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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
凍てつく地でも、採集を。
148/229

葉枕 ―Leaf Cushion―

さて、田植え体験は終わったことだし――圃場を見回って、目の前にある“ミニ鱗木”を見てみよう。

幹の下方には、鱗木と聞いてまず思い浮かべる、細長い菱形の出っ張りがビッチりと敷き詰められている。

「葉枕だね。」

と私が言うと、カメラを構えていたアリアは

「枕?」

ときいた。

「葉の基部にある、ふくらみ。まあ、枕みたいに見立てたんだろうね。現生植物の人はラテン語でPulvinusっていうけどね…化石の人はLeaf Cushionって呼びがち。どっちも意味は枕だよ。ドイツ語でもフランス語でも日本語でも枕」

「ふーん、リンボク類の専門用語ってわけじゃなくて?」

「まったく別のグループでも、葉の基部が膨らんで隆起してればLeaf Cushionっていうよ。裸子植物のDicranophyllumとか、マツ科とかも古生物学者はそう呼びがち。厳密な専門用語としては、確立してなくて、ふくらみがあるってことしか意味してない」

「ふーん」

「現生植物のPulvinusはもうちょっと厳密な意味で使おうとする人もいるけど、マメ科などの膨圧運動するふくらみ…オジギソウの葉の付け根にあるやつ、とトウヒの葉の基部の木質の出っ張りを両方葉枕Pulvinusと言っちゃうあたり、これもまあざっくりしちゃってるよね」

「…」

「まあ、訳の分からない枕って言っちゃってる時点でだいぶアレなんだけどさ…。」

「この菱形を見せられても、どこが枕?ってところでまず引っかかる」

「しかも、あたかも一般語のようでしかも様々な分類群で同じ語がつかわれるにもかかわらず、リンボク類について葉枕Cushionという語を使うとき、一般的には「葉の最も基部で通常広がりを持ち、落葉後も幹に残る部分」って意味合いを含んでる。」

「クッションが専門用語で、しかも分類群によって意味が違いますって言われても」

「うん。まあ、PulvinusにせよLeaf Cushionにしろ、分類群ごとの定義された語を作るべきとも思うんだけど…そうなると、どんどんとっつきにくくなるんだよね。」

「これ、ヘゴとかの幹にあるあの…網目模様みたいなのは違うの?」

「全然違う。あれは葉が脱落した後の葉痕Leaf scarで、葉の基部にあって脱落せずに残るリンボク類のLeaf Cushionとは別物。葉痕はこの、Cushionの真ん中にある部分」

「教科書にも葉が脱落した痕って書いてあった気がするけど、違うのね」

「うん…葉枕の真ん中に葉が落ちた痕があるけど、あくまでも、落葉後のCushion上にみられる、離層形成された脱落痕」だからね。葉が脱落した跡はLeaf scarであって、あの特徴的な菱形模様の真ん中にある、目か何かみたいに見えるところ」

「でも、それって葉が脱落しなかったらなんて言うの?」

「そう!そこ。葉がまだついていたり、脱落するかどうかわからない化石については葉基部 Leaf baseと呼ぶべき、なんて議論もあったりする。化石になると案外わからないんだよねー、そこ」

「え、一目瞭然じゃないの?」

「葉基部のところでパカッと割れて産出しちゃうから、反対側の母岩に葉が全部乗っかって、あたかも裸の幹だけが標本として収蔵される場合が多数…偽の葉痕 False leaf scarとかいうんだけど」

「そんなのアーティファクトじゃない」

「うん。アーティファクト。でも化石だとわりと、見抜けない。」

「じゃあさ、生きた植物を見るとき…これのどこを見るの?」

「そうだね、葉が落ちた跡の上にある小舌孔Ligule pitとか、葉基部から内部に伸びるパリクノスParichnosの開口部がどこにあるかとか、形に配置、あとは葉痕の断面から見える維管束の配置、断面から見える形成層の配置、などなど…」

「…うげっ難しい」

「ここの“ミニ鱗木”の場合、葉痕は上1/3にあることとか、葉痕の下に伸びるふくらみがあって、Parichnosの開口部は明らかには見当たらない、配列はらせん状…という感じで見ていくと…Bumbudendronでよさそう、南米の石炭紀、ということでも分布とも一致するよ。時代幅もさいわい、広いからね」


そうして観察を終えると、今度は先ほど植えたものと同じ、葉の縁に毛があって、より太くなるタイプに出くわした。幹の太さは、50㎝ほどあるものもある。

「こっちは幅が広いけど?葉も違う」

「たぶん、Brasilodendron。さっき植えたやつが、これの苗だよ」


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