表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホワイトウィッチトライアル  作者: 初芽 楽
第2巻 二人の空
44/177

第3章 二人の想い(4)

 夜になり、真守まもりは宿の温泉にかっていた。火輪山ひわざん近くに滞在する間は、基本的には近くにあるヘンシェル教会の支部に泊まることになっているが、今日は温泉に入りたいということで火輪山ひわざんふもとにある宿に泊まることになった。温泉には、真守まもりの他にエレンと鈴花すずかしかおらず、ほとんど貸し切り状態だ。というものの、この宿は霊媒のために作られた施設であり、真守まもりのような霊媒が来たら優遇されるようになっている。


 そこで三人でおしゃべりすることになった。女子が三人集まっているので、話題は当然恋の話になる。切り出したのは真守まもりだ。


「ところで鈴花すずかさん。実際のところ、鈴花すずかさんは空麻くうまさんとお付き合いをしているのですか?」


 真守まもりとしては当然気になるところだと思っていたのだが、鈴花すずかにとっては予想外の質問だったらしく、顔を赤らめて首を横に振りだした。


「そんな……空麻くうま君とはそういう関係じゃないですよ」


 鈴花すずかはそんなことを言うが、真守まもりは簡単に信じることができない。空麻くうまと鈴花の仲が良いところは学校で何度も目撃しているのだ。あからさまに恋人同士であるかのような素振りは見せていないが、お互いに全く意識していないわけがない。


「じゃあ、鈴花すずかさんは空麻くうまさんのことをどう思っているのですか?」

「どう思ってる……って……」


 困惑する鈴花すずかに容赦することなく、真守まもり鈴花すずかに寄っていく。


「そりゃ……空麻くうまさんと恋人同士になりたいと思っていますか? ということですよ」


 さらに困惑した鈴花すずかはエレンの方へと視線を送った。しかしエレンは目をつむって首を横に振る。


鈴花すずか。諦めなさい。こうなった真守まもりは止められないわ。私だって同じように攻められたものよ」


 そう言えばそんなこともあったと真守まもりは思い出す。エドガーを捕まえてミヨクの容態が回復した頃に、エレンと一緒に眠ることがあり、その時エレンに恋の話を持ち掛けたのだ。残念ながら、エレンからは真守まもりが気に入るような話は聞けなかった。


 念のため、真守まもりはエレンにも聞いてみた。


「そう言えばエレンちゃん。あれから結構経ちましたけど、彼氏はできましたか?」

「いいえ。ご期待に沿えなくてごめんなさいね」


 そうエレンが答えると、真守まもりはつまらなさそうに唇をとがらせる。


「ええ……。でもエレンちゃんくらい可愛い子だったら、告白してくる男の子が一杯いるでしょう」

「そんな人いないわ。前にも言ったでしょ。私みたいな人間はあまり人気がないのよ」


 魔術師の世界では、恋人選びは魔術師としての家柄や魔術属性を考慮されることが多いらしい。そしてミディアムを恋人として選ぶ人は男女関係なく少ない。そういう事情もあって彼氏はできないとエレンは言っていた。しかしエレンは理想が高そうだし、そもそも恋愛にあまり興味がなさそうだ。それを真守まもりは寂しく思う。


「では、エレンちゃんの今後にご期待ということで……」


 真守まもりは視線を鈴花すずかに移した。鈴花すずかは標的がエレンに変わったことに安心していたらしく、真守まもりの注目が自分の戻ってきたことに驚いていた。


鈴花すずかさん。話を脱線させてしまってごめんなさい。ところでさっきの質問なのですけど、鈴花すずかさんは空麻くうまさんのことが好きなのですか?」


 真守まもりの見立てでは、鈴花すずか空麻くうまのことが好きだ。だけど霊媒の立場を考えて告白できないでいる。それならば鈴花すずかを後押ししなければならないという謎の使命感を真守まもりは持っていた。


「いえ……そんな……。確かに気にならないことはないですけど……」


 真守まもりの予想通り、鈴花すずか空麻くうまに気があるようだ。しかしその想いを打ち明けないでいるような印象を受ける。真守まもりにはその理由も察しがついた。


「もしかして、自分が霊媒だから空麻くうまさんに恋してはいけないって思っていますか?」


 真守まもりの問いに対して、鈴花すずかは首を縦に振った。確かに自分達は霊媒だ。そして霊媒能力を駆使して戦う、戦闘霊媒と呼ばれる人間だ。そんな人間が、霊媒でもない人間に恋するのはとても難しいことだ。鈴花すずかは比較的戦闘に参加しない方だが、それでも負い目は感じるだろう。


 それを理解しつつも、真守まもりは反論する。


「でも空麻くうまさんも霊媒ですよ。今は自分の力を忘れているだけで、元はとても才能のある霊媒なはずです。もうこちらの事情も知っていることですし、今なら問題はないのでは?」

「けど、私達、龍水りゅうすい家は空麻くうま君を巻き込んだから……。私には空麻君を好きになる資格はありませんよ」


 鈴花すずかはそう言うが、空麻くうま龍水りゅうすい家に保護されているのであり、巻き込まれたわけではない。むしろ空麻くうまを保護しなければ彼が危険に晒されていた可能性が高い。そもそも仮に鈴花すずか空麻くうまを巻き込んだとしても、それで鈴花すずか空麻くうまに恋してはならない理由にはならないと真守まもりは考える。


 真守まもりは鈴花に何か勇気づける言葉をかけようとしたが、その前にエレンがこんなことを言った。


鈴花すずか。それで遠慮してしまうということは、そもそも好きじゃないということよ」


 なかなか厳しい指摘だが、その通りだと真守まもりは思う。本当に空麻くうまのことが好きなのであれば、多少厄介なことに巻き込んでしまったとしても、自分がなんとかするから大丈夫だと思うはずだ。


 それはともかくエレンの発言は真守まもりにとっても意外であった。


「エレンちゃん。けっこう熱いこと言いますよね」


 恋愛に対してうといと思いきや、本当は興味津々なのだろうか。エレンはいつもの涼やかな態度は変えずに、何でもない風にこう答えた。


「別に……。ただ、鈴花すずかと似たような考えの人を知っているから……」


 なるほど。それをアドバイスするということは、なんだかんだ言ってエレンは鈴花すずかのことを友達だと思っているということだろう。


 真守まもりは改めて鈴花の方を向く。


鈴花すずかさん。そういうことだと思いますよ。巻き込んだとか、資格がないとか、そんなことは置いておいて、まずは自分の気持ちと向き合ったらどうですか?」


 確かに相手を思いやることは大切だ。しかしだからといって自分の気持ちを封じ込めていい理由にはならない。真守まもりはその想いを伝えてみると、鈴花すずかはゆっくりだが、はっきりと分かるように頷いた。


「分かりました。よく考えてみます」


 鈴花すずかの恋が成就じょうじゅしてほしいと真守まもりも思う。今後は進捗状況を逐一チェックして、鈴花すずかの報告を受けることにしよう。


 そこで鈴花は上目遣いで真守まもりに訊く。


「それにしても真守まもりさん。楽しそうですね」

「それは、女の子同士で恋バナしているのですから、楽しいに決まっているでしょう」


 どこか不満そうな表情を浮かべる鈴花すずかの横から、エレンがこんなことを言ってきた。


「人の話しにくいところを話させて、困っているところを見て楽しんでいる、つまりこれも一種のサディストね。確かに、真守まもりってそういうところがあるわ」


 サディスト。他人に肉体的及び精神的苦痛を与えることに喜びを感じる人のこと。自分はそんな酷い人間であると思いたくないが、始めて言われたことでもないので反論もしにくい。むしろよく言われる。


 追撃するように、エレンが言葉を続ける。


「ところで、真守まもりにも話していただきたいわね。恋愛事情を」


 真守まもりは困った。しかしそれは、恥ずかしいから話したくないという理由ではない。もっと根本的な問題だ。


「あの……私には、残念ながら、特にそういうの浮いた話はありませんから」

「それでも、真守まもりなら告白されることくらいはあるでしょう」


 エレンが突っ込んでくる。しかしこれに対しても相手が満足するような回答を真守まもりは用意できない。


「ありませんよ。中学の時は少しだけありましたけど、高校になってからは一度もありません。霊媒仲間の中でもまったくありません」


 真守まもりは今まで恋というものに無縁だった。戦闘霊媒の中でも避けられがちだったし、学校内でも少し距離を置かれていた。


 そこで鈴花すずかが何か疑問を持ったのか、首を傾げた。


「あれ……。久遠くおん先輩って、一年生の時に三年生のアイドルみたいにかっこいい男子に告白されたんじゃなかったでしたっけ。そして、消えろって言って振ったとか」


 そんなこともあったと真守まもりは思い出した。一時期学校中で噂になり、なぜか当時の三年生の女子に責められることもあった。しかしあの話には大きな誤解がある。


「だって、あれは告白なんて可愛いものじゃなかったですもの」


 あの男子生徒が意図的に真守まもりを悪く言っただろう。特にその男子生徒に対するいきどおりは感じず、むしろ真守まもりは哀れに思った。


「初対面なのに、急に体育館裏に呼び出されて、壁際まで迫られて、俺と付き合えよ、って言われたんですよ。俺は学校のスターだし、とか、先輩の俺が大人の世界を教えてやる、とか、気持ち悪いことさんざん言われました。きっと、私みたいな女なら簡単に遊べると思ったんでしょう。だから私は怒ったのです」

「なるほど……。それは嫌ですね……」


 鈴花すずかは納得しかけたが、すぐにまた別の疑問を持ったようだ。


「でも、久遠くおん先輩なら簡単に遊べるというのは違うと思いますよ。むしろ先輩を彼女にして自慢したかったんじゃないですかね」


 鈴花がそう言うと、真守まもりはおかしそうに笑った。


「まさか……。私みたいな地味で、眼つき悪くて、可愛くない女、彼女にしても自慢になりませんよ」

「えっ……?」「えっ……?」


 そこで、場の空気が一気に凍り付いたのを真守まもりは感じた。鈴花すずかとエレンが信じられないという風な眼差しで真守まもりを見ているのだ。さすがに異様な雰囲気を察して、真守まもりは笑みを消した。そしておそるおそる訊いてみる。


「あの……、どうしましたか?」

「どうしましたかじゃないですよっ!」


 鈴花すずかが急に大声を上げた。少し怒っているようにも見える。真守まもりは訳が分からず、エレンに助けを求めたが、エレンも鈴花すずか側についているようで真守まもりにらみつけていた。


 鈴花が真守まもりに詰め寄り、畳みかけるように言う。


久遠くおん先輩、自分が美人だって自覚ないんですか? みんなの憧れの的なんですよ。告白されないのは、あの事件の所為で怖がられているだけで、先輩と付き合いたいと思っている男子はいっぱいいますよ」


 鈴花すずかの熱弁に押されて、真守まもりは何も言えなくなってしまった。横でエレンが深く考える仕草をしながらこんなことを言う。


「そうね。まあ、自分の容姿を自慢するような性格ではないとは思っていたけど、まさかコンプレックスを持っていたなんて……」


 エレンも鈴花もそう言うが、真守まもり自身はそんなことを今まで考えもしなかった。むしろ自分は目つきが悪く、男受けしない顔立ちをしていると思っていた。


「お二人ともお世辞が上手ですね……。そんなにおだてたって何も出ませんよ」

「お世辞じゃありません!」


 これ以上否定しても無駄だと真守まもりは察したが、それでも頷くことはできなかった。自分のような人間が男性に好かれることも、ましてや自分が恋人を持つことも全く想像ができない。


「私は久遠くおん先輩がうらやましいです」


 自分は鈴花すずかのような可愛らしい容姿がうらやましいと思っているが、それを口にできる雰囲気ではないと真守まもりは判断した。


「それは……光栄です……」


 そう言いながらも、真守まもりは心の中では納得できなかった。エレンはともかく、鈴花は真守まもりがどういう人間かを知っているはずだ。


 自分には、恋人を作るというような、人並みの幸せを得る資格はない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ