第19話 黎明高校のインフルエンサー
今日は金曜日。佐伯と放課後遊ぶ約束をしていた当日だ。
そして、俺は何故か葵と七宮さんの2人共に黎明高校の校門前に立っていた。
「なあ? なんでまた俺の用事に2人が付いて来るんだよ」
「彩葉とアンタが親友同士っていうのが本当だったのは分かったけど。今日は駄目よ。今日は」
「はい。その通りです。彩葉さんは汐崎君を1ミリも異性として見ていないのは理解できましたが。今日は後輩の女の子達とデートなんですよね? 阻止させて頂きます」
なんだコイツ等。俺が後輩達に何かすると思ってるのか? 陰日向者を自称する俺にそんな度胸があると思うなよ。
「……つうか。葵、お前俺とは学校じゃあ距離を置くんじゃなかったのかよ? それとやけに俺に引っ付いてくるのはなんなんだ?」
「そんなのマーキングに決まってるでしょう。変なのが寄り付かない為のね。それよりもそろそろよね? 静華ちゃん達がやって来るのって?」
「その予定の筈なんだけど……来ない……な?」
いきなり視界が誰かの手で防がれてしまった。
「汐崎先輩~! 先輩のお目めを塞いじゃったの誰だと思います~?」
「……遅刻魔の佐伯 静華だろう?」
「はぁー! 良く分かりましたね。流石が汐崎先輩。やりますね~」
「その独特なハスキーボイスで質問させたら分かるつうの……というか遅かったな。何してたんだよ」
俺は佐伯がいる方を見るとニマニマと不適な笑みを浮かべる佐伯の後ろに2人の女の子が立っていた。
「いや~! 私の親友のみーちゃんとはーちゃんか黎明高校のインフルエンサーさん達とお話するのが恥ずかしいから日をまた改め様とか言い始めたから。説得に時間がかかってたんですよ~! すみません~」
「だっだって。カリスマギャルの超絶可愛い織姫先輩とお話なんて恐れ多いよ。静華ちゃん」
「カリスマギャルっ!……」
「そ、そうですわ。黎明高校の窓際のご令嬢って言われる七宮先輩のお時間を取らせてしまうなんてもうわけありませんわ」
「窓際のご令嬢っ!」
「え~! でも汐崎先輩を餌に黎明高校のインフルエンサーである織姫先輩と七宮先輩にお近づきになりたいとか言い始めたのは2人ですよね~?」
……佐伯の奴。だから俺に放課後デートしましょうとか言ってきたのか。つうか本人が居る前で本当の事を暴露してんじゃねえよ。
軽く傷つくだろうが……そうか。俺は餌だったのか。てっきり可愛い後輩達と今日は放課後カラオケでも行くのかと思っていたが。そんな事はなかった。
「貴女達。分かってるじゃないっ! 良い子達ねっ! このカリスマインフルエンサーの私と仲良くなりたいのね。見る目があるわ」
「はい。その通りですね。私達とこれから喫茶店……は怖いのでしばらく行きたくありませんね……どこか静かな場所でお話ししましょう」
「「は、はいっ! よろしくお願いします。織姫先輩。七宮先輩」」
そして、何故か葵と七宮さんはテンションが高く。後輩の女の子達に優しく接し始めた。
◇
《ファミレス デイスティニー》
「佐伯。よくも俺を騙してくれたな」
「はい? 何の事ですか? 自称陰キャのリア充汐崎先輩」
「今更とぼけんな。俺が佐伯や女の子達と遊べば葵や七宮さん達が付いてくるって事を予測してたろう? よくも俺を餌とか言ってくれたな」
「えへへ。いや~、すみません。汐崎先輩~」
「……たくっ!」
佐伯の奴は昔から俺をよく騙す事がある。
彼氏に浮気されたから慰めてほしいとか。後、今晩は一緒に居たいですとか。
彼氏と上手くいかないんで新しく彼氏候補を紹介して下さい。など言って俺を戸惑わせ。
(ぶふぅ~! は~い。全部演技ですよ~! 驚きました? 驚いちゃいましたか? 汐崎先輩~!)
などと言っておちょくってくるのがいつもパターンなんだよな。
「親友ちゃん達のお願いをどうしても叶えたかったんですよ~」
「お願い? ああ。葵と七宮さんとお話ししたいってやつか」
「そうそう。それですよ。それ~、黎明高校の子達ってシャイな娘が多いじゃないですか~」
「……まぁ。進学校であし、お金持ちも通う学校だから大人しいお坊ちゃんやお嬢様の生徒も結構居るな」
黎明高校は校則は緩いがその分生徒の質はかなり高い。しかも問題行動を起こす生徒は殆んどいない。葵や五月女の様な一部異端な存在は居るが。
「だから。汐崎先輩を使って織姫先輩達を誘き寄せたんですよ~、海老で鯛を釣る的なあれです」
「ほう。佐伯お前。それは俺は餌にしかなり得ない小海老と言いたいのか? 俺の事を」
コイツは昔から本当に俺に勝者無く言葉のナイフを突き刺して来るよな。何か佐伯に対して嫌な思いをさせた事なんて一度もない筈なんだがな。
「当たり前ですよ~! 汐崎先輩は私の心をいつもぐちゃぐちゃのぐちゃ~にしてくれちゃってますからね~! 容赦しません」
「なんでだよ。俺、佐伯に嫌われる事を何かしたか?」
「……現在進行形で行われてますよ。汐崎先輩には分かるわけないと思いますけどね。プイッ!」
佐伯は両頬を膨らませると注文受け付けようのタブレットを手持ち操作し始めた。
「なんか怒てないか? お前……つうか荒れてるだろう?」
「別になにも怒ってません。それよりもお腹空いてきちゃいました。汐崎先輩。今日は私の餌になってくれた俺に何か一品好きな料理注文していいですよ。私の奢りで。良かったですね~」
「相変わらず変な後輩だな。佐伯は……」
俺は呆れ顔で佐伯がメニューを注文するのををボーッと眺めていた。
「………このにぶちん先輩は本当に仕方ありませんね……昔から本当に変わりませんね。この人は。フラれた恨みで一生ディスちゃいますからね。汐崎先輩~」
佐伯はボソボソと何か言っていたが小声であった為、俺は佐伯の声を上手く聞き取れなかった。