神様? 仲直りイベントに介入って主人公っぽいんですけど?
「あ~あ。レオンと一緒にされるのが嫌って気持ち、エリアーナがわかってくれてて嬉しかったよ。まあ、色々思う所はあるけどさ。とりあえず、エリアーナはこれで満足したならさっさと薬、使いなよ。さっきからちょっと顔色悪いよ。」
リディアさんはそう笑いながらいう。いつものような茶化した感じでもなく、作ってるわけでもない。ちょっと、エリアーナさんのことを心配しているような感じ。そういえば、リディアさんの素の笑顔って、夢では一度も見てないな……新鮮で、私もちょっと嬉しくなった。いずれリディアさんの口からきちんと聞ける日が来るといいな。
そういえば……エリアーナさんは口調自体ははっきりしてるけど、顔色は大分悪いかも……
私もエリアーナさんの顔を見ると少しだけ頬をあげて彼女は答えた。
「ああ、心配しないで。いつもよりちょっと酷い頭痛がするだけ。リディアが打ち明けてくれたおかげでいつもの頭の痛さがないだけマシ。貴方だって、先日お邪魔した時と全然態度違うから、事情ぐらいは聞きたいでしょ?」
そりゃ聞きたくはありますが! そう思いながらも、推測は可能だし、なによりエリアーナさんの今まで知った性格から、隠すことの方が非効率とか言って話してくれると信じて、エリアーナさんの体調を優先した。
「それ大丈夫じゃありませんよね!? 何の薬だか知りませんけど、私に気にせず使ってください! 事情説明なんて元気ならいつでもできるので!」
そういうとエリアーナさんがふらりと歩いてきて、柔らかく微笑みながら頭を撫でてくれた。あの、リディアさんもそうでしたけれど、もしかして私、撫でやすいんですか?
そしてその表情のまま、リディアさんに視線を移して呟くように言った。
「……これだけは約束して、リディア。」
「何?」
「カイやトーマス、他に隠したいっていう意図はわからないでもない。でも、お願いだから私にだけはきちんと話して。昔のように、きちんと相談を、お互いにさせて。」
リディアさんが少し渋い顔をして顔を伏せた。リディアさん、もうこの場で感情を隠す気ないね……その様子を見て、エリアーナさんが私を見た。その顔は真剣そのものだった。
「……そういえば、ミコ。貴方は118年のことを言い当てた。ゼーレンに魔道装甲鎧が現れたこと。クリスタが王国に襲われ、迎撃されたこと。これはつまり、貴方は王国が『強化人間』と呼んでいる存在を知っている……ということで、いい?」
これは、回答に困るけど……でもこれを隠しては進めない気がする……リディアさんが話しづらそうにしてるのはこうした秘密をいくつも抱えてることを私が知ってる、というのを知らないからの可能性もある。そうだね。話せる限り話そう。私は、ゼーレン防衛隊の人達が幸せにこの戦いを終えられる方法を探してるんだから。
「はい。知ってます。サイラスさんが、稲妻で空を覆う白い影を撃退する夢でしたから。そういうことができるのは、『強化人間』だけだとセシリアさんから聞きました。」
「……なるほどね。セシリアはやっぱり王国のスパイか。」
私の返答を聞いてリディアさんがいつもより低い声でぼそりとつぶやいた。
……え? リディアさん? なんで、そうなるの……?
その一方でエリアーナさんが少しだけ目を丸くした。
「リディア。貴方それでセシリアを探っていたの?」
そのエリアーナさんの反応を見て、リディアさんが少し勝ち誇ったような表情を見せてからいつもの不敵な笑みを私に向けた。
「まあね。あ、ミコちゃん何でって顔してるけどさ。エリアーナの言葉を良く思い返してみて? エリアーナはわざわざ『王国が強化人間って呼んでいる存在』って言った理由。」
……え? 待って。王国が強化人間って呼んでいる存在が、王国のスパイにつながるとは……?
多分相当私が困った顔をしているように見えたのだろう。ふんふんと頷くリディアさん。
「ああ、なるほど。わかってないわけね。そもそもさ。私らさ。『強化人間』にしますよーっていって施術されてるわけじゃないんだよね。ザメックおじさん、そういう単語使わなかったから。でもさ、不思議なことに『強化人間』って単語がゼーレンの街中で聞かれるようになって調べたら王国に同じような手術が存在してて、それをザメックおじさんがしただけだって事実が出てきたんだよね。さて、ミコちゃん。貴方ならここまで解説してあげればわかるよねぇ?」
最後はとても満足気な嫌らしい笑顔。これでこそリディアさんではある、けど……
……えっとつまり。セシリアさんがリディアさん達の異常な戦闘能力からザメックさんが強化人間としての施術を行ったのではと推察した。探るために、セシリアさんが『強化人間』という単語をゼーレンの街にそっと紛れ込ませた。その単語が自分達にふさわしい、ないしちょうどいい具合に当てはまるのが不思議と思ったゼーレン防衛隊の皆様が調べたら王国の単語だった……つまり、『強化人間』を知っているのは王国の人間の可能性が非常に高い……!?
その事実に気が付いて私は口を押えた。セシリアさんの素性を喋っちゃったようなもんじゃん! ごめん、セシリアさん! でも危害がないようにだけは、そう思った瞬間だった。
「安心して。セシリアは『王国』のスパイだから処理対象には入らないよ。それに、今回の件で大手柄あげてるし、これからもその立場をゼーレンのために使ってくれるんなら処理する必要性はないどころか、利用させてもらえる方がありがたいぐらいだよ。」
……思わぬところで、セシリアさんは大手柄をあげていたらしい。しかも帝国じゃないから見逃してもらえるらしい。大手柄って何? そう聞きたかったものの、それ以上にその考えの真意を知りたい人が口を挟んだ。
「貴方は……いったい何を考えてるのよ……こういう時の貴方の思い付きは、正直、突き抜けていて予想ができないわ。陽光果の時もそう。ただ軍事資金稼ぎにゼーレンの城壁内で生産しようと言い出しただけと思いきや、過去、カッセルが貴方を強化する際に混ぜた薬品の件まで引っ張り出すのが目的だなんて思わなかったわよ……」
……はい? え、陽光果の特産化の真の目的って自分が強化された際に使用されたかどうかの確認のためなの!?
「私は天才だもんね~ これでもうカッセルは陽光果を悪用できないよ。あんな美味しいものをさ、こんなことに使っちゃだめだっての。美味しいものはみんなで楽しく味合わないとね!」
そう言って親指を立てるリディアさん。……本当、この人の感情の振れ幅ってどうなってるの……? 夢の時も思ったけど……
「そう。特に強化されてからね。貴方の強化は主に神経系の強化……瞬発力や反応速度だけでなく、脳の命令伝達速度の強化も含まれるから、瞬間的なひらめきといった面も大幅に強化されている……一方で、体自体が追い付かないから、貴方は割と、追いつけるように必死に訓練を重ねてる、そうよね?」
強化人間の代償の話を現実に落とし込んだ場合のリアリティが凄すぎるんですけど、神様、これはオリジナル設定? 公式設定?
「まあ、そのせいで。脳がいつだって楽しい感覚欲しがっちゃって、美味しいものとか食べても過剰に喜んじゃうし。嬉しかったりするととっても嬉しかったり、逆に気に入らないと消さないと気が済まなかったりするわけだけどさ。」
感情の振れ幅問題そこ!? しかも本人自覚ありなの!?
「ええ。それがまた魔力を育み、貴方の身体能力強化に使われ……という好循環……と思ったら、そうはいかないのが現実。体が魔力による身体強化状態が普通と誤認するようになって、殺戮衝動が抑えきれなくなって……はっきり言って、一番予後が悪いのは貴方だっていう自覚ある?」
「予後はバルドやディオンほどじゃないでしょ。バルドはもう体は戻らない。ただ、魔力に食われた知力は徐々に取り戻し始めてる。ディオンは魔力を生むために生命力を魔力に変換する体にされていた。魔力の生成能力を落とすことで普通の生活ができるようになりつつある……それに比べたらさ。私は一応普通に生活できるし。」
うん? バルド? ディオン? そういえばセシリアさんがゼーレンの強化人間と言っていた人たちの名前だ。生きているんだ……
でも、その話通りだと私もリディアさんが一番よろしくない気がするんですが気のせい?
「どこが? 感情が魔力を生む。その根源を弄られてる2人はそこを正す方法が見つかれば改善できる。でも貴方とサイラスは? 感情から生み出される魔力に体を慣らされてしまった貴方達を戻す方法が、今だザメックは見つけられてないのよ。」
ですよね……いわゆるループ状態に入っちゃってるからリディアさんの場合、まず拡大していくループをただのループにして、その後縮小、みたいな段階踏んで行かないとダメなやつだと思うんだよね。
「ま、しょうがなくない? ザメックおじさんが探してくれてるだけでも御の字じゃん。確かにさ、今の体、たまに面倒だなって思うことはあるよ。昨日みたいに。でも『調整』があればある程度平気だし、私はもう『調整』は慣れたし。というか楽しいし。」
その一言でエリアーナさんの顔がこわばった。それを察してリディアさんが笑って弁解をする。ただ、その笑うは誤魔化すような笑いではなかった。
「しょうがないじゃん。楽しいものは楽しいんだし。振り回されるのは気に入らないけど、『調整』自体は今は気に入ってる。支部長だしね。これは本当に思っていることだからさ。そういう奴だって、エリアーナもそこは納得してよ。私の感情はさ、他の誰よりどうにもならないんだからさ。」
リディアさんの本音を聞いて、エリアーナさんが渋い顔をしながらため息をついた。
「そう……わかった。貴方がそこまで言うのなら『調整』の件はこれ以上は問い詰めないようにするわ。支部長の顔に免じて。……私も最近のあの人は、信じてもいいとは思ってるから。だけど、許しはしない。」
そのエリアーナさんの言葉にリディアさんの顔がぱっと明るくなる。それを見て困ったような表情を見せつつ、エリアーナさんは言葉を続けた。
「……だから、私はあの人からゼーレンを奪うような真似をしてる。そこまで、貴方は理解してくれて、黙っていてくれてるのよね?」
……エリアーナさんが、ゲルドさんから、ゼーレンを奪うような真似? 今までの言葉は何となくわかってきた私だったけれど、この言葉は少し飲み込むまで時間がかかった。
「まさか? でもその辺は一応考えてやってたんだ。私も大概だけど、エリアーナもか。うんうん。わかった。『お互いに相談しよう』って話も含めて、いいよ。その回答なら。支部長はさ、もう引退して欲しいんだよ。復讐なんか、私が代わりにやってあげるから……さ。」
リディアさんの『支部長はもう引退して欲しい』。これがなければ多分この場で全部は飲み込めなかったと思う。つまり2人ともゲルドさんの事を本当に許したわけじゃない。でも事情は分かっているから、ゼーレンを守る役目だと思ってるゲルド支部長からゼーレンを守る役目を奪い取っちゃおうと思ってる、ってわけ……しかもそれを、打ち合わせなしにそれぞれで行動してやっていた、ということだよね。
お互いを守ろうとすれ違っていたけれど、目指してたものが同じことがわかって2人とも満足した……という感じ?
なんかいい感じに落ち着いてきたみたいだけど、それはそれとして、これは私が聞いててよかったんでしょうか……?
「ミコ。巻き込んで悪かったわね。結果的には貴方が割り込んでくれて助かったわ。何で神託でレオンが出てきたのかは後でじっくり聞くから覚悟しておいては欲しいのだけれど、貴方が強化人間についてある程度把握している可能性は以前の神託の話でトーマスの話が出た時に考慮していたわ。今、リディアと話した話は確かにゼーレンの裏側も裏側の話。だけど全てではない。知られて困ることでもない。」
「そもそも、知られて困るようなことをさ、私とエリアーナが第三者がいるって知ってて話すと思う? 貴方がある程度知ってるとわかった上で、今回巻き込まれた理由が貴方にもわかる程度に話してたつもり。」
……あの。そうなるとお二人ともとても高度なことをしながら、仲直りをしましたよ、という所を見せてくれたと……うん? なんかおかしくない? なんか、仲直りをしたという証言者みたいにされた気がするんだけど気のせい……?
というか、私がすんなりと、きちんと理解できた理由それ!? 2人ともずるい! っていうか頭が良すぎなんです!!
「さて、エリアーナ。いい加減、薬打とっか? どうせすぐ効いてくるわけじゃないんでしょ?」
「いい? いいわね、リディア。嫌なら嫌って言って。2人きりの時でもいいから。絶対よ。」
「もうしつこいっての。私は約束は守るよ。きちんと相談もする。相談にものってあげる。だから安心しなって。もう変に誤魔化したりしないよ。2人きりの時だけだけど、さ。」
「……わかった。今は、それでいい。」
そういって、エリアーナさんがベッドの裏に置いてあった注射器を取り出して自分で打った。手慣れてるから、この人、やっぱり自分で……
「さて、ミコちゃん。本題に戻ろっか。ミコちゃんは何でここにきたんだっけ? 私とエリアーナの喧嘩に巻き込まれにきました、なんて話じゃないよね。当然。」
そういうリディアさんの表情は、私が知ってるリディアさんで……なんでか凄く、ほっとした。




