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始めての報酬

道具袋がパンパンになるくらいの薬草を持って,俺は再び採掘者ギルドミレラリオへと戻ってきた。


「おーす。戻ったよー」


俺がそう言いながらギルドに入ってくると受付のアミュットは驚いたような顔をした。


「おかえりなさいケンイチさん。まだ半日も経ってませんが,……まさかやっぱり採集できなくて諦めて帰ってきたんですか?」


アミュットはがっかりとした表情でため息をついた。

失礼なやつだ。


「ほら。依頼達成だよ」


俺は受付の上にドサッと薬草でいっぱいの道具袋を乗せた。


「え!? ほ,本当ですか?」

「疑う暇があったら確認する方が早くないか」

「うっ,そうですね。では……」


そう言って,アミュットは道具袋の口を広げて中を確認し始めた。


「う,嘘。これも,これも,青薬草までこんなに!」


彼女は信じられないといった表情で,次々と薬草を確認していく。

俺はその様子を欠伸しながら,眺めていた。


「に,偽物じゃ,ないですよね?」

「採掘者ギルドの受付嬢なら薬草の真偽ぐらい自分でわかるだろ」


俺がそう言うと,アミュットはうつむいてプルプルし始める。

来るか?来るのか?


「すっっごおーーーーい!!! すごい!すごい!」


予想通りでした。

鼓膜が破れそうなぐらいアミュットは大喜びしている。

というか,今回は跳ねている。


「どうしてですか?こんな短時間でしかもこの量!!すごいじゃないですか!」

「まあ,俺は有能だからな」


ここまで大喜びされるとちょっと鼻が高くなってしまう。


「まあ取り敢えず,依頼達成の手続き頼むわ」

「はい!今すぐに!」


そう言って,アミュットは満面の笑みを浮かべながら,書類にペンを走らせて,「依頼達成印」を押した。

そして報酬が俺に渡される。


基本報酬:15銀棒ジラ,5銅棒ギラ

契約金返金:2ジラ8ギラ

計:18ジラ3ギラ


俺は取り敢えず報酬を確認して,暑い布袋で出来た財布に入れる。

ちなみに薬草は,まだ大分残っている。


「よし。それじゃあ新しく3件の薬草採集系の依頼をくれ」

「え?またすぐに受けるんですか?」

「まあまあ見とけって」


俺がそう言うと,アミュットは依頼書を持ってくる。

俺は適当に3件選んで,サインする。


「ほい。受諾印ヨロ」

「あ,はい。契約金も一緒にお願いします」

「はいはい」


俺が契約金を渡し,アミュットは受諾印を押してこちらに渡す。

そして俺はそれを確認して,アミュットにまた渡す。薬草と一緒に。


「依頼達成印ヨロ」

「え?あーなるほど。そういうことですね」


アミュットは納得がいったのかまだまだ余っている薬草から,依頼分の枚数を抜いて,依頼達成印を押す。

そして俺は契約金と報酬をもらう。

そして,薬草はまだ残っている。

後はお分かりだろう。


以下略



「す,すごい。10件もあった依頼が一瞬で……!!」

「ははは,いやー儲かった儲かった」


アミュットはニコニコしながらも,依頼の消化に驚き,俺も金が儲かってホクホク顔。

今回の報酬は合計72ジラ3ギラとなった。

日本円で7万2千3百円。

さらにこの世界は物価が安いから感覚的にはもっと稼いだことになる。


「うわあ,ケンイチさん,すごいです。本当に」

「もっと褒めたまえ。ははは!」

「えらいえらい」

「いや,子供扱いしろとは言ってないのだが」


アミュットはなでなでと俺の頭を撫でた。まあ悪い気はしない。


「でも,どうやってこんな量を集めてきたんですか?」

「まあ色々とね。そのへんは」

「えーいいじゃないですか。教えて下さいよ」

「いやだ」

「もう!……じゃあ,お姉さんからのお・ね・が・い♪」

「そんな安っぽい色仕掛けで俺がなびくとでも?」

「ひどい!これでも自信あったのに!……でもそんな硬派なところもス・テ・キ♪」


何故かアミュットはうっとりした感じの目でこちらを見つめてくる。

まあアミュットの容姿はまあまあ好みなので,ちょっと遊ぶぐらいなら……


「さっきから珍しく騒がしいのう」


俺が良からぬことを考えていると,ギルドの二階から声と同時にこちらに降りてくる足音が聞こえた。


「あ!ギルド長。見てくださいよ!溜まっていた依頼が10件も達成されたんですよ!」

「なに!?どれ,ちょっと見せてみなさい」


一階に降りてきた爺さんは,日に焼けた少し汚らしい肌だが,着ているものは小奇麗で,人物と同じく年季の入った重厚感のある身なりであった。

爺さんはアミュットから渡された依頼書と,俺が採ってきた薬草を眺めて,何度も頷いた。


「ふむ。問題ないのう。むしろ薬草は虫食いもなく,全て上質なものじゃな」

「わあー。ギルド長が言うなら間違いなく本物なんですね!」

「まだ疑ってたんかい!」

「えーだって,こんなに早くこの量の薬草手に入れてくるなんて信じられなくて」


俺がアミュットを睨むと,アミュットは気まずそうに小さくなる。

爺さんは俺の方に向き直ってこう言った。


「お前さんは?」

「人の名前を尋ねるときは,まず自分からだろ?」

「け,ケンイチさん!?」


失礼な爺さんにそう言うと,アミュットは手をブンブン出鱈目に振りながら慌てる。

爺さんはそんな俺の言ったことを気にもしないように豪快に笑う。


「ガハハ!こりゃあまた生意気な坊主が来たもんじゃな!」

「爺さんも如何にも偏屈そうだな」

「ガハハ!」

「ははは!」

「あわわわわ」


なかなか話のわかりそうな爺さんだ。


ブンッ!

サッ――スカッ!


と思ったら,爺さんがいきなり木の棒で俺の頭を叩いてきた。まあ避けたけど。


「何すんだよ」

「誰が偏屈じゃ!失敬なガキじゃ!」

「ぶん殴ってくる爺さんも大概だがな」

「まあ,腕は立ちそうだからな,これからも精々身を粉にして働けい」

「爺さんが俺の前で膝をついて懇願するなら考えてやろう。……いや,やめよう。そんな姿を見ても誰も得をしない」

「なに!失礼なやつじゃ。どれ見ておれ!」


そう言って,爺さんは俺の前で膝をついて……


「ってなにやらすんじゃい!」

「あんたが勝手にやったんだろう!?」

「まあ良い。お前さんの頭を引っぱたいてやるから,また明日来い!」


爺さんはそう言って,ズカズカと二階に帰って行った。

なんだそりゃあ?


「ふふふ」

「急に笑ってどうしたアミュット。頭でも打ったか?」

「もう!そんなんじゃないですよ!ただ,ギルド長が気に入った人って久しぶりで」

「え?どう見ても嫌われたようにしか見えないけど?」

「嫌われるようなことをしているって自覚があるなら,しないでくださいよ。心臓に悪いですから」

「どんまい」

「もう!でも,ギルド長って気に入らない人だと『二度と来るな!』いつも言うんですけど,ほらさっきは『また明日来い!』って言ってたでしょ?」

「ギルド長……なんというツンデレ」

「つ,つんで?」

「いや,気にするな」

「は,はあ」


取り敢えず,このギルドに入っての幸先は良さそうである。


「そんじゃま,また明日来るわ。お疲れ」

「あ,はい。お疲れ様です。また明日!」

「あいよ」


そう言って俺はギルドから出ていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


幕間


「アミュットよ。あの若造はもう行ったか?」

「ギルド長。いたんなら見送ってあげればいいのに」

「ふん。最初から甘やかすと面倒じゃからな。あの手の男は」

「そうなんですか?」

「そうじゃ」

「ふふ。でもギルド長うれしそうですね」

「嬉しかないわい!」

「ふふふ。でも本当にすごいですよね。初日からこの活躍」

「確かにのう」

「ここは,彼がやめないように私も頑張らなくちゃ!」

「なにを頑張るんじゃ?」

「え!?,そ,そんな……口になんて出せませんよ!もう!」

「…………若いうちからそんな方法で男を捕まえるのは止めなさい」

「えー。若いうちしか出来ないと思いますけど。……それにケンイチさん。なんだかんだ言ってとこでは優しそうだし♪」

「そうかのう。この登録書からは相当の変態趣味の持ち主のように感じるがのう」

「それはそれで……いやん♪」

「これから,色々と忙しくなりそうじゃ……」

「あら,忙しいことはいいことじゃないですか♪」

「まあのう」


以上,ケンイチ退出後のギルドの中の会話。

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