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小話①後編 失ったものはあまりにも大きくて(にーにー視点)

「は?え、今、何て」

「このままだと、あの野郎は心神喪失状態での犯行として、無罪になる可能性が非常に高い」


葬儀から一週間後。浩太に家に呼び出された。

内密な話だと言われ、俺ともう一人、彰も呼び出された。


「マスコミが葬式の時、一人も来てなかっただろ。あれでおかしいと思って色々調べてみた。……情報が握り潰されている。俺もこれ以上の捜査はするな、と上から釘をさされた」

「な……っ」


絶句した。何で、どうして。


「あの野郎の親は大企業の会長で、親族には俺達も名前を知ってる位のお偉いさんがうじゃうじゃいやがる。判事、国会議員、警視庁長官、と選り取り見取りだ。あの野郎はそのエリート一族の超落ちこぼれで、親の企業の孫請け会社にお情けで雇って貰っていたんだと。まぁ、流石に落ちこぼれでも子供の罪が大々的に報道されたら不味いって事だろ。あと、慶次」

「え、あ、ああ、何だ?」

「お前、勇希の遺産相続人になってるんだが、弁護士と話したか?」

「はぁ!?!?!?」

「勇希君が慶次にですか!?」

「ああ、あの野郎の弁護士もその情報を掴んでる。多分次の裁判で、慶次、お前呼び出されるぞ」


ちょっと待て、何やらかしてくれてるんだ勇希ぃぃ!?

いや、まぁ、お前の墓と小父さん小母さんの墓は無縁仏にしないつもりだったけど!?


「下手すると向こうの弁護士が「遺産目当てで慶次がとどめを刺したのではないか」位言い出すんじゃないかと思って、今日お前らを呼びだしたんだよ」

「それはありがたく思いますが、浩太。情報漏えいは貴方に影響が」

「ああ、いい、気にすんな。さっき辞表出してきた」

「はぁ!?」

「それはまた、随分と思い切りましたね」

「悪人を逮捕出来ないなら、警察官で居続ける意味ないだろ。有り難いことに独身だし親も元気で農業やってるし、畑継ぐさ」

「ふふ、貴方のそういう所、嫌いじゃないですよ。何でしたらうちでも働いてください、お給料ちゃんと出しますから」

「おー、金に困ったら頼むわ」

「浩太、お前……いいのか、あんなに一生懸命だったのに」

「かまわねぇよ、というかどのみち今回の件で上に抗議したから睨まれてる」

「ふふ、ふふふふふ、そういう手で来るなら仕方ありませんね。

隠したければ存分に隠し続けてください、オタクの怖さを存分に思い知らせてやりましょう」


彰がキレた目で笑い出す。

勇希もオタクって奴だったが彰はその上をいっていて、彰の部屋のパソコンは何だか凄すぎて趣味の域を遥かに超えている。小学生の頃お年玉で株の売買を始めたのが切欠ではまったそうだ。

長い休みの度にデイトレード?って奴で金銭を稼ぎ、自力で医学部の学費を全額支払い親を驚かせたこいつは、機械関連全般に凄まじく強い。

時々同じオタク仲間です、と言う奴らが県外から来る事もあり(オフ会というらしい)気の良い奴ら数名が楽しそうに観光して帰っていく。我が家のワゴンで送迎するうちに、俺も少しそういう方面に詳しくなった。


「正直、私はいつ自分に警察から連絡が来るか待っていたんですけどね」

「ちょ、待て彰、お前に連絡なんて俺は指示されてねぇぞ!?」

「ええ、だいぶ初期段階で圧力がかかったと見えます。多分そんな状況になっているかもしれないと思って、持ってきました」


彰が取り出したのは、1枚のDVD。


「勇希が小父さん小母さんの財産を受け継いで一人暮らしになった時に、色々と馬鹿な輩が来ていたでしょう?寄付金寄越せとか投資しませんかとか」

「あー、確かに。親父と二人で追い払ったっけ」

「慶次そんな輩が来てるんなら連絡しろよ、一緒に追い払ったのに」

「悪い悪い」

「その中には、無下に追い払われたとか馬鹿な事を言う輩もいましてね。いっそ一部始終を撮影してしまいなさいと下駄箱の上に置いてある招き猫と玄関の外にあるポストに、内部及び外部を録画録音出来る監視カメラを2台仕込んだんですよ。」


かしゃん、と。

持っていたグラスが滑り落ちる。


「あの日の映像も、全部録画されています。勇希のパソコンを調べれば、すぐに判る事なんですけどね。それすらも警察はやらなかった。

私が形見分けで貰った勇希のパソコンには、15年前からあの日までの全ての映像が残っています。あの日何があったのか、勇希が最期に何と言い残したのか、全部、っ」


ばんっ!と、彰がテーブルを叩いた。


「そんな事すら調べず、警察は……!!!」

「……悪い」

「……いえ、浩太は何も悪くありません。……慶次」

「あ、……悪い、な、何だ」

「これを警察に提出しても握り潰されますし、検察にも手が回っているでしょう。マスコミに流す事も、1件も取材が来ていない以上不可能でしょう。ですが、たった1つ。誰も手を出す事が出来ない場所があります。」


彰が、パソコンを指差す。


「ネットで「権力者のもみ消しにより殺人犯が無罪に」と銘打って、この映像を拡散するんです。幸い、私はネット内でそれなりのコミュニティを築いています。彼らの中には勇希を知っている者もいます、協力してくれるでしょう。

国内だけでは消される可能性もあるので、海外のサイトにも拡散する必要があるでしょう。犯人の身内が身内ですし、面白がって拡散してくれる面々も多数いる筈です。

上手くいくかどうかは判りません、そもそもどうにもならないかも知れませんし、リスクも多々あります。ですが、今思いつく手段が他にありません」

「いや、そもそも、待て彰」

「浩太?」

「何ですか、浩太」

「その映像を持っているってばれたら、彰、お前がやばいんじゃ」

「口封じに殺されるかもしれませんね」

「なっ……!?ど、どういう事だよ、浩太」

「あの野郎が家に来た時から全部映ってるんだろ?」

「ええ」

「あの野郎が家に来た時点で刃物持ってたら、流石に勇希も警戒して逃げる筈だ。だが勇希は奴を玄関内に招き入れている。つまり、勇希は奴に普通に応対して玄関をあけた。この時点であの野郎は「きちんと応対して貰える程度には会話が出来ていた」事になる。

俺も一応刑事として何件か心神喪失状態と判断された加害者の取り調べやった事があるが、奴らはそもそも会話が成り立たない。

今回の判断を出した精神科医は金握らされてる可能性があるからどうしようもないが、他の医師にその映像を見せたらまず心神喪失状態と断定する事はないだろ。勇希が19の時から映像が撮影されていて、それらが全部残っているなら、殺害に及ぶ以前の応対映像も残ってる筈だ。」

「つまり、私が持っている映像は「犯人が心神喪失者では無い決定的な証拠映像」という事です、慶次」

「だからお前がヤバいっつってんだろ。こんなもみ消し方する輩共だ、下手するとお前殺されるぞ」

「ええ、だから「拡散」するんですよ。手段を択ばない輩共です、下手すると慶次や長嶺のご家族も危うい」


このまま何もしないで泣き寝入りしておけば、あの野郎の身内共は何もしてこないかもしれない。だが現在の状況を鑑みるに、それは希望的観測でしかない。

今回の情報が流れたら致命的な打撃を受けるのが確実な現状、裁判が終了しあの野郎が無罪放免になりほとぼりが冷めた頃に、何らかの手を打ってくる可能性が非常に高い。

淡々と、でも申し訳なさそうに、俺にもわかるよう彰が教えてくれる。


「慶次。貴方と貴方の家族、そして勇希には本当に申し訳ないのですが」

「いや、いい。それに、万が一俺達が自分の所為で何かあった、何て事になったら、下手すると勇気が化けて出る」


すぐさま3人で俺の家に行き、百合や親父、お袋と話をし、そして愛良にもきちんと説明した。もちろん彰や浩太の家族も呼んで話をした。

このままじゃ勇希を殺した犯人が無罪になる事、そうしないで済むかもしれない方法がある事、万が一がありうる事、勇希を殺した犯人に罪を償わせたい事、映像を出す事によって世間の好奇の目にさらされる事、そうなったとしても無罪をひっくり返す事が出来るかどうか判らない事。

リスクも何もかも全部洗いざらい話し、その上でどうするか皆で話し合い、画像をある程度編集した上でネット上に公開する事に決めた。


「おとーさん。わたし、何があってもがまんできる。だから、ゆーきにーにーを殺したひと、やっつけよう」

「ああ、頑張ろうな、愛良」


2日後、彰の人脈が凄かった(海外のオタクとも友達だとは知らなかった)おかげだろう、あの日の映像は一気に動画配信サイトのトップに躍り出た。

反響は凄まじかった。マスコミは手の平を返し連日勇希の報道を続け、犯人の親の会社の株価は大暴落し、役職についていた奴らは軒並み叩かれ辞職に追い込まれた。心神喪失状態と診断した精神科医は医師免許をはく奪され、犯人は「罪のない相手を自身の身勝手で殺したばかりか、親の権力を用いて罪を免れようと隠ぺい工作まで行なった所業は極めて悪質である」と裁判官に断じられ、無期懲役の判決が出た。犯人の母親が控訴した為まだ裁判は続くが、ここまで世論が反発している以上無罪判決が出る事は決してないだろう。


「勇希、ごめんな。お前を一躍有名人にしちまったよ」


勇希の家の仏壇に線香をあげ、詫びる。

弁護士先生と色々話し合った結果、勇希が住んでいた家とビニールハウスはそのまま相続する事にし、勇希の生命保険2,000万円は全額虐待を受けている子供の支援団体に寄付した。


『ありがと、……おじさ、ん……ありが、と、にーにー、ねーねー……俺、幸せ、だっ……た、よ……』


理不尽に殺されて死ぬ間際に、生への執着でも無く犯人への恨みでも無く、ただ幸せだったと言いありがとうと感謝を告げて逝った大事な心友。

勇希の生は、はっきり言って不幸の連続だったと思う。俺ならきっと途中で心が折れていた。それでもあいつは、最期、苦しかっただろうに、痛かっただろうに、笑って逝った。


「なぁ、勇希。また今日もお前あてに手紙が来ているぞ」


あの映像を見た人から、ほぼ毎日のように勇希に対してメッセージが届く。


『どうか安らかに眠ってください』

『生きている事に対し、感謝しなくてはいけないと思うようになりました』

『私は身近な人達にちゃんと感謝の言葉を伝えていたか、考えさせられました』

『貴方のように強く優しく生きていきたいと思います』


勇希。

手紙くれた人の中に「人は、忘れられないうちは、心の中で生きているんだ」って教えてくれた人がいたよ。

お前は俺の心の中で、みんなの心の中で生きているんだってさ。


「俺も頑張ってお前に恥じない生き方をするよ。だって俺は、お前のにーにーだからな」


ちゃんと頑張るから。

だから、今だけは……泣かせてくれ。

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