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ホワイトウィッチトライアル  作者: 初芽 楽
第7巻 ストアフルエリア
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第2章 事案発生(3)

 爆発の後、真守まもりは警備員と共に二階を確認した。複合商業施設とはいえ、敷地が広大なわけでもない。東西二か所の大きな階段と非常階段があるが、どれも爆発により崩壊して、一階へ通じる道は瓦礫の山によって封鎖されていた。さらにサンクチュアリには窓がほとんどない。あっても通気のための小さな窓くらいだ。日光が当たらないメイスラなら特に、建物に窓をつける必要性が薄いのだろう。ということで現状、二階以上にいた人が一階に降りれそうにない。火災が起きなかったのが不幸中の幸いだろう。


 真守まもりはソニアや他の警備員達と合流する。その頃には、上の階から避難してきた人も増えており、二階は人混みができてしまっている。警備員の数も四人に増えている。


 真守まもり達は捕まえた男を囲みつつ、今後の立ち回りを決めるために話し合いを始める。


「二階を確認しましたが、どこも爆発によって封鎖されて、一階へ避難できません。下からの救助を待つしかないですね。奇跡的にですが、二階に怪我人はいませんでした」


 真守まもりの報告を聞いて、一同はとりあえずは安堵する。こんな状況で怪我を負われては治療のしようがない。


 しかしとてつもなく大きな問題が上の階にある。


「銃声がしました。下りて来た人の話から察するに五階のイベント会場らしいですが、この人の仲間が人質を取って立てこもっていることは間違いなさそうですね」


 真守まもり達は犯行声明を見聞きしたわけではないが、もはや確定した事実だと言っても過言ではないだろう。ここからは人質事件が発生したことを前提として考える。


 警備員の一人が真守まもりの言葉に相槌を打ってからこんなことを言う。


「そうですね。犯行グループは全員が銃で武装していると考えた方がいいですね」


 しかし真守まもりはその意見には首を傾げた。そして捕らえた男を指差しながら反論する。


「そう考えて用心するべきというのはその通りですが、もしかしたら銃の数はあまり多くないかもしれません。充分な銃を調達できたのなら、この人が持っているはずですから」


 もちろん希望的観測ではあるし、誰が銃を持っているか分からない以上、警備員が言ったような心構えはするべきだ。それでも銃が少ないという仮定があることで、新たな推測が生まれることも大事である。


 そこでソニアが真守まもりの仮説に対して言及する。


「銃や爆弾は、普通に考えたら密輸なんて不可能よ。何かしら税関の穴をつくようなことをして、少ない数でも調達できるようにしたとも考えらえるわ」


 さらに警備員が補足をする。


「銃が少ないのであれば、爆弾の密輸に重きを置いたのかもしれませんね。階段を破壊する程の強力な爆薬でしたから」


 中々鋭い意見だと真守まもりも感心する。爆弾はまだどこかに設置されていると考えた方がいいだろう。ただ、遠隔操作の無線機をメイスラの魔術師が作ることは不可能に近いはずだ。階段で爆発したのも単純な仕掛けの時限式だったのだろう。


 武器以外にも推察できることはある。真守まもりは自分の考えを述べた。


「それと、人数も然程多くはないでしょう。しばらく待っても犯行グループとおぼしき人は誰も降りてきませんもの」


 大勢の人がいる二階へける人員はいないと真守まもりにらんでいる。犯行グループが持つ銃の種類によるが、拳銃数丁ではこれだけの人数を脅すことは犯行グループ側にリスクを生じさせる。大人数に捨て身で突撃されたら抑えきれないはずだ。さすがにマシンガンのたぐいを持っていないと信じたい。捕らえた男は爆弾を設置した後、人混みにまぎれるつもりだったのだろう。


 自分達で推測できるのはこれくらいだろう。ということでこれからは他の人にも協力してもらって、状況を把握していきたい。自分達の中心に座っている人に、真守まもりは満面の笑みを向けた。


「お待たせしました。出番が来ましたよ。さあ、迷える私達にどうか洗いざらい吐いてください」


 真守まもり達は既に犯行グループの一人を捕らえているのだ。犯行グループのことは同じ犯行グループの人間に訊けばいい。


「とりあえずお仲間の人数と配置、武器の種類と数でも教えていただきましょうか」


 真守まもりは問いかけるが、男は余裕そうに口元を緩めて言い返す。


「仲間を売れってか。拷問されても言わねぇよ」


 真守まもり達は拷問しないと分かっているから言えることである。つまり完全にあなどられている。とはいえ大勢の人の手前で拷問などするわけにもいかないのも事実である。真守まもりがなんとか交渉を持ち掛けてみるかと考えている間に、男は図に乗ったようだ。


「お前ら、さっきの銃声が威嚇射撃かなんかだと思ってるだろ。警備員は殺してるだろうよ。俺を捕まえただけでそうやって粋がっていると、お前らも同じ――」


 男が言葉を発している途中で、真守まもりは男の肩に足を乗せた。確かに真守まもりは反省しなければならない。銃を使用されたということは誰かが殺害された可能性を考慮しなければならない。もっと真剣に、そして冷酷に取り組むべきだろう。


「あまりめたこと言わないほうがいいわよ。今、あなたが袋にされていないのは、私達が構ってあげているお陰なのだから」


 真守まもりとしては殺気は抑えてあげたつもりだったが、それでも男の顔から血の気が引いていた。男の仲間が人質を取っているように、真守まもり達も男の生殺与奪せいさつよだつの権利を握っている。男も自分の立場をようやく理解したようだ。


 そして男は泣きそうに震えながらも反抗する気持ちをわずかに残しているようだ。


「お前は悪魔か?」

「鬼ですよ」


 真守まもりはその灯火ともしびさえもき消そうとする。しかし今回は暴力的な手段は用いない。真守まもりも平和的な解決を望んでいる。足を下ろして、柔らかい表情と声色に戻した。


「でも私の祖国の日本には、鬼の目にも涙ということわざがあるのです。私にも慈悲の心くらいあります。あなたも相当かわいそうな目に遭ってきたのでしょう」


 適当ではあるが、全くの的外れではないと真守まもりは思っている。この男の持ち物と役割を考えれば、犯行グループにおける立場が大まかには察することができる。


「折角、魔術が使えない場所を利用した作戦だというのに銃を持たせてもらえないでかわいそうですね。しかも肝心の仕事が、爆弾を置くだけだという……。ソニアさんを見つけて私に捕まらなければ、今頃は二階の皆さんと待ちぼうけを食らっていたことでしょう」


 真守まもりがまだ話し終わっていないにもかかわらず、男は段々と表情を曇らせていき、視線も下に落ちていく。真守まもりの予想したとおりのことをこの男も自覚していたようだ。


「つまり、あなたは下っ端もいいところなのですよね。みんなにこき使われて、それでいて雑用みたいなことばかりやらされて……。もしかして、いじめられたりしました?」

「いじめられてはねぇ!」


 男は勢いよく顔を上げて反論するも、すぐに何かを思い出したかのようにうつむいてしまった。そこへ真守まもりが追い打ちをかける。


「本当に? ここで強がらなくてもいいですよ。私が相談に乗りますから」


 真守まもりはしゃがんで男と同じ目線になってみた。すると本当にほだされてしまったのか、男が語り始める。まさかここまで上手くいくとは思っていなかったが、情報を提供してくれるなら真守まもりとしてもありがたい。


「確かに雑な扱いは受けてたと思う。軽く殴られることは何度もあったし……」


 しばらく真守まもりにとっては非常にくだらない話が続く。


「俺、魔術師として才能なくて、学園を卒業してもたいした仕事に就けず、家からも出て、いい加減な生活をしてたんだ。ギャンブルにも手を出しては負けて、路頭に迷ってた時に、ラクタリストに誘われたんだ。俺、組織の中でもかなり弱い方だったから、お嬢ちゃんの言う通りな感じだった。肝心なところで雑用か留守番、五年前のクーデターにも行ってねぇ。だから今まで捕まってなかったんだけどな。今思えば、ラクタリストに入っても使いっぱしりにされてただけで、たいして人生が良くなったとは言えねぇよ……」


 さらりとかなり重要そうな言葉が飛び出したが、真守まもりは同情した風を装って相槌を打つのに徹していた。男が語り終わったようなので、男の心に最後の一押しをする。ちなみに内心では男の人生に全く興味はなかった。欠伸あくびをするのを我慢していたくらいだ。


「そうですか。なら、そんな酷い組織と縁を切る絶好のチャンスですね。ご自身の罪を認めて、私達に協力していただければ、きっとこれからやり直せますよ」


 正直なところ、この男が改心するかどうかはどうでもよく、むしろ厳罰がくだればいいと思っているのだが、真守まもりはそんなことをおくびに出さず、あくまで寄り添う態度を示した。すると真守まもりがずっと聞きたかったことを男がようやく話し始める。


「仲間はあと十二人いる。五階のイベント会場にほとんどいるだろうけど、詳しい配置は俺も教えられてない。今頃、四階あたりで見張りがいるかもしれねぇ」


 もちろん男が嘘をついている可能性は念頭に置いているが、自分達が先程推理した内容と近いので、参考として覚えておく価値はあると真守まもりも認めている。


「銃は四丁ある。小型のピストルだ。今のリーダーと、リーダーに近い立場の三人が使っている。爆弾もまだあるみたいだけど、どこに設置するとかも教えられてない」


 銃の数が少ないという予想も当たっていたようだ。真守まもりはさらに深いところまで探っていく。


「銃の扱いはどれくらい慣れているか分かりますか?」

「実際に銃を撃ってるところ見たことはないけど、多分あまり慣れてないと思う。訓練する余裕は時間的にも金銭的にもなかったはずだ。俺達は一応、魔術師だし」

「そうですか。ありがとうございます」


 だからと言って油断していいことにはならないが、相手の実力を想定する上での判断材料にはなった。今の話を元に、真守まもりは改めて皆と協議しようとする。


 そこで人混みをき分けて壮年の男性がやって来た。すぐにソニアの方を向いて問いかける。


「お嬢さん。もしやソニア・ヘンシェル様ではないですか?」

「ええ、そうですが」


 興味本位で話しかけたという雰囲気ではない。とはいえどうしてこの状況で話しかけてきたのだろうと真守まもりは警戒したが、男性は意外な朗報を運んできてくれたようだ。


「クレメンスという人が言っていました。ソニア・ヘンシェル様が無事ならば東階段まで連れてきてほしいと」


 連盟警察は来ている頃だと真守まもりも思っていたが、ヘンシェル教会も現着しているようだ。しかも外の人間と連絡を取り合えると分かったのは僥倖ぎょうこうである。


「ありがとうございます。すぐに行きます」


 ソニアは男性にお礼を言ってから真守まもりを見てうなずく。もちろん真守まもりうなずき返した。メイスラにおける真守まもりはただの一般ミディアムだが、ただ事件に巻き込まれた被害者の立場でやり過ごすつもりはない。


 真守まもりはソニアと共にクレメンスが待つ場所へ向かった。

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