初詣
ストーカー被害にあっていたユウリ
なんとか彼女の心の傷を癒そうとするレイ
「うん 僕と一緒に暮らそう。 そりゃ ユウリはまだ16歳で学生だけど 親の承諾があれば結婚できないことはないんだよ。
リュウが芸能活動の支障になるっていうんなら 公表しなくてもいいけど・・・
僕は早いうちに記者会見を開いて 世間の人に僕達のことを知ってもらった方がいいと思うんだ。」
「レイ・・・。」
「明日 正式に君のご両親に挨拶に行こうか・・・ってもう今日かな?」
「・・・うれしい。本当にいいの?」
「本気だよ。君は聞こえなかったかもしれないけどプロポーズはこないだも北海道でしてたんだよ・・・。」
「・・・気がつかなかった。ごめん。」
「さあ もう泣かなくていいよ。
ずっとこうして抱きしめているから もう少し朝までおやすみ 明日の日曜日は午前中僕も仕事ないから 一緒に君の家に行くよ。」
「うん。」
「そうだ リュウにも言っておかなくちゃな。またどやされそうだけど・・・フフフ」
翌朝 早い時間に電車で二人でユウリの家に着き あわてるユウリの両親の前でレイが
「娘さんと結婚させてください。」
といきなり本題を単刀直入に切り出した・・・
(いつでもレイは遠まわしにしたり 回りくどい言い方って絶対しないのね~)
びっくりして固まった両親を見て、ちょっと気の毒におもったり 可笑しくなってユウリは横で聞いている。
とりあえず リュウから聞いていたらしく 両親は突然のレイからの申し出に面食らってはいたものの 絶対に幸せにします!
と話すまだ年若い青年の申し出をすぐに無下に断る事はせず
まずは芽衣が高校生である事、
勉強ばかりで何にもできないこと、
また芽衣には芸能界ですれ違う生活に耐えられるのかということを静かにたずねた。
「すべてわかっているつもりです。
芽衣さんには高校はもちろんですが、
本人が望むなら大学もいってもらうつもりです。」
これにはびっくりして芽衣がレイを見ると
「勿体無いじゃないか 君はこれまですごく努力してきたんだもの・・・」
と手を握ってくれる。
「僕自身は両親も早くに亡くなり、身内とも言えないですが刈谷 リュウを兄と慕ってこれまできました。」
こんな風に 自分の事を真剣に話すレイを見たことは無かった。
「本当に刈谷さんにはお世話になっています。
室塚さんの事も刈谷さんからはいつも聞かされていたんですよ。
だから貴方の事は他人っていう気がしないわ。
貴方のおかげで芽衣はとっても変わったの。もちろん良い意味でよ。」
レイの態度に打たれたのか紀子がそう言ってくれて ユウリは嬉しくなった。
「たしかに・・・ これまで勉強ばかりしていて こんなんで若い娘が16歳という時期を通り過ぎていいのだろうかと心配していたのが
最近はママの料理を手伝ったり、手作りお菓子の本をひらいてオーブンとにらめっこしたりと
僕も娘を持った父親の気分にやっとなれたところだったんだよ。」
「パパ・・・」
「レイさん 君がどんな青年かということは率直に 恐れる事なくこうして申し込みしてくれたことで十分わかりました。
僕も妻も 君みたいな青年に芽衣をまかせることに不安はないよ。
でもひとつ条件をつけたいのだが・・・。」
「条件ですか? どうぞおっしゃってください。」
「佐々木って名前を受け継いでほしいなんてことは全然ないから安心して芽衣を室塚 芽衣にしてくれて構わない・・・が
せめて芽衣が学生の内はこの家に二人共暮らしてくれないか?
たった16年でこの家を離れてしまうのは父親として寂しすぎる・・・
君が来てくれたらどんなに にぎやかになって楽しいだろう。ねえママ?」
「そうね 息子ができるのね。なんてステキかしら・・・。」
紀子も涙を潤ませる。
「パパ。ママ・・・」
「もちろん その条件は受け入れさせて下さい。
却ってこれまでひとりぼっちだった僕には とても ありがたくって・・・。」
レイが声を詰まらせる。
「さあ 芽衣。レイさんはもう うちの家族なんでしょ?だったら一緒にご飯にしましょう。」
「パパ ママ ありがとう。」
「ありがとうございます。お父さん おかあさん。」
レイが深々と頭を下げる。
知らせを受けたリュウが飛んで佐々木家にやってきた。
すっかり 打ち解けて佐々木家にいるレイに半ば呆れ しかし心から喜んで祝福してくれた。
「だけど お前の事務所はどうなんだ?
しばらく公表は控えた方がって言われると思うがな・・・。」
「リュウがユウリのこと了解してくれるんなら問題ないよ。
もしどうしても 無理だというなら仕方ないからまたリュウの事務所に戻してもらうまでさ。」
「相変わらず 突き進む奴だな~ お前は。」
その後 レイの事務所は突然の報告に上を下への大騒ぎとなった。
「レイ君 ふざけてるんじゃないよね・・・ マジ?
わ~~ どうしよう。社長になんて説明したら いいんだい!?」
和久井は卒倒しそうなほど青ざめる。
「別に僕が直接話すから 和久ちゃんがそんなに悩む必要はないじゃないか?」
一番レイが落ち着いていた。
結局 日ごろのレイの実力を買っていた事務所の社長が最初に認めて
年明けに正式に記者会見して発表する事となった。
パート2の撮影に二人で現れて
「相変わらず仲がいいね」
とまだ何も知らないひかりや柴ちゃんに言われたが
正月の休み明けの発表まではスタッフにも漏らされず 撮影は始まった。
また 年末の大晦日にレイは身の回りの物を持ち込み引越しを済ませ
こまごまとしたレイの部屋にあった雑貨類も多少は整理したが ユウリの家が結構空き部屋を持つ広い家だった事もあったため
ほとんどを持ち込むことが出来た。
1月1日
珍しく雪のお正月を迎え ユウリはレイとまだ暗いうちから 一緒に家を出て 初詣に向かった。
母のお下がりの赤い振袖はちょっと息苦しかったが
「わぁ ユウリ 綺麗だよ。
赤い振袖が雪に映えて とっても似合っているよ。」
とレイが褒めてくれたので 身体もすこし軽くなる。
あれから ぴったりとロバートは現れず リュウが何をやったかは知れないが一緒に仕事をと言ってくることも無くなったようだ。
レイによるとひかりに対してロバートがしてきた事も色々リュウの耳に入って かなりの仕返しをしたらしい・・・
恐ろしくてそれ以上は何もユウリは聞かずにいる。
まだ薄暗いが 神社はすでに多くの参拝者が並んでおり レイとユウリもその列に並んで参拝を待つ。
「あれ?室塚じゃないか?」
「隣の子は ひばりちゃんだよね?」
周りがひそひそ話すのにもいっこう気にせず堂々と手を繋ぎ 時々おしゃべりをしながら順番を待つ。
レイとユウリが当たり前のように二人で居るのに これは撮影なのではないか?
とまわりもカメラを探したりはするが
撮影の邪魔になるかも?
と思う為 囲まれてもみくちゃになると言う事もなかった。
そうしてやっと賽銭箱の前までくると
レイが目を閉じて静かに手を合わせる横でユウリも
(神様 レイとめぐりあわせてくれてありがとうございます。
どうかこれからも二人幸せになるよう 見守ってください。)とお願いをした。
「あれ どこ行くのレイ。駅はこっちだよ。」
「まだ寄るところがあるんだよ。お前も付き合えよ。」
「うん 挨拶回り?」
「ちがうよ。仕事は5日まで正月休みだ。」
レイに連れられて到着したのは区役所であった。
「ユウリ 婚姻届提出するよ。 お父さんにも協力してもらって用意してあるんだ。」
「ええ! 元旦だよ 今日はさすがに受付してくれないんじゃないの?」
「大丈夫 夜間受付とかが今はあるんだよ。」
たしかにちゃんと届出は受理されて 二人は晴れて元旦に夫婦となったのである。
「よろしくな 奥さん」
「わたしが・・・奥さん?」
全然わかない実感にとまどう。
「室塚 芽衣さん。」
「・・・はい。」
「声が小さいよ。 室塚 芽衣さんいらっしゃいますか?」
「はい!わたしが室塚 芽衣です。」
「よくできました。 今日から君は室塚 芽衣だよ。
僕の奥さんになってくれてありがとう。」
「レイ そうだね。わたしレイの奥さんになったんだ。
うれしい。もうずっと一緒だよ。こちらこそ よろしくね。」
「ああ 愛してるよ。」
レイがすこし指先が赤く冷えてきたユウリの両手を口元に持っていって暖めてくれた。
「なんかさ あわただしくで順序が逆なんだけど・・・」
レイの口元で暖められていたユウリの指にそっと煌めくリングがはめられた。
「レイ・・・これ。」
「婚約指輪 昨日やっと出来てきたんだ。」
「すごく綺麗・・・うれしい・・・ありがとう レイ。」
「良かった・・・サイズぴったりだね。」
プラチナの台にダイヤがキラキラ光って 雪の結晶を身に付けているようだった。
「さあ 帰ろう。」
「うん。」
ユウリのぞうりを履いている歩調に合わせてゆっくりと家に向かう。
門の前まで来るとレイは
「ユウリ この玄関を開けると 君の両親は 家族になったばかりの僕をいつも暖かく迎えてくれるだろう。
それが本当にうれしいんだ・・・。」
噛みしめるようにいうとそれでも明るく
「ただいま~!」
とレイは言って玄関をドアを開けた。
「おかえりなさい。寒かったでしょう。
さあお雑煮たべましょう。
レイ君お節料理手伝ってくれてありがとうね~
いつもより豪華なお正月だわ~~。」
「まったくすごいな~君は 芽衣 お前がお嫁さんを貰ったんじゃないのか?」
「ハ・・ハハ そんなことないよな~芽衣もちゃんと手伝ったよな?」
「そ そうだよ。ちゃんと重箱に並べたもの・・・もう レイは少し座ってなさいよ。
わたしの出る幕ないじゃないの~~」
お正月番組を見ながら二人で出ているバラエティ番組に突っ込みを入れられながらも
佐々木家は楽しい元旦を過ごしていた。
リュウが紋付袴を穿いて 訪れたのはそんな元旦の午前中で
恭しく一応レイの身内として芽衣の両親に挨拶を済ませて
(やっぱりさすがはリュウ)
とユウリとレイを関心させたのに
お酒が入るととたんに普段の調子を取り戻し ふたりを呆れさせた。
「紀子さん ユウリはね まだまだ子供です が! 必ず僕が一人前の女に・・」
「はあ・・女に?」
「もとい!一人前の女優にして見せますからっっ!」
「いい加減にしろよ リュウ。お母さん すみません。」
それでも こんな暖かい お正月を過ごしたのは 初めてだったよ と後でレイが嬉しそうに語っていた。
新年早々の記者会見にもかかわらず 都心のホテルには大勢のマスコミがカメラを持ち込んで集まった。
「サイレントナイトⅡ」のにしては レイとユウリだけで金城監督もいないし・・・とザワザワ会場内が落ち着かない。
「お集まりの皆さん。それでは会見を始めさせていただきます。尚 質問は一社につきひとつということでお願いします。」
「お正月明けでお忙しい中 お集まり頂きまして ありがとうございます。
本日 お集まりいただいたのはわたくし 室塚 レイとユウリこと佐々木 芽衣が1月1日に婚姻届を提出させて頂きましたことをご報告させて頂きたかったからです。」
おおっ!パシャパシャパシャと激しくフラッシュがたかれる。
「ユウリさんはまだ16歳ですよね?
ご両親に許可してもらったのはいつ頃ですか?」
「先月の中頃のことです。」
「もう一緒に暮らしているんですか?」
「はい 彼女の家でご両親と一緒に暮らしています。」
次々に浴びせられる質問にも臆する事なく レイが淀みなく答えていく。
「ユウリさん レイ君と付き合いだしたのはいつ頃ですか?」
ユウリにも質問がまわって来た。
「は はぃ ドラマの撮影も中盤になってからだったと思います・・・」
緊張でちいさな声しか出ない。
レイがそっとユウリの手を握った。
「式はあげるんですか?」
「まだ彼女は高校生なので おいおい考えます。」
「では学業は続けるんですね。」
「そうしてもらうつもりです。」
ほとんどレイが答えてくれたものの次々とカメラが向けられ
「こっち向いてください!」
「左手の指輪をもっと高くあげてください!」
と要望に答えているうちに目が回ってくる。
「はい それでは会見を終了させていただきます。」
やっとリュウがそう言ってくれた時はもう ユウリはくたくたになっていた。
「ああ来週からの新学期がちょっと不安。」
「ってか もう明日から撮影でみんなに問い詰められるだろ?」
「だよね~~」
正月の放映された「サイレントナイト 特別編」はかなりの高視聴率でスポンサーとなったブルームーン化粧品のCM「天使のリップ」もかなりの好評で新聞の紙面でも大きく広告が載っていた。
「ユウリ ロバートの奴はしばらくイギリスに活動の場を移す事になったらしいから・・・安心しろ。」
撮影でスポンサーのリップを使う時に一瞬ユウリの表情に暗い影がよぎったのを見逃さずリュウが声をかけてくれた。
「リュウの奴どんな魔法使ったんだろうな~?」
レイもユウリも本当に今回はリュウに頭が上がらない。
「ユウリちゃん ひどいよ。内緒にしてて あんまり突然なんだもの。」
ひかりとのシーンも正月明け今日が最初の撮影となる。
「ごめん。 本当にバタバタ決まって 慌しかったの。」
「監督が今回のことですこし 脚本に直しをかけているみたいだよ。」
「へえ そうなんだ。なんだか皆にも迷惑かけちゃってるね。」
「逆に宣伝になってよかったんじゃない?」
*************************
定期健診で眼科を訪れたひばりはいつもどおり佐竹から問診を受ける。
佐竹:「この間はお兄さんと楽しんで旅行している時に 割り込んじゃってごめんなさいね。」
ひばり:「いえ とんでもない。
色々案内してくれて ありがとうございました。」
佐竹:「ひばりちゃん なんだか最近明るくなったというか綺麗になったよね。
こないだは旅行に来ているせいかな・・・とも思ったんだけど 恋でもしてるのかな?」
ひばり:「え? そんな・・・ ちょっとお手洗い行ってきます。」
ひばりは熱くなった頬を洗面所で冷やして ファンデーションも何もつけなくても艶やかに輝く しみひとつない透明な肌にリップクリームだけそっと唇にのせる。
ひばり:(恭介を一人の男性として意識するようになってから わたしそんなに変わったかしら・・・)
********************
今日はレイとのシーンが無かったので別行動で仕事をしている。
これまでは別に住んでいたのでまるっきり会えないときは何日も会えなかったが
いま結婚して一緒に暮らすようになったので
一日に5時間でも6時間でも一緒に居られるだけで嬉しい。
現在佐々木家の2階にあった芽衣の部屋は
レイの私物で占領されていて ほとんど勉強道具を取りに来るだけの部屋になっていた。
だから ユウリとレイが主に過ごす部屋は1階のリビングと廊下で隔てられた12畳ほどの客室に設けられていた。
忙しいレイが 夜中に仕事から帰ることが多いことを考えて取り合えず そういうことになったが
春になったらもう少し改築して二世帯住宅にする予定である。
だからレイが遅いときはリビングで過ごす事が多くなって 却って父や母と過ごす時間が増えた芽衣だった。
「芽衣 手紙がきてたわよ。」
海外からの手紙だった。
差出人の名前は「新井 美弥子」となっている。
誰だろ?
{突然のお手紙で驚かれたでしょう。
私は以前一度だけ貴方に会ったのだけど 覚えてらっしゃるかしら?
北海道の温泉でロバートが失礼なことしちゃってごめんなさい。}
ああ そういえばあのロバートのマネージャーとかいうおねいさんはたしか
「美弥子」といっていたっけ。
{ロバートがその後 貴方やあなたの恋人(いえもうだんな様ね ご結婚おめでとう!)
それと同級生に対してしてしまったこと許しては貰えないとは思うけど
忘れてやってほしいの。
あれはロバートにとっては復讐みたいなものだったのよ。
あなたの事務所の刈谷さん 彼とロバートは10年ほど前に 一緒によく仕事をしていたらしいの。
まだ若くて日本に来たばかりのロバートに気軽に声をかけてくれたのがリュウさん。
すぐロバートは彼に夢中になってしまったのよ。
その頃飛ぶ鳥を落とす勢いで売れていたリュウさんは そんなロバートの事は可愛い弟くらいにしか思ってなかったかもしれない。
でも 戯れにロバートを一度だけ抱いてくれたリュウさんに期待するなって言っても 当時の孤独なロバートには無理だったのね。}
「なんだよ!リュウの奴 結局 自分が原因じゃねえか!」
レイが帰ってきて手紙を見せると疲れも忘れて憤慨する。
どうやらリュウにもて遊ばれて捨てられた傷を 癒すがためにそれ以降
次々と男女かまわず手を伸ばすようになったロバートは今回の仕事でも一向に悪びれずににこやかに接するリュウに対して
知らずに復讐していたのではないかという内容だった。
それを直接美弥子からリュウに伝えると
リュウは真摯に受け止めてロバートに謝罪したというのである。
「本当に謝罪だったのか? 身体で物をいわせたんじゃないのか・・・?
まったく変なところには鋭いくせに案外無神経だからな・・・」
レイがうめくように漏らした。
(大いにありうる話だ・・・)
と声には出さず うんうんとうなずくユウリ。
とにかく今はロバートも吹っ切れて 故郷のロンドンでモデルの仕事に没頭しているとのこと。
「まったく 男も女も見境つかない。 バイって奴は手に負えないな。」
(あ・・・そういうことなんだ バイって。)
数ヶ月ぶりにその意味を知って顔を赤らめるユウリ。
「ま 良かったじゃん ロバートも今は吹っ切れたらしいし ユウリも許せるよな? もうバイクの音聞いても 怖くないだろ?」
「うん」
「ところでノーマルな君の夫の要求に 答えてくれる余裕はおありですか?」
「レイったら・・・」
そっと抱き上げてベッドにユウリを運び 0時を少しまわった時計を見ながら
「明日から学校だもんな 1時までには寝かせてあげるから・・・」
とユウリの首筋に顔を埋めた。
ダンボールから取り出したレイの小さい頃の写真の入った額縁を見て
ふふっとユウリは微笑みながら レイに話しかける。
「ねえ レイ 私 初めてリュウやレイと会ったとき 全然違う世界の人達って気がしてたわ。」
今日は久しぶりに二人とも揃ってオフになったため まだ解かれてなかったレイの荷物を一緒に片付けている。
ふいユウリがそう言うと
「そうなの?」
とレイは割りと意外そうに見る。
「そうだよ。なんの心構えもなくいきなり 有名芸能人の男性二人と同棲したんだよ。
普通ありえないから。
じゃあ レイは初めて私と出会った時はどう思ったの?」
そうユウリが聞くとちょっと思わせぶりにレイは笑って
「また 随分まじめな子が連れてこられたな~って 同情した。」
「やっぱり・・・ 今まで幾人の子が リュウの被害にあってるのか。恐ろしいわ~」
「でも そのお陰で 俺はユウリに出会えたし。
もしかしたら ユウリみたいな子が俺には必要なんだって リュウはわかっていて 無理やりユウリをひばり役にしたのかもしれないな~」
「そうかな・・・そこまではないでしょう?」
「いや 最初は結婚までは予想はしてなかったかもしれないけどさ あの・・・リハーサル?の時も 何気にカードキーまた貸してくれたしさ・・・」
ユウリも思い出して ふたり顔を見合わせる。
「じゃあさ・・・リュウはわたしたちの“愛のキューピット”ってこと?」
噴出しそうにユウリが言うと
「ぷっははははっ!リュウのこと今度からキューちゃんって呼ぶかい?」
「やめて~! 苦しいからっ!」
お腹がよじれるくらい笑いころげてしまったレイとユウリ。
「でもさ まじめな話 リュウは本当に俺やユウリのことをいつも考えてくれているんだ。」
「うんそうだね わかるよ。」
ユウリも兄がいるようで嬉しく思っていた。
「俺なんかさ 母さんが死んで親戚の家もあったんだけど、
どこにも行きたくなくて函館の高校に一ヶ月しか行かない内に
年賀状だけはくれていたリュウの住所を頼りにいきなり上京して転がり込んだんだ。」
ちょっと当時を懐かしむように レイが座りなおして言った。
「そうだったの・・・」
「リュウは突然現れた俺に特に驚くでもなく
普通に“じゃあ 今日はハンバーグ作ってくれ”
とだけ言って
翌朝にはこっちの高校へ編入する手続きをしてくれたんだ。」
さっきまで お腹が痛くなるほど笑っていたのに・・・
今 ユウリは目頭が熱くなっていた。
「リュウはその頃 人気絶頂だったアイドルを引退して 自分で事務所を立ち上げたばかりの頃だったから
おそらくすごく大変な時期だったと思う。
でも 全然そんな余裕のないところなんて見せなかった。」
「さすが リュウはその頃からリュウだね。」
「ああ でも俺はその頃から軟弱な俺で 高校もなんとなく馴染めなくってさ・・・不登校って言うのかな
リュウの部屋で掃除したり料理作ったりしてた方が気が楽だった・・・。」
(今のレイからは想像できないけど・・・
そんな事も乗り越えていまのレイがいるのね。)
「だけど リュウは学校へ行けとは一度も言わずに
俺の作った飯が旨いと褒めてくれたり
帰ってからすぐに綺麗な熱い風呂に入れるのは嬉しい
と言ってくれただけだった。
それで却って学校に行かなきゃって思ったんだ。」
「・・・うん うん。」
ユウリはもう目が曇ってレイの顔をまともに見られない。
「高校に慣れて通うようになって夏休みにリュウの事務所でドラマのエキストラがあるから
お前やってみるか?って言ってくれて
リュウの役に立つならって 喜んで行ってみたんだよ。」
「それで レイは俳優になったんだ。」
「うん。きっとリュウは俺のことずっと気にかけていてくれて
母さんが亡くなったことも人づてに聞いて知っていたんだと思う。」
「じゃあ やっぱりリュウはキューピットに違いないね。」
「そうだよ。」
翌日またスタジオでリュウにあったら もっと義兄として敬おうか
いやそんな風に接したら きっとリュウは気持ち悪がるだけだろう。
やっぱりエロオヤジって言ってやるくらいで丁度いいのかもしれない。
愛する夫が感じているのとおなじくらい ユウリもリュウの事を大切にしていきたいと思った。
ある日 突然現れた かけがえない人たち
貴方達に会えて わたしは幸せです。
END