第20話 七夕前日の撮影会
パシャパシャッ!
「良いわっ! 凄く良いわよっ! アナタ達凄く良いっ!」
今、俺の目の前には筋骨隆々のオネエが汗だくになりながらカメラを撮影している光景が広がっている。
「私達……凄く相性が良いらしいですよ。光君」
「霞鬼さんは1ミリもそんな事言ってないだろうが。つうか近いんだけど? トップアイドルさん。スキャンダルになるぞ」
「その心配はありません。あの写真は私個人が所有するだけで他には漏らしませんから」
「漏らしませんからじゃないわよ。カレン。身体を密着させ過ぎよっ! 今すぐ離れなさいっ!」
……現在、俺は有栖川が所有している撮影スタジオでモデル撮影のバイトをしている。
俺は以前の様に海パン一丁に有栖川は白いワンピースの水着を着ている。そして、何故か俺が身体を横にし。その上に有栖川が乗るという謎のポーズをとらされ撮影されている。
「バイトとはいえなんで俺がこんなポーズを……」
「既成事実の為です……後は夏の思い出作りみたいな感じですね」
「光から離れなさい~! カレン~! 光もデレデレした顔すんな~!」
有栖川は嬉しそうに微笑み俺の身体を擦り始めた。コ、コイツ。この間の学校での一件以来俺に遠慮しなくなってきたな。そして、葵は怖い顔で俺を見ていた。
どうしてこんな状況になったのかというと。あれは数時間前の遡る。
▽
「土日の休みは最高だ。エアコンが聞いた部屋に引きこもり勉強を……」
カチャッ……ガラガラッ!
「一緒にやるわよ光~!」
「葵。お前っ! 当たり前の様に俺の部屋に侵入して来るんじゃな……」
ピンポーン!
「ほらほら。お客さんよ。今日はこの家にアンタと私しかいないんだから出なさいよ」
ピンポーン!
「……なんで嬉しそうなんだよ。は~い。今行きます」
ガチャッ!
「イヤンッ! フー、フー、来ちゃったわ。汐崎君」
玄関の扉を開けると筋骨隆々のオネエゴリラが汗だくになり。興奮しながら立っていた。
「…………」
俺はその光景に静かに戦慄し。そっと玄関の扉を閉め様とした瞬間。
ガチンッ……バキッ!
「待てやコラ。せっかくこの蒸し暑い中。可憐ちゃんが来てるのよ。挨拶しないと駄目じゃない?」
それは父さんに良く見せられた漫画の……BAKIや何とか阿修羅とかの漫画の1シーンみたいだった。
こちらが両手で一生懸命に扉を閉めようとしているのにびくともせず。
顔色一つ変えず。片手だけで玄関扉ドアノブを軽く握る筋骨隆々オネエゴリラが、ゆっくりとゆっくりと家の玄関扉を開けていく光景。
いや。どんな光景だよ。
「くっ! け、警察に電話しないと……」
「何を言ってるのよ。今日は撮影のバイトお願いしてた日でしょう? 汐崎君に。待ってるのが嫌だからってこの娘が迎えに来たのよ」
「ん?……ああ、野生のゴリラかと思ったら霞鬼さんでしたか。驚かせないで下さいよ」
「……誰が野性味があるゴリラよ。褒めてもなにもあげないわよ。それより……可憐ちゃん。汐崎君居たわよ~」
褒めてねえよ。なんでそんな風に聞こえるんだよ。つうか。霞鬼さん。今、有栖川の名前を呼ばなかったか?
「は、は~い。ありがとうございます。霞鬼さん……お、おはようございます。光君。今日は撮影の日なので迎えに来ました。光君を4時間も束縛出来る時間があるなんて夢みたいです」
……日本の国民的アイドル有栖川 可憐が純白のワンピースに日傘を持って元気に挨拶しながら現れた。そして、言葉の端々《はしばし》に何か引っ掛かる単語が聞こえたのは俺の気のせいだろうか?
「あ、ああ。おはよう。有栖川……」
そうか。今日はバイトの日だったか。たしか朝、有栖川から連絡が入ってたのは気付いてたけどまさか迎えに来られるなんて思ってもみなかった。
「何~? 誰が来たの? 光~、アンタは今日。1日中私と過ごす予定なんだからね~……てっ! カレン? 何でアンタがここに居るのよ」
「おはようございます。葵さん。何でって私のこちらでの撮影スタジオはここから歩いて直ぐの場所にありますから。光君を迎えに来て当然ですよ」
……そうなのである。有栖川のこっちでの家兼撮影スタジオは何故か俺の家の直ぐ近くにあったらしい。だから呼び出しの連絡を受けても数分足らずで撮影スタジオに行けるんだよな。
それにしてもあの塀に囲まれてやたらと広い家って有栖川本人の持ち家だったのかよ。つうか。どんだけ金があるんだ? 有栖川の奴。
〖子役の時に稼いだお金は私の両親が私の為にとと不動産に投資してくれていたんですよ。光君。ですので私は毎月莫大なお金が頂けるのです〗
とか前にあの撮影スタジオであった時に言っていたが。芸能界で成功するとここまで凄くなるのか……夢があるな。
「光君。今日は突然、押し掛けて申し訳ありません。ですが急遽。こちらでお仕事が決まって光君の力が必要なんです。プロモとかの写真ですが」
「……仕事? 有栖川が本人が来てか? たしか地方の仕事は行かないんじゃなかったのか? 移動の時間が勿体ないとかで」
それが何でそんな目立つ格好で俺ん家に現れたんだろうか?
「地元のお仕事依頼は別です。それに明日は7月7日の七夕の日で黎明高校は特別休暇でお休みですよね?」
「……七夕の日」
葵が一瞬。有栖川の言葉に強く反応した。やっぱり意識するよな。なんせ明日は葵の……
「ん? ああ、そうだな。それで近くの神社では七夕祭りのお祭りが開かれるとか。回覧板で見た気がする」
「そのお祭りでライブイベントをやるんです。その為に急遽浴衣を着た写真を撮影しなくちゃいけなくなったので光君に連絡したんですよ。では早速参りましょう。光」
「は? いや。これから俺は勉強を……」
「あっちでも出来るし。分からなかったら。ハーバードを首席で卒業した私になんでも聞きなさいよ。汐崎君」
「時間がありませんのでごめんなさい。光君。バイト代は弾みすので」
は? アンタ。そんなに学業優秀だったのかよ? つうか。バードって言うよりゴリラだろう? 霞鬼さんはっ!
「ちょっと! 光をどこに連れて行く気よ。アンタ達っ! 待ちなさいっ!」
◇
なんて事があってから数時間。霞鬼さんに服を無理矢理剥ぎ取られ。
葵や有栖川が居る目の前で浴衣やら海パンやらを着させられ。撮影に望んだ。
「オーケー! いつも通り。その綺麗なお目めと素敵なお体は加工しないで使わせてもらって。目以外の顔はAIで別の顔に変えさせてもらうから安心してね。汐崎君」
「あ、ありがとうございました……おいっ! 離れろ。有栖川」
俺は撮影が終わっても俺の身体から離れようとしないと有栖川を無理矢理引き離した。
「きゅうあ?! ひ、酷いです。光君。何をするんですか?」
「お前が何をしているんだよ。たくっ!」
コイツ。最初の再会した頃はおしとやかにしてたくせに。一度心を開いた人間にはやたらと甘えてくるんだよな。
そのうえドSぽい所もあるから油断できん。
「カレン~! アンタ。 光にくっ付け過ぎよ~! お仕置きしてあげるんだから~!」
「ひしゃあ? 葵しゃん。なんで私の頬っぺたをのばしゅんですか~?!」
……コイツ等も大分仲良くなったな。
「しかし。明日は七夕の日で七夕祭りか……葵の誕生日」
俺はボソッとそう告げると有栖川とじゃれ付く葵の顔をボーッと眺めていた。




