その①
前略
元気にしてる? あの子が怪我人を連れて来た時にまさかとは思ったけど、本当に二人目が出来たなんて驚きだわ。それにしても、あんたの師匠は相変わらずと言うか困ったものね。
まぁ、近いうちに様子を見に行くわ。でもソフィアには黙っていなさい。それから、あの子はどうしても頑張り過ぎるところがあるわ。だから無理しないように見張っておくこと。
リリア・ゲーベル
午後の診察もひと段落着き、みんなでお茶をしていた時です。アリサさんが
「ソフィー殿。アタシたちがいるんだ。少しは休め」
「大丈夫ですよ。ルークの時は全然余裕でしたよ」
「そういう問題じゃない。ソフィー殿だけの身体ではないんだぞ」
私が新たな命を授かったとわかって数週間。アリサさんが大人しくしろと口煩くなり、どうにかして私を休ませようとします。
「ソフィー殿が無理をすればお腹の子にも負担がかかるんだぞ」
「そ、そうですよ。無理しないで下さい」
「大丈夫だよ。初めてじゃないんだから」
まったく2人そろって心配性なんだから。たしかに最近は胸が張ってきた感じもするけど、体型が変わるようなはっきりとした変化はありません。このくらいで心配されても困ります。
「エドを見て下さい。身重の妻をいたわる素振りなんかこれっぽちもないじゃないですか。あのくらいで良いんですよ」
「い、いや。あれはどうかと思うぞ?」
「は、はい……」
ルークと一緒にお昼寝中のエドを呆れ顔で眺めるアリサさんとサラちゃんは二人そろって溜息を吐きます。
「たまに思うのだが、エドは夫としてはダメな部分があるよな」
「そんなことないですよ。エドは世界一の旦那様です。誰にも渡しませんよ」
「いや、誰もエドを盗ろうとは思ってないが……」
呆れ顔のアリサさんはとにかく無理だけはするなと言い、サラちゃんも同意するように頷きます。2人とも心配ばかりするけど私だって一児の母です。一度経験しているので限界はわかっています。
「ルークの時は私だけだったんですよ。なんとかなりますよ」
「――それで倒れたのは誰だったかしら?」
「あ、あれは風邪をひいたからで……リリアさん⁉」
「サラたちがいるんだから少しはセーブしなさい」
自然と私たちの輪に溶け込みクッキーを抓むリリアさんはしゃがみ込み、エドの横で幸せそうな寝顔を見せるルークの頬を突きます。
「可愛い寝顔しちゃって~」
「あ、あのリリアさん……」
「なに?」
「なんでここに? っていうか何時からいたんですかっ」
「着いたのはさっきよ」
連絡なしに尋ねてきたことを悪びれず息子の頬をぷにぷにするリリアさん。サラちゃんがウチに来て以来、来る時は事前に連絡をくれるので急ぎの用かと思ったけどそうでもなさそうです。ルークが顔を顰めだしたところで頬突きを止め、立ち上がるとサラちゃんの頭に手をやりました。
「元気にしてるようね」
「は、はい。あ、あの……本当に来たんですね」
「そりゃね。2人は大事な弟子だからね。顔くらい見に来るわよ」
「え? サラちゃんはリリアさんが来る知ってたの⁉」
「実はリリアさんに黙っておくように言われたんです」
黙っていてすみませんと謝るサラちゃんはチラッとリリアさんを見ました。うん。これはリリアさんが悪いよね。
「ちょっと。なんであたしを見るのよ」
「来る時はちゃんと教えて下さい。今度から締め出しますよ」
「なによ。可愛い弟子の様子を見に来ただけじゃない。それはそうと――」
「なんですか」
「いつの間にコウノトリを呼んだのかしら?」
ニヤッと不敵な笑みを見せる先輩に顔が紅くなる私はそっぽを向き、それを面白がってリリアさんは「隙が無いわね」と私の頬を小突きます。なんだかサラちゃんと扱いが違う気がするんですけど⁉
「あんたはあたしの弟子だけど、サラは違うでしょ? その違いよ」
「さっき2人は大事な弟子って言いましたよね」
「細かいことは気にしないの。ちょっと時間作りなさい」
「はい?」
「話があるの。サラ。あんたは店番してなさい。アリサ、悪いけどあなたも良いかしら?」
「あたしもか?」
首を傾げるあたりアリサさんは呼ばれる覚えがないみたい。どうやらサラちゃんだけがリリアさんが来た理由を知っているようです。
「あんたがどうしようもない仕事バカだからよ」
「? どういう意味ですか」」
「あんたね……ま、いいわ。確か隣は書斎よね。そっちで話しましょ」
わざとらしく頭を抱えるリリアさんを前に私まで首を傾げたくなるけど、とりあえず書斎に移動しようかな。ここで騒いでもルークが起きてしまうだけだし、このままだとお茶請けのクッキーを全部食べられてしまいそうです。




