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53 お姉様救出作戦2

 騎士団詰所の奥にある自室で、俺は報告書とにらめっこをしていた。

 けれど、文字はまったく頭に入ってこない。

 

 聖女認定の儀から、胸の奥がざわついて仕方がなかったからだ。

 彼女が聖女として認定された、あの日の光景は今でも脳裏に焼き付いて離れない。


 純白に輝いた聖杯と神々しい光。

 そして、虚ろな瞳でリュシオン殿下に従う彼女。

 

 あの時のセレナの様子は明らかにおかしかった。普段のセレナとは何かが違う。


 だが、セレナの具合が悪くなったという噂は聞こえない。

 彼女は聖女として丁重に扱われているらしい。

 日々祈りを欠かさず浄化の日に邁進している。

 と、しか伝わってこない。

 

 セレナの様子を一目見ようと思い、あれから何度もセレナへの面会を求めてみたが、全て断られるばかり。

 

 俺は彼女に何が起こったのか真実を確かめる術もなく、ただ焦りと無力感に苛まれる日々を送っていた。


「団長に面会者です」


 そんな日常を壊すかのような報告が入った。

 俺に至急、面会を求めているが方いるというのだ。


「誰が面会を求めているんだ?」

 

「ヴァルムレーテ公爵家の執事長と侍女、そして……クレフィーヌ子爵家の御令嬢です」


 ヴァルムレーテ家!? セレナの使用人が……?

 俺は妙な胸騒ぎを感じ、執務の手を止めて即座に立ち上がった。


「……すぐに通してくれ」


 執務室に通された三人の表情は、一様に硬く、そして深い悲しみに満ちていた。特にセレナの侍女であるクラリッサという若い女性の目は、泣き腫らしているのか痛々しいほどに赤い。


 一体……セレナに何があったんだ?

 俺の心臓が、嫌な音を立てて軋む。


「マティア殿にクラリッサさん、お久しぶりです。それと……そちらのご令嬢はクレフィーヌ家の――?」


「ええ、お初にお目にかかります。ミレイナ・クレフィーヌと申します」

 

「騎士団長のカイル・ラザフォードです」


 今は時間が惜しい。最低限の礼を尽くしてから、俺はすぐに本題に入る。


「それで……何があったのでしょうか?」

 

 精一杯平静を装った俺の問いに、老執事――マティア殿が、重々しく口を開いた。


「ラザフォード団長。突然の訪問、お許しいただきたい。……本日は、ラザフォード様にお願いがあって参りました」

 

 彼は深く頭を下げると、一枚の羊皮紙を俺の前に差し出した。

 

「まず、こちらを……。こちらのクレフィーヌ嬢に、王太子殿下から届いたものにございます」


「王家からの手紙……?」


 マティア殿から豪奢な手紙を受け取ると、クレフィーヌ嬢に視線を移す。俺の視線に答えるように、彼女は静かに頷いた。

 

 それを見た俺は、不安を押し殺して覚悟を決め、手紙の中身に目を通す。

 

『――セレナティアは、記憶を失った』


「なっ……なんだと!」


 その一文を読んだ瞬間、頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。

 そうか……だからあの時。いや、本当はなんとなく察しがついていたんだ。


「我らが主、セレナティア様は……聖女認定の儀にて記憶を失われたようです。ですが、我がヴァルムレーテ家には情報が全く入ってきておりません。推測ですが……殿下からのこの手紙は恐らく真実かと」


「………………」

 

 マティア殿の静かな声が、遠くに聞こえて返事をすることもできない。


 あの時のセレナは何処かおかしかったのに、俺は止めることができなかった。俺の感じていた不安は、正しかったのに……!


 己の不甲斐なさに、怒りで目の前が真っ赤に染まっていく。


 思い出されるのは、彼女が儀式の前に送ってくれた、あの不安に満ちた手紙。

 これは、ただの事故などではない。何者かの、明確な意思が働いている。

 

 俺が守ると誓った、あの笑顔は……もう失われてしまったのか?

 もう手遅れなのか?

 

 ――いや、セレナはまだ王宮にいる。やれることはあるはずだ。

 

「マティア殿。セレナティア様は王宮の奥で、外部との接触を一切断たれた状態にあります。私の立場ですら、お会いすることが許されないのです」


 俺は、震える拳を強く握りしめ、顔を上げた。

 目の前にいるのは、セレナを案じて藁にもすがる思いで俺に会いに来たであろう、3人の姿。


 ――俺は、彼らの期待に応えることができるのか?


「ラザフォード様。貴方様にはお嬢様を救う覚悟がございますか?」


「マティア殿。どういう……ことですか?」


「私たちは聖女の文献を調べました。しかし、浄化の儀式以降の記録がないのです。まるで意図的に消されたかのように……」


「記録が意図的に……? まさかっ!?」


「そうです。浄化の儀式が済めばお嬢様は消されてしまうかもしれません。その前になんとしても、お嬢様を救い出さなければならないのです」

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