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51 新しい生活

 この部屋が私の居場所になって、どれくらいの時間が経ったのでしょうか。


 王宮の奥深くにある、白を基調とした豪奢な部屋。私は、大神殿とこの部屋を往復する暮らしをしています。時間が来れば大神殿で祈りを捧げる、それが私の唯一の仕事です。


 神官さんたちは、いつも美味しそうな食事を丁寧に用意して下さいます。部屋には美しいドレスなどはありませんが、清潔な純白のドレスが毎日用意されます。


 皆さんはとても礼儀正しく、常に私に気を遣ってくれます。感謝しかありません。


 けれど……ふとした時に寂しさを感じてしまいます。


 なぜでしょうか?


 何も困ってはいないはずなのに、なぜか誰かを探してしまうのです。それに、誰を探そうとしているのか、自分でもまったく分からないのです。


 そんな奇妙な癖のようなものが抜けません。


 あと、この部屋の窓は開けられません。もちろん、唯一の出入り口である扉も、外から鍵がかけられています。


 私の部屋に訪れるのは、祈りの時を知らせに来る神官さんと……リュシオン殿下だけです。


 殿下はとても優しく、私を大切にしてくれます。気遣うように声をかけてくださり、髪を撫で、笑いかけてくれます。


 私が未だに何も思い出せないことを気にしていても「大丈夫だよ」と微笑みながら励ましてくださるのです。その姿は、まさに理想の婚約者そのものだと思います。


 なのに、どうしてなのでしょう。


 殿下のことを好きになれないのです。


 こんなに優しくして下さるのに。

 悪いことなど何一つされていないのに。

 見た目だって素晴らしい男性です。


 でもなぜか……殿下とは、心の距離を取りたくなってしまうのです。


 ……こんな私は、婚約者失格です。


 ですから、優しくしてくださる殿下のためにも、聖女としての務めである『浄化の儀式』だけは……何としても成功させないといけません。


 


 ある日、鏡の前に立った時に、自分の瞳が気になりました。


 その瞳は、やっぱり誰かを探しているようでした。


 誰か――どなたか分かりませんが、とても大切な誰かです。


 名前も顔も思い出せないのに……その人の存在だけが、確かに心の奥に残っているのです。


「私は、誰を……探しているのですか?」


 問いかけても、もちろん答えは返ってきません。ただ、胸の奥がちくりと痛みました。


「えっ……?」


 おまけに涙まで流れて来てしまいました。とめどなく流れ落ちる雫に、自分でも戸惑ってしまいます。


 早く記憶が戻るように、しっかりとお祈りをしないといけませんね。



 


 私は、公爵令嬢なのだそうです。それなのに会いに来てくれる人はいません。以前は誰かにお世話になっていたはずなのですが……側にいたはずの執事さんも、いえ、侍女さんかもしれませんね。その方ですら、この部屋に姿を見せることはありませんでした。でも、私とその方たちは仲が良かったような気がしているのです。

 

 会いたい。

 話したい。

 

 けれど、彼らの名前すら思い出せないのが、とてももどかしく感じます。


 この空虚な時間の中で、私はただ、「違和感」と「空白」を抱えたまま、祈りと沈黙の日々を過ごしていくのでしょう。





 と、思っていました。

 それなのに『これ』は何でしょうか?

 

 目の前には不思議な四角い枠が浮かんで見えます。光る枠の中に半透明の文字列が浮かんでいるのです。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 最終ミッション

 《聖女として国を浄化せよ》

 期限:無期限

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 最終ミッション?

 どういうことなのでしょう?


 思わず手を伸ばしてしまい、その光の枠に触ってしまいました。

 すると――。

 

 ピコン!


 軽やかな音ともに枠の中の文字が変わりました。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ▼説明を見る

 

 やっほー! セレナティアちゃん。

 元気に聖女してるぅ~?

 

 このウィンドウは聖女であるあなたにしか見えないのよ~。

 だ・か・ら・このウィンドウのことは誰にも言っちゃダメよ?


 がんばって国を浄化しようね♪

 あなたならきっとできるわ

 

 あなたの神 エル=ナウルより  

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 どうしてでしょう。


 あいては神様だというのに……。

 妙にイライラしてしまいました。

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