植民拠点、機械の都
寒々とした、鉛色でどんよりとした雲が、べったりと、立ち込めている。
雲にうずもれ、高度を下げる。
すると、下は、冷たい湿気に覆われた、青灰色の平原だった。
雲の隙間から、時折さす。すると、植物の隙間から、水面が鉛のように、鈍く光った。
5時間のフライトの中で、灼熱の砂漠は、寒々とした湿地帯へと姿を変えていた。
緯度にして、10度ほどにもかかわらず。
夏なのに、ちょっと間違えば雪でも降りそうである。
この時代の気候は、わずかな緯度の差でも、まるっきり変わってしまうものらしい。
もやの向こうに、きらりと光る、人工物。
原野の中で、直線的なシルエットと白は、遠くからでもよく目立った。
何かしらの、鉱山か工場のようである。
高度を下げるにつれ、時折、そうした姿が見える。
ほんのぽつり、ぽつりと。
煙突から煙を上げるものもあった。
いっぽう、静かに沈黙するものや、すでに朽ちはじめているように見えるものすらあった。
やがて、海が見えてきた――と同時に、その数が一気に増える。
鉱山、工場、発電所、港湾施設。
沿岸には巨大なガスタンクが並び、沖にはタンカーがみえた。
パラーが人の都なら、ここコンゲラードは、機械の都であるらしい。
ひどく分散してはいるが、重工業地帯としての機能を果たしていることは、目に明らかだった。
なんと、造船所まである。
これだけの設備を、30年でよく整備したものだ。
いや、文明的な生活をするためには、この程度の工場群は最低限必要だ、ということなのだろう。
ただ――それらの間に明らかな道が整備されている様子はない。
おそらく、海路か空路でしかアクセスできないものが多かった。
「アンデス工業ベルトね。人の流れは主にヘリ、モノの流れはほとんど船よ。」
造船所では、何隻もの巨大な船が、就航を待っていた。
「――それにしても、エネルギーは。」
「言ったでしょ?ここには地熱と天然ガスがたっぷりあるのよ!エネルギーには全然困らないわ」
ふと、不思議に思う。ふつう工場や発電所の近くには、人の営みがあるはずだ。
それが――ない。
「植民惑星の開拓は、まず工場ファースト。都市建造のインフラが整ったら、人が降りる。工場は自立機械が動かす。さいあく、無人でもいいのよ」
――機械が作った、時計仕掛けの世界に、人が住む。
そうしなければ、人は文明的な生活を維持できない。
それって、まるで人間が、自律機械に飼われてるみたいだ。
「宇宙開発って、そんなもんよ?無人機が開発して、人が住む環境を整える。その延長ね。超時空ゲートの開通が52年前でしょ?最初22年は、工場群の建設に充てられたのよ。」
――なるほど、52年。
この規模も、それなら納得できる。
「自律生産機械ってことだよね、まるで生き物みたい」
「近い発想が自律増殖播種船ね、小惑星を飛び移りながら増殖しつつ太陽系外惑星を目指すってやつ」
「――本当に生き物だよ、それ。」
そう、この無人工場群は――生きている。
自らで自らを設計し、鉱石を、資源を、吐き出し続ける。
いずれ――自らの増殖が、第一義にすり替わってしまうのではないか、そんな気がした。
そんな世界の片隅に、人の、居住区があった。
骨董品みたいなプロペラ輸送機が、がしゃり、と大地を噛んで、足元から背中に抜けるような衝撃。
轟轟ととどろく風切り音とともに、体がひゅうぅっと押し付けられ
――ゆっくりと、止まる。
ざわざわと人が立ち上がり、出口を通って、降りていく。
アリの行列みたいに、機窓からはみえた。
私たちは最後に立ち上がり、がし、がし、と床を踏みしめた。
雑多な機械がうごめく機内を見回し、ばしばしと写真を撮って回りながら。
灰色の空に浮かぶ工場群は、もくもくと煙突から煙をあげながら、ご、ご、と低い音を、ずっと奏でている。風力発電の風車が立てる、うなるような低温もまた、ずっと響き続けていた。
地面に降り立つと、靴の裏に、じんわりと湿った感触。
みおろせば――タイルのようなものが敷かれた滑走路は、ひどく荒れていた。
いたるところに、欠けとひび割れ、充填剤は溶けかけてうねっている。
そこを、ひゅうぅっと、夏なのに、むしろ冷たい風が通り過ぎていく。
空気はひんやり冷たくて、じっとりと湿っていた。
アリアがカメラを、高く高く掲げる。
誰もいなくなった滑走路を背に、カメラを片手に、記念撮影。
あまり写真には写りたくないので、ちょっと内股になって、ひきつれ笑いになっていた気がする。
ふっと息を吸えば、鼻につんと来る磯の臭いと、煙と硫黄が混じった、どちらかといえば不快な香りが、いやがおうにも鼻につく。
いやがおうにも押し付けるもの悲しさに、命の影を求めたかった。
分散した工場の合間にしげる、緑を見たくて、たまらなかった。
ただ、聞けば、今日泊まる小さな村は、この空港からヘリで10分ほど飛んださきにあるという。
なにぶん、そこが一番、森や自然に近いから、というとりなしであった。




