2話 ghost park
「今日からここに配属となった真崎英二刑事だ」
「真崎です、よろしくお願いします」
深々と頭を下げる。盛大な拍手に迎えられ、エイジは一安心する。
エイジの新たな勤務先の警察署は都の中でも大きい部類に所属する。元々いた大阪の署よりもかなりの大きさのためにそのビルの姿を見たエイジは唖然としていた。
その後警視庁前で唖然としていると先導の刑事が現れ、捜査課に来た時にはそんな緊張感はなく大阪にいた時のように真面目な顔となっていた。
警部らしい人物はエイジに自分の机の位置を教え、その後は各々の仕事に戻っていく。エイジも席に着こうとするがその前に警部に呼び止められる。
「早速でっか」
「うむ、最近連続して殺人事件が起こっている。捜査を行ってくれないかね?」
「はぁ、わかりました」
「最近この課に入った新人と共に行ってくれ。」
警部は一人の刑事を呼び出す。
女性らしい整った顔立ち。警部と同じくグレーのスーツを綺麗に着、髪もキッチリ整えたその姿から新卒だろうかとエイジは思った。
「初めまして、八坂美奈子です。先輩のことは警部からよく聞かされていますよ」
「真崎君、君流の捜査ならスピード逮捕も可能だろう? 期待しているよ」
「はぁ、よろしく。警部、資料のほうは?」
「うむ、これだ」
どこから取り出したか中堅のゲーム攻略本程の厚さを持つ資料をエイジの机に置く。
最初、唖然としていたが警部が去ると共に立ち直り、八坂と共に資料を見ることから始める。
「えぇと… ……なんや、『Rose Blood』って?」
「何か、それまで捜査していた先輩のつけていたこの事件の名前だそうです。正直言うと…」
「…俺も恐らく同じこと考えとるで」
異口同音で言う。「ネーミングセンス悪…」と。
事件の内容をさらに詳しく調べる中、ふと思う事があった。
「そういやその前に調べてた刑事ってどないなったんや?」
「例の連続殺人事件によって…」
「…そうか」
さらに資料を読み進める。
事件の内容は殺人に加え、婦女暴行も加わっていた。それにによる被害者は15名を越え、その内の7名は殺害されているというショッキングな事件だった。
本来この事件は私立の探偵が調べていたが意識不明の重体。その後、探偵の知り合いである刑事が調べていたが重なって起こった連続殺人事件に巻き込まれ、命を落とした。その後は捜査課に流れたまま放置され、一週間経っていた。
「なるほど、婦女暴行か…」
「嫌な事件ですね… もしかしたら私も…」
「変なことは考えるな。…とりあえず前野公園に行ってみるか」
「ここがか」
「寂れた感じですね…」
前野公園は昼間は子供達の活気にあふれているが暗くなると街頭も無い上に木が多く生い茂っているためにかなり暗い。時間的には昼下がりだが、炎天下のために子供達の姿は無く、蝉の大合唱が聞こえるのみ。 その炎天下の中、エイジと八坂は汗をかきながら立ち尽くしていた。
「とりあえず見回りかねてここら辺歩くか」
「はい」
小さなかばんを持つ八坂と対照的にエイジは脇にコートを携え、タバコをくわえるというラフな格好だった。
しばらくは改めての自己紹介や大学はどうだったかなど他愛の無い世間話に花を咲かせていたが、次第に会話は無くなっていってしまう。八坂はエイジがサングラスをしているため、目を見ることができず表情を読み取れない。気まずい…と思ったがエイジは何処吹く風。八坂に歩調をあわせ、上の空のような感じであたりを見回す。しばらく歩き、公園の奥のさらに木の生い茂る場所に着く。
「ここが被害受けた所なんか?」
「はい。」
人気のあまり無い森のような公園。一部の人からは川があれば心が和むといいそうな光景だが人が来ないことを逆手に取り、暴行を加えるには絶好の場所である。
エイジはタバコを口にくわえ、周囲を警戒しながら八坂の前を歩き、情報に耳を傾ける。
「えぇと… ここでの被害者は暁美玲… この近くに住むOLだそうです」
「話聞けるんか? 暴行加えられた奴は入院して面会謝絶やそうやないか」
「いえ、暴行されかけた所を通りがかった人に救われたそうです」
「通りがかり…」
見回すと確かに出入り口らしきものは見える。出入り口の先にも住宅街は見えるがやはり外灯らしきものは見当たらない。
「妙やな…」
「は?」
「住宅街は見えるがここら辺は人があまり通らない。それなのにどうしてここを偶然通りかかれたのやろ…」
「それは…」
「…その暁と話をする必要がありそうやな。家わかるか?」
「はい」