第11話 亡国の大聖女
鏡に映る自分の姿。
赤いドレスと腰まで伸びる白銀の髪。
自分ともかく、エドワード様にはどう映っているのかなって気になった。そんな視線が伝わったようで彼は満足気に微笑んだ。
「とても似合っているよ、フィセル」
「良かった……嬉しいです」
ドレスを身に着けた瞬間から、わたくしの帝国民としての新しい生活が始まった――。
◆◇◆ ◆◇◆
穏やかな風が吹く果樹園を歩く。
隣にはエドワード様と透明な水晶を宙に浮かせるアドニスくん。アレはいったいなんだろうと不思議に思う。
「アドニスくん、それは?」
「これは魔導具の『ゲイズ』というもので、遠くを視る事が出来る便利なアイテムなんです。ただ、魔力消費が激しいので長時間は無理なんですが」
「もしかして……共和国を視ているのね」
「さきほど嫌な気配を感じましたから、また襲われているのではないかとチェックしていました。エドワード様に頼まれているんです」
納得した。
わたくしとしても共和国がどう滅ぶか気になる。半壊した以上、もう後はないはず。ここから逆転する糸口なんてないと思われる。唯一あるとしたら、わたくしが戻ること。でも、それは永遠に叶わぬ願い。
「さて、着いたよ。どうだい、見事な『シャイニングマスカット』だろう」
見上げると、色鮮やかなエメラルドグリーンのマスカットがあった。この場所ではマスカットを栽培しているのね。本物の宝石のように綺麗で、わたくしは目を奪われた。
「これがマスカット。共和国のものと全然違うのですね」
「うん、これは僕が作った物だからね。帝国にしかないものさ。ほら、食べてご覧」
「ありがとうございますっ」
一粒貰い、皮ごと戴く。
「どうかな?」
「う~んっ! とても甘くて美味しいです! 濃厚な甘味なのですね」
「それが自慢でね。帝国ではあまりの人気にすぐ在庫が無くなってしまう程なんだ」
「分かります! こんな美味しいマスカット、一度食べたら止まらなくなっちゃいますよ~」
「気に入って貰えて良かったよ。これから、フィセルとは農業を始めようと思っていたし、まずは『味』を知って貰おうと思うんだ」
「農業を……それは大変素晴らしい提案です。もちろん、受けます」
「それは良かった。断られたらどうしようかと思ったけどね。ただ、汚れたりするから……本格的に作業する時は着替えた方がいいな」
せっかく貰ったドレスを泥まみれにするわけにはいかない。前に使っていた修道服を使おう。あれなら汚れても平気。
これからは共和国の事は忘れ、農業を始めていこう。そうすれば、嫌な過去も忘れられる。あの将軍との日々だって――。
「大変です、エドワード様!」
そんな時、あの『水晶』を視ていたアドニスくんが叫ぶ。酷く慌て、驚いていた。
「どうした、アドニス」
「たった今……『プロセルピナ共和国』が滅びました。壊滅状態です……」
「……なっ」
わたくしもだけど、エドワード様も愕然となっていた。共和国が……滅んだ? このたったの数時間足らずで?
どうして?
「アドニスくん、教えて……いったい何があったの?」
「信じられない……」
「えっ?」
「魔女がいたんです……『大魔女』ですよ! その昔、共和国を襲ったという大魔女が再び現れたんです。モンスターの群れに紛れていたんですね」
なんですって……あの怪物の中に『大魔女』がいたの……? だから、いつもと違う不穏な空色だったのね。カーマインが必死になる理由も今なら少し分かったかも。でも、やっぱり本人が来るべきだった。もう遅いけれど。
「そうか……ついに大魔女が現れたか」
「エドワード様は、御存知なのですか」
「かつては“聖杯の聖女”や“祝福されし聖女”とも呼ばれた少女だったらしいけどね。そんな彼女の名を『アレクサ』というらしい」
アレクサ。
それが大魔女の名……。
共和国を滅ぼした元聖女にして大魔女。きっと、共和国に恨みがあったのね。きっと、あの将軍に関連するに違いないと、不思議とそんな感じがしていた。
そっか、共和国が。
大魔女が共和国を滅ぼしたこの時より、わたくしは『亡国の大聖女』となった――。




