酬:2銀棒
「ポーション製作用の青薬草を30枚」
契約金:1ジラ5ギラ
報酬:10ジラ
「緊急募集!薬草を7束」
契約金:5ギラ
報酬:3ジラ5ギラ
俺は契約金の2ジラと8ギラと一緒にサインした依頼書をアミュットに渡した。
アミュット心配そうにそれを受け取り「受託印」を押した。
「あの,この3枚ですが,期限が今日と明日のものですが大丈夫ですか?採集する量も多めですし」
「大丈夫大丈夫」
「そうですか……」
「とりあえず,この薬草と青薬草のサンプルってあるか?」
「ええ! 現物を知らないでこんなに受けちゃったんですか!?」
「大丈夫大丈夫」
「も,もう,知りませんよ……」
アミュットはさらに不安な表情のまま奥の扉に入り,薬草と青薬草を一枚ずつ持ってきて,俺に見せた。
薬草は,カエデの葉の形に似たもので,青薬草は,その葉より青々としたものだった。
「これ買い取るからもらえるか?」
「え?あ,はい。それは構いませんが……」
「んじゃま精算ヨロ」
俺はそういってアミュットから薬草を買取った。
「そんじゃま行ってくるわ」
「……はい。いってらっしゃい」
「ういうい」
俺はそう言って建物から出た。
去り際後ろから「大丈夫かしら……」という声が聞こえたが,まあ待ってろって。
俺は早速町の外へと進路をとった。
今日から時間が出来たので,また更新してきます。