1話 tokyo
「──移転ってどういう事ですか?」
関西の警察署。
捜査課の警部から聞かされた事実を真崎エイジは受け入れられずにいた。
「東京は連続殺人事件の為に、刑事の数が不足しているらしいのだ。」
顔の前で腕を組み、眼鏡を光らせる警部の姿は某新世紀アニメに登場する組織の司令官そのものだった。
「連続殺人って… アレですか」
連日テレビで放送されていた連続殺人。
それは東京都で起こっていた被害者の数が尋常でない事件。犯人はすぐに見つかったもののその被害は警官にも及んでいた。
「うむ。警官の中でもやられたものが多い状況だ。」
「それかて他にも人材はありますでしょう」
「この捜査課の中で一番優秀である君に行ってほしいのだ。わかってくれるかね?」
「はぁ…」
活躍しすぎて飛ばされたのかと思ってしまい、エイジは落胆していた。
「東京のほうねぇ… 秘密結社ちゃうよなぁ…」
先日まで捜査を行い、解決した事件の報告書を書きながら呟く。
試験をトップの成績で通過し、晴れて刑事となったのは5年前。
エイジは優れた観察力と洞察力を持ち、咄嗟の行動によって犯人をスピード逮捕という荒業を5年のうちに何度もやってのけていた。このことは彼の先輩刑事からも「エイジの咄嗟の判断力を我々も見習いたい」と言われるほど絶賛されており、警部になれるのでは…と彼の勤務する警察署の中でもささやかれていた。
だが彼は警部になることを辞退した。エイジは刑事を解決する手柄を立てるのはいいのだが、目立つような大きな階級に上がる事を好まないという矛盾した理念を持っていた。
そのため、捜査課の中で優秀な刑事という落ち着いたポシションにずっといるままであった。
「東京、ええやないですか」
「ん」
報告書を書いている時に話しかけてきたのは彼の同僚だった。
彼はずっと笑う顔をしているがいつもこんな明るい性格で笑みを崩さないために不気味だとは感じない。
「こちらとは違う環境というのも面白いと思うで?」
「んー、まぁそうかもしれんが…」
エイジはペンを置くとタバコをくわえて火をつける。
「東京に行っても、その無謀な勇気で事件を解決してくれることを願うよ」
笑顔で話しながらエイジを見る同僚だが一方のエイジは半信半疑な目をし、ツッコミを入れる
「…お前、もしかして俺の事妬んでるんと違うやろな?」
「いやー、そんなことはないよ? ハハハハハハハ…」
「逃げた… 図星のようやな」
タバコをくわえ直すとため息を吐きながら報告書に目を戻す。
「えぇと、本件は… あー! 灰がかかって焦げてもうた! くっそー、書き直しやがな…」
「ここが東京… 大阪とあまり変わらへんな」
新幹線を乗り継ぎ、たどり着いた東京と言う街はエイジの住む大阪と変わりはなかった。
スーツを着こなすサラリーマンや学生の波が流れ、朝の10時にもかかわらず駅には人がまだ多く存在している。
しばらく東京の光景に呆気に取られていたが見慣れた後は周辺を歩く。
荷物などは住む先のアパートに送ってあり、警視庁のほうへは明日来てもいいために、この日は見物を行うことに決めていた。
駅前の商店街を抜け、さらに歩いていくと大きな建物が目に入る。近くに東京タワーは見えないがそれ並に高いビルがいくつも並ぶ。大都市といわれるだけのことはあり、大阪との違いを実感する。しばらく歩き、暑さのために喫茶店で休んでいると気になる会話を耳にする。
それは最近この周辺で爆破事件が起こったというものだった。先日起こり、死傷者は8名。
しかもその爆破の矛先は中学校に向けられていた。
(爆破事件… しかも中学生に向けて? …ま、今はえぇか)
コーヒーを飲み干し、タバコに火をつける。
この近くの地形を理解することは難しいことではない。だがいざとなり、どこに何があるかわからない状況では元も子もない。机に大っぴらに地図を広げ、現在位置を確認しながらアパートの住所や勤務先の警視庁の位置などを確認する。
「あー、今はここであそこにスーパーがあって…」
店の女がお冷を注ぐ。
「あら、お兄さん、最近東京に来たばかり?」
エイジに話しかけた店の女性は地図を見るなりエイジを季節的に遅く上京してきた大卒か何かと思い込んだか話をかけてくる。
「えぇ、今日来たんです。」
喋りが好きなのか、積極的に話をかけてくる。
「その格好からしてミュージシャンかなんかですか?」
ワイシャツに黒いコートに黒いズボン。加えて、少し目つきの鋭い目を隠すサングラス。少しコートを着崩せば歌手に見えなくないというより、最悪不審者にも見えかねない姿。サングラスを街中でもずっとつけているあたり不審者として通報されなかったのが疑問といった感じで店の女性はエイジを見る。
「いや、ミュージシャンでも不審者でもちゃいますよ…」
「あ、あら、そうなんですか」
「あぁ。…時間か。勘定置いとくで」
「あ、ありがとうございました」
エイジはあっけに取られる店員を尻目に地図を畳んで立ち上がり、冷房の利いた喫茶店から表に出る。
コートを脇に抱え、サングラスをかけなおすと、さらなる東京見物のために歩き出す。
遥か遠くを見渡すと暑さのため、陽炎が見えていた。




