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二話 「誰が望む未来 前編」

(でさー、ここ何?)


真っ白だ。まるで誰かの……いや、いい。止めておこう。思い出すまでも無い。


前略、食パン咥えて白パン助けて車に飛ばされ命も飛ばされ残念無念あの世行き、となった俺。

念のため死後どーなったか説明しておきたい。


「いらないよ?」


(何?いらんだと?)

く、くそっ、それじゃあどーしろと?


「お願いして?」


(お願いだ?チッ、しゃーねえな)

……ど、どうか、どうかワタクシメのコレマデの寂しい悲しい心中の吐露を、どうか聞いてクダサイマシ。これでいいだろ、じゃーいくぞ。


「えっと、りょうか~い」


~死後の解説~


残留思念とでもいうのか分からんが、俺の霊魂あるいは意識なる存在は、あの事故現場(白パンみたく騒ぐよりは、警察&救急隊の到着までは他人事の様に静かに居る方が正解なのだろう、金髪御嬢みたいにな)に何秒だったか何分だったか、滞留したのちフッと消えた。これぞ昇天ってやつだと思う。それで意識が再起した時には、つまり次に気がついた時には既に見知らぬ、それでいて心地よさと懐かしさを覚える不思議な空間に居た……と思ったらだ、何やらどんどん自分を取り囲む風景が変わっていったのさ。始めに奇妙なトンネルを通り抜け、その後、変な川を越え、綺麗な花畑を越え、黄金色に光輝く空を越え、今、周囲に白い雲らしき物体が漂う空間?世界?に、辿りついたんだ。


~終了~


それで、辿りついたはいいが、しかし、実はコレ迷い込んでいるのではないかと、だんだん疑念と不安が浮かんできている最中なのである。というのも、さっきから何一つ一向に進展しないんだ。トンネルからとんとん拍子でここまで来たもんだから、ここに着いてからは急に何も起きないせいで停滞気味な感じがどうも拭えない。そうだ、さっぱり何も起きてくれないんだよな。暇だぜ。


(ん?)


ちょっと待て。何も起きてくれないと言ったな、すまん、撤回しよう(アレは嘘だ、なんて言わねーぞコノ野郎)。


でだ。

(どこだ!)


「おー?」


今何か……???

いや「今何か」じゃあない。つーかよ、俺、さっき誰かとしゃべっていなかったか?喋っていたはずだよな?死んだ後になってボケるってのはさすがに笑えないぞ。


でだ。

(誰だ!)


「ボクだよ?おっひさー!」


(――!!)

おい……何か、いや誰かいるよな?

微かに何か聞こえたぞ「お久~」的な。それも何も非常に可愛らしい声だ。フヘヘ、ちょっと毒舌だけど天真爛漫な元気っ子的な、ってまずいまずい。


いやいや、そもそも姿が見えんし、だから何とも言えん。

もしこの声の主が存在してなかった場合、俺は奇妙にも死後の世界で幻聴を覚える霊魂(だよな?)となる。それはそれはとても怪訝されるべき症状じゃあないだろうか?ボケ以上にな。


「やったね!……また、会えたんだよ?」


(んん?)

やったね、じゃねーんだよ!可愛い。あとさ、その後何か言ったか?言うならはっきり……いや、待て。これはもしや次のステップへの布石なのかも知れんぞ。


≪うぅ、そんなあ、ヒドイよ~≫


次のステップ、と言っても……何だろうな?結局起こってみなくちゃ分からんもんだよな。

でも、目の前に広がる果てしない天空の白いモヤモヤした世界とはまた趣の異なる、このモヤモヤした奇妙な感じに、俺は俺の何か(心か?)がくすぐられているのが何となく分かった。

そうだ、ちょっと楽しい。楽しいんだよ(可愛い声も相まってな)。もしかして、同じ死人?というか、お仲間なのだろうか?姿は見えないが、ひょっとしてひょっとするのか?


「ふぇ?」

≪えっと、仲間じゃないけど≫


ここまで不思議と誰とも遭遇してこなかったんだ。そりゃあ寂しいに決まってるだろ?それに通説じゃ、黄金の空あたりで一緒に空飛んだりするみたいだが、俺は孤独だったんだぜ?ああ、通説と言うのはこういった死後の界隈に関連する実体験とか研究の類から考察されている方面で言われてることなんだが――


「ねえ、ねえ!」


(……)


≪あれれ?聞こえなかったのかな?≫


そういや、死後の世界を絶賛彷徨い中な今、とりあえず分かった事がある。

思うに、これまで死亡後にたどるはずの規定ルート(臨死体験やスピリチュアル的な界隈で指摘されてるそれ)とやらを順調に進んできた確信が多少はある(通説的な観点からな)のだが、いかんせん、先程も指摘した通り、幻聴はともかく、どうもここで停止している気がしてならない。


「おーい!」


(……)


≪反応なし……あ、そうそう、ボクは女神!よろしくね!ちなみに、このオトコくんの心理は、ボクに全~部まる聞こえなんだよ?≫


まあ、さっき言った通り、この幻聴が次の段階へと進む印や兆候やサインやシグナル(いや、意味被ってるから)、みたいな可能性もある。が……未だに何も起きないわけだ?でも、ただ俺がせっかちなだけかも知れん。いや、待て!そうか、単純に順番待ちなのかもしれないぞ(といっても、周りに誰一人いないのだがな)。だから待機しとけよって事で、暇つぶしに、とあの変な幻聴を受けてるのかも知れない。


何の順番待ちかって?そう、噂に聞く、閻魔大王による判決である!(だから、もしかしたら閻魔大王様が俺みてーな死人の暇つぶし相手に慈悲深くも施してくれたイタズラなのかもな)。さて、おれの処遇はどうなるだろうな?天国行きか、はたまた地獄行きか……だが、しかし、そもそも天とか地とか極楽でも何でも構わんが、そういった概念とは合致しない囚われない、それらの類の世界なんぞ初めから存在し無い!なーんて事がありえたりもするかも知れん。とすると、閻魔大王の存在意義も同様に不安定というか無意味になってくるのだけれども。


≪ありゃりゃ……≫


いや、待て。

ここで二つの力、想像力と創造力を働かせてみようじゃないか。

例えば臨死やスピ系なんかの恐らく実体験に基づくものに、にわかには信じ難い多くの共通の項目があったからこそ、殊更に現実的に有り得る話としてその可能性を語られているわけだ。現に、俺が死後辿ったルートがまさしく言及されたいたものと精巧に(いや微妙に)合致していたように。しかし、この共通項目は、もしかしたら、体験者自身の日々信仰している宗教、信じている世界観などによって思考が一定に縛られているからこそ形成……すなわち日々の思考態度が影響するが為に、この死亡後に通過する儀礼的路線が半ば意図せぬ形で無理矢理ではあるものの幾分己の望む通りに決まってしまうのではないか(俺はちげーぞ)。そして何にも考えず漠然としていると、そういった誰かの敷いたレールに入れられることになるのかも知れない(俺の場合これ)。つまり世の大きな集合的思念の渦とやらに巻き込まれて――


***************


≪なんかねえ、このオトコくんがね、妄想に集中しちゃってね、収集つかないから『女神カット』しとくね?≫


***************


「お、お~い~!」


――ま、結局のところこればっかりは、経験してみなくちゃ分かったもんじゃないよな。コレまでの死亡後の一本道イベント宜しい流れ作業的な行程を辿ってきたが、どれも初めて……のはず、だと自分としては考えたいのだが、しかし、どうも以前にもこんなことがあったようななかったような?ってので、若干引っかかるところがある。死んでるくせにな、ちゃんちゃらおかしいぜ。あ、未練でもある証拠なのか?いやー、未練か。あるとすりゃ、あの高級車に乗ってた金髪美少女とちょっとだけ会話、に加えてラッキースケベ的な……いやいかんいかん、死霊(だよな?)の分際で雑念を催してどーする。


≪だめだこりゃ≫


「やっぱり聞こえてないのかな?ねえねえ!……もう、仕方ないや――はぁ」


未練はともかく、心地よい場所だ。もわもわっとした空間だが、不思議とどんどん気分が良くなる。こうして考えると、いままでは自分の意志に反して、まるで誰かの駒のように体が勝手に動かされているかのような感覚で、ここまで来させられたと言ってもいいのかも知れないな。結局、超自然的次元に君臨しているであろう神のお導きってやつなのか?そしてここからは俺の意志、つまり「魂」次第でどうにでもできる可能性が――


「――あっちゃー!!!」


(あっちゃー?)

突如何やら陽気な声が聞こえてきた(あんまし可愛くない)。思考中断。さっきからも微妙に幻聴が続いていたような気がしたが、それは置いておこう。聞えたり聞えなかったり、だったし。

で、今度は何だ?


「まーた来ちゃったのね、アンタ」


(また?来た?アンタ?)

どーいうことかは知らんが、このアンタって俺のことか?じゃあ、違うな。俺はこんなとこ初体験(意味深なんか付かねーぞ)だからな?たぶん。まあ、既視感ではないが、思うところはあるようなないような。

つーかやっぱし姿が見えんぞ。どーなってんだ?透明なのか?


あ、今更だが、俺から見て、自分の体はちゃんと生前同様、手足ともども確りついている。なのだが、俺みたいな存在とは異なるのか、俺の視点から捉えられるのは、白い雲がフワフワ、それだけだ。俺はこの状況にどう対処すればいい?もはや打つ手はないのか?俺は!


≪……なんかさーやっぱコイツの相手めんどーだからさー、変わってくんなーい?オレオレうっせーし≫


「はぁ――もぅ仕方ないわねぇ……ねぇ?アナタぁ?失敗ばかりしちゃうのはぁ、だめぇ、なんだゾ?」


(へ?)

さっきのやつとはまた違う、おどろおどろしい変なババアみたいな声が聞こえてきた。正直おどろおどろしい、どころじゃないんだが。いやいい、で、失敗?何のことだ?俺に言ってるのか?というか、また幻聴なのか?


「もしも~しぃ」


(いや、なんだ、この汚らわしいババア声……無理だ)


「なんだぁ、じゃあなくてぇ」



(う、き、きもちわ――)

心胆を抉り、それはもう猛毒が回ったことで生じる悪寒を全身くまなく走らせられ、数分後には死に至るという麻痺を確実に食らわされるとも見なせるほどの声で、これ以上耳にしたくないのだが、この聞いてはいけないババアボイス、説明するにはこれだけでは不十分だ。だが何と説明すればいい?雑音でもなければ騒音とも、はたまた爆音とも形容しがたい……


「三十三観音~?」


(……ってそれは音じゃねえぞ)


「じゃあ~異口同音~!」


(アホか)

って、そーじゃない。何だこの冷めるやりとりは?

俺が示したいのはな、そう、いとも容易く、人を、人の心を、不穏に、不快に、不調にさせる、えげつない殺人級の不協和音だ!と声の力を余す事無く、大・大・大にして叫んでやりたい!


「えぇ~ひどぉい」


つーかさ、何者だよこいつ?俺の目まぐるしくイヤーな方向に変わっていく心情に、勝手に入り込むようにして話に乗かってきやがって!――こやつめ、どこにいる?


見渡す限り、白いモヤモヤとしたものが、だだっ広い範囲を占めている妙な空間(結局幻聴なのか?)。

無情にも、どこにも人の姿、形、そして影すらも見えない。しかし、どーしても耳にしたくない音波が、どこからともなく言語的秩序を辛うじて維持形成して放たれている為、その意味を、違和感が付きまといながらも、自然と理解できてしまう己に、誠に甚だしく遺憾であるとともに極めて耐え難い自己嫌悪を覚えざるを得ない。


(ちくしょうめ)

そして悲惨なことに、腑に落ちない上に非常に困る案件が一つ。

恐らく、俺の思考内の、心の声とやらもこの空間には筒抜けであるということ(これは恥ずかしい)。

だってさー、俺の思考や心理に完璧といっていいくらい反応してやがるわけだしさー。

やめて欲しいっすわ。


まあ最初に聞えてきた(幻聴かもしれない)可愛い少女系の声の主(げへへへ……ハッ、俺としたことが)や、ぽっと出の陽気で生意気そうなギャル系のやつはともかく、先程確固たる会話の返答だとして取らざるを得ないやつが来たよな?この間延びして頭の悪そうな、それでいてこちらの心を一瞬にして凍らせつつ直後に粉々にして破壊しかねない、そんな一目散に逃げ出したくなるような声で「なんだあ~じゃなくて~」とか「え~ひど~い」とか(自分で言ってても嫌になるぜ)。


言うなりゃ、巨躯のオカマ(ババアも可)が轟々として放つ独特の重低音ボイス。あるいは、この重低音――もはや魔音まおんだ、この魔音と、そうそう、TVでよく聞くアレだ、犯罪者を知ってる内通者の証言だとか、特別ゲスト的な扱いを受けてる人がいてこれが誰なのか当てよう的なゲームをやってる時に本人が喋る際にしばしばかかるあれだ、ボイスチェンジャーだ!そうそう、このボイスチェンジャーを彷彿させる気色悪い系の声、これを掛け合わせたような、それもただならぬ猛烈な不協和音(例えば聞けば死にたくなると噂の音律みたいなやつな)でさえサラリと凌駕するまでに至る卑劣で絶望的な魔音!そう、魔音なのだ!……と言いたいが、何かそれ以上の何かを感じて止まぬ何かが、うっ、あれ、早速、ちょっと、くそ、魔音が、き、効いたのか、具合が悪くなってきた……吐き気が。


いや、あのさー?吐き気って、おい……何度もどこかの誰かに聞いてるようだが、俺、死んでるはずだよな?死んでるはずなのに、う、うえー。


「ふ、ふにゅぅ~」


(ふにゅう?……う、うげええ)

そ、そうだ。も、もしや、これが、これが天の声?ならぬ、閻魔様とやらの声なのか?バカな。あれか?生前の所業の悪い俗人には、地獄の苦しみを受ける声として聴こえてしまうってやつなのか?死んだものでさえ食らう魔の音階ではなく、死んだものであるからこそ、罪を働いてきた者であるからこそ、身に沁みるものだったというわけか。


「はへぇ?」


はあ、そうだな。もうそれ以外考えらんねーしな。もう判決は既に決まってたんだろうな。辛辣な地獄の苦しみの前に、執行猶予期間としてあの可愛い声と戯れさせるという淡い喜びを与えてくれたのだろう。より残虐に傷を、より深遠に刻みつけ、そして再起不能になるまでに苛烈な痛みを、その生来において積み重ねた業の代償を、今こそ粛々と負わせるが為に!ってか。


俺は……俺は、俺はよう、あのジャジャ馬白パンの身代わりになって死んだってのに、なんだってこんな目に……ああ、そうか、こんな助けてやったってのにみたいな恩着せがましい卑しい発想しちまう時点でダメなんだろうな、それに考えてみりゃ俺も相当口が悪い。そうだよな、思えば、あいつに会えば即嫌味ったらしい陰険な言葉でさんざん愚弄しちまってたもんな。それに死んだ今でもこの減らず口は変わってない、このザマなわけだ。ハハ、ハハハ、ここに来て自業自得か、これこそ、ザマーねーぜってな。


「えぇっとぉ、そんなはずはぁ」


(黙れ!)

どーせこんな感じなんだろ?は~い、悪人さんはぁ、地獄行き確定☆なのでぇ、こちらへ~どーぞー?って具合にな?だったらよ、抑揚つーか変な調子も付けず、無機質ながらも厳格にというか、威厳のある感じでよ、先導するならそうして欲しかったぜ。こんなんじゃあもうやってらんねーっすわ。

いや、そうか……ああ、そうなのか、これぞ厳格より難易度の高い苦しみというものか。下手に規律立ったものより、敢えてわけのわからないカオスである方が、理解に苦しむという点で、苦しみが上回るというワケか。もはや俺がどこまで生前で日々悪事を働かせてしまっていたのか、情けない記憶を呼び起こしても、そんな犯罪なんてした覚えはさらさらないし、強いて言うなら口が悪いだけでそれ以外は大して思いつかない、だから一層皆目見当が付かんぞえ。


いや、待て、大した罪を犯していないのなら、もしかしたら、この程度の苦しみという風に捉えてもいいのかも知れない。俺以上に、ヤバイことやってきた奴は、これ以上の苦しみが待ち受けているのだと、はは、そう思えば、なんてこたあねえ……なーんて、んなの考えたところで、空しくなるだけだ。受ける罰の絶対値は変わらんのだからな。馬鹿馬鹿しい。



「ねぇえ~?ちょっと~?いいぃかしらぁ?いい加減~、ちゃんとぉ、ワタシのぉ、話を~、聞いて、欲しいなぁ?」


(やかましいな、こっちの事情も――ん?)

あ、そうか、そう言えば、この幻聴ども、「また」とか「失敗」とかほざいてたよな?もしや、コレが何か関係してんの――



≪ぷんぷん、なんだゾ?≫



<プツン>


(……ふ、ふくく)

この得体の知れない怪奇音たる魔音が幾度と無く我が聴覚(死んでるはずなので、聴覚というより超感覚だろーな)を刺激してくれたことが積み重って、遂に、フフフ、遂に荒れ狂う鬼神(異論なしで頼む)への変化への閾値を……いや、違う、そうではない。確かに数回に及ぶそれもあるのだが、断じて違う。


そう、魔音――いや、魔音を超越した≪極めて許しがたい何か≫を、我がセブンセンシズたる超感覚が、今さっき、そうだ、ついさっきリアルタイムで察知してしまったのだ。≪極めて許しがたい何か≫をな。


であるからして、我慢の臨界点は打ち砕かれ……俺の中の、それはもう大事な大事な「何か」は弾け飛んだ。

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