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義体士の孤児院  作者: ジラフ
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身体造りの孤児院


グランディ王国の首都である王都ノーブルには特異な孤児院がある。


決して大きくはない孤児院だがそこは良い噂と悪い噂が両立しているために実体が分からないことで有名であった。


ある者はこう言う。


「あそこは悪魔の巣窟さ。人間をバラしてとっかえひっかえ遊んでいるんだ。俺は見たんだよあそこに大量の腕や足があるのを」


ある者はこう言う。


「あそこほど良い孤児院はないよ。みんな生き生きとしててね、院長だっていい人さ。そりゃあ少しばかり特徴的だけどそれがどうしたって言うんだい?」


その孤児院の名前はパーティバス孤児院。


その正体不明の孤児院を調査する為に国から一人の視察官が送り込まれた。


彼女の名前はカタヒノ。


最近視察官になったばかりの新米である。


「怖いなあ……取って食われたりはしないと思うけど……」


彼女は今日初めて上司に宣告された。


「あ、君新人だね?じゃあとりあえず混沌院行ってきて」


「へ?」


混沌院とはパーティバス孤児院の別名である。


もちろんカタヒノにとってそんなことは初耳であった。


「そんなの聞いてないですっ!?」


「言ってないもん」


「ええっ!?」


「さっさと行ってこないとクビだよ?」


「行ってきまーす!!」


ようやく見つけた再就職先を失う訳もいかずカタヒノは職場を飛び出したのだった。


「何でこんな目に……世知辛いなあ……あ、この辺かな」


カタヒノの目に映ったのは想像していたよりも小綺麗な建物であった。庭も広く子供達が走り回っても何の問題もないだろう。


孤児院にありがちな匂いもしない、熱心で無い院長の孤児院などは嫌な匂いがするものであるがここはそんなことはないようだった。


ただ問題の子供は見かけることが出来なかった


「あのう……ごめんくださーい……」


孤児院の門の前で声をかけてみるが子供一人いなければ声もしない。


言いしれぬ不気味さを感じて一瞬のためらいが生ずる。しかしカタヒノも遊びできている訳では無い、仕事なのだ。


「えっと……視察官のカタヒノです。返事が無いようですので入らせてもらいますよ」


見かけ以上に思い金属製の門を空けると近くで息をのむ音がする。


「誰かいるんですかっ!」


「ひゃうっ!?」


門の影に隠れていたのは黒く長い髪で片目を覆った少女だった。一目で手入れが行き届いているとわかる綺麗な黒髪である。


服装も簡素ながらしっかりとしている、虐待などの心配はなさそうである。


「お姉さん……だれ?」


髪と同じ綺麗な黒く大きな瞳が涙を蓄え始めていた。


「ああっ!?怪しい者じゃ無くてっ!私はここを調べてきてねって言われてきたのよ!ほんとうよ!」


大慌てで説明する様子は滑稽であり少女を笑わせるに足るものであった。


「うふふっ……お姉さん面白いのね」


「そ、そう?」


なんとか泣くのを阻止できたのを確認しカタヒノは胸をなで下ろした。


「でもね、パパの障害物になるような人を放って置くわけにはいかないの」


不穏な気配を醸し出す少女は先ほどまでの可憐さを捨てていた。代わりに恐怖を与える笑顔を浮かべている。


まるで毒を持つ生物がかわいらしい姿で擬態していたのをやめたような異常な雰囲気であった。


「あなたは私たちの敵?それとも味方?」


カタヒノは動くことが出来なかった、捕食者ににらまれた被食者のように身体が硬直してしまっている。


ゆっくりと近づいてくる少女を止めることができない。


「ねえ……どっち?」


「あ……かはっ……ふっ……はぁ……!」


少女の手がもう少しでカタヒノの身体に触れる。


触れられてしまったらきっと取り返しのつかないことが起こる。そんな確信がカタヒノにはあった。


「ああっ!!」


ギリギリのところで身体の制御を取り戻したのは意思の力かはたまた前の仕事の経験か、どちらにしろカタヒノは少女から距離をとることに成功した。


「逃げたってことは私たちの敵ってことね?」


「あ、ああ……あああ」


カタヒノは震えている、しかしカタヒノの目線は少女につながってはいない。


「どこを見ているのお姉さん?」


「いつの間に……見逃すはずない……一瞬でなんてありえない……!」


少女の後ろにはいつの間にか恐ろしく目つきの悪い青年が立っていた、その形相はさながら殺人鬼か狂人か。


目つき以上に恐ろしいのはその全身にみなぎる怒気だ。


おそらくその魔の手が少女に迫ろうとしている。


「逃げてっ!!」


「何を言っているの、逃げたのはお姉さんでしょう?」


「うしろよっ!!」


「うしろ?」


少女が振り向く、そして目が合う少女と殺人鬼(仮)。


「……リコリス」


「ひゃい……」


よほど恐ろしいのだろう、リコリスと呼ばれた少女はガタガタと震えている。


「使う……!」


カタヒノは自らの切り札を使う決意を固めた、それはあまり人には見せられないものだったが人を救うために使うなら少しだけ赦される気がした。


「お客さんを怖がらせるんじゃないと何度言えば分かるんだ!!」


「うわ~ん!!ごめんなさいパパ!!」


「は?」













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