第17話 大聖女の処遇
透明なガラスポッドの中で揺れる黄金色の紅茶。それが赤い模様の入ったティーカップに注がれていく。
この屋敷の主である『アークトゥルス家』に代々仕えるメイド『アルラ』が給仕を熟していた。彼女はわたくしが訪れた時に出迎えてくれたメイドさん。
「コーンフォース帝国で買い付けた高級茶葉だよ。お茶を味わってから、ゆっくりと話そう」
「分かりました、エドワード様」
上品な香りのする紅茶を静かに啜っていく。……とても美味しい。芳醇な味わいに驚く。
「それはね、ヌワラエリアというんだけどね」
「凄く口当たりが良くて美味しいです。こんなの共和国にはなかったです」
「フィセルに喜んで貰えて良かったよ。……さて、本題だけど」
「帝国に呼び出された件ですよね。何があったのですか?」
そう聞くとエドワード様は少し困惑した表情を浮かべた。三日間もこの領地を離れていたから疲れているのかな。少なくとも疲労は溜まっているはず。後でわたくしが癒さないと。
「うん、実はね……フィセル、君の事が帝国に伝わっていたよ。誰から情報が漏れたのか――いや、でも現在進行形で『守護』が発動しているし、こんな強大な力が領地を守っているのだから、バレるのも時間の問題だったろうな」
「わたくしの事が……」
「もちろん、帝国には伝えたよ。プロセルピナ共和国が滅び、その結果、生き延びたウィリアム将軍が辺境伯領に侵入し、我々を脅かしたとね。
でも結果は君を知っている通りだ。あの大魔女アレクサが将軍に運命を下した。それを詳細に伝えたさ」
その話をしに行ったのね。
わたくしの事が帝国に知れ渡った。
これからどうなるのだろう。
「わたくしは普段通りの生活が送れるのでしょうか」
「心配する必要はない。コーンフォース帝国のアーサー皇帝陛下は慈悲深くもあり、思慮深いお方。大聖女の扱いは丁重にとお言葉を拝領したよ」
「それは意外ですね……仮にも敵国だった聖女ですよ。わたくし、処刑とか……」
「寧ろ、その逆さ。確かにフィセルは将軍の婚約者でもあった。でもね、もう共和国は滅んだんだよ。だから手を貸して欲しいくらいだってさ」
「手を、ですか」
「ああ、帝国は元プロセルピナ共和国の難民を受け入れる決定を下した。この辺境伯領にも移住してくる者がいるかもしれないね」
……不謹慎だけれど、それはちょっと嫌かな。わたくしは小規模の静かな暮らしを望みたい。でも、皇帝陛下のお言葉である以上、わたくしに従うだけ。
「困っている方達もいますものね。聖女として見過ごすわけには参りません」
「僕も出来れば今の住人だけが良かったけどね。でも、陛下のご意向だから」
まるでわたくしの心を読んだかのようにエドワード様はそうつぶやく。気持ちは一緒だったんだ。それだけで嬉しい。
「分かりました。心に留めておきます」
「そうしてくれ。それとアンリエッタの事も伝えた」
「……アンリエッタ」
「ああ、彼女は義理とはいえ妹だった。本当の妹が帰ってきたような気がして……少し救われてもいたんだけどね。残念な結果になってしまった。これも僕のせいかもしれない」
「思いつめないで下さい、エドワード様。アンリエッタは身勝手だったのです。それはエドワード様もご理解しているでしょう?」
「……ああ、本当に残念だけどアンリエッタは、僕の見ていない所でアドニスをいじめ、フィセルを追い出そうとしたり傷つけようとしていた。最終的には将軍に手を貸していたし、その因果で身を滅ぼした。伯爵殿は不在だったけど、その事実を伝えた……」
そうあれは全てアンリエッタが自分で蒔いた種。エドワード様には何の落ち度もない。
「それはお辛い役目を……ごめんなさい」
「フィセルが謝る必要は無いよ。この領地の主は僕だからね、全責任は僕にある」
「いいえ、全てをエドワード様だけに背負わせたくありません。わたくしも半分でもいいから、あなたをお支えしたいのです」
「ありがとう。僕には君が必要だ」
自然と見つめ合って手を握り合う。
やっとエドワード様との生活が戻った。




