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正体判明


 四人はじっと立ち尽くしていた。

 脳裏に浮かぶ、ルヴナンという世界を侵す敵を倒したことによる称号の獲得も、彼らの思いをいささかも揺らしはしなかった。


 一行を導いて来たディーノは、消え去り舞い上がっていった片恋の女性の面影を、空に映していた。

 その心に過ぎるのは、彼女の息子を守り抜いたことへの誇りか、それとも若き折り、未熟だった己への懺悔か。

 ただ空を眺め、微動だにせず静かに佇んでいた。


 一行の攻撃役を一手に引き受けたジャンは、浮かび上がる笑みをひたすらかみ殺していた。

 才能ある幼馴染みを死なせずにすんだこと、大切な女性の命を今度こそ守れたこと、誰の犠牲も出さずにすんだこと……。

 彼は達成感に思わず浮かび上がる微笑を、だが幼馴染みの母親が眠る地では厳粛でありたいという思いから必死でかみ殺していた。


 勇者であるソルは、母の像があった場所を眺めて微笑んでいた。

 母が守ろうとしていた”世界”を自分が守れたことに、言いしれぬ誇らしさを抱えていた。

 そして目を伏せて、まみえることのなかった父を思う。

 父と母、双方に心の中で頭を下げる。

 二人がいたからこそ、自分はここにいるのだと自覚していた。


 ルーナは、呆けたようにルヴナンの消え去った後を眺めていた。

 己の一族がこの世界に追いやった、災厄の元。

 愛する男に死を覚悟させていた、忌まわしき同族の罪の結晶。

 それが大した苦戦もなく消え去ったことに、半ば自失していた。


「……本当に、終わった、の……?」

 罪の結晶が消え失せた。

 それでルーナ達月の民が犯した罪が消えるわけではないが、確かにこれ以上の脅威は消え去ったのだ。

 ルーナの命をもってしか贖うことはできないと思っていた、罪の結晶が。

 彼女は己の手を見下ろした。

 小刻みに震えている。

 わけもなく叫びそうになって仰向く過程で、純白の友人が目に止まった。


 「ラビーちゃん……?」

 この世界に残された、恐らくは唯一のラビウサ族。

 その彼女が、何やらソワソワしている。

 誰もが、最終目的であるルヴナンを倒した感慨に耽って己の内面と向き合っているさなか、彼女は勇者達に話しかけたそうに目を彷徨わせている。

 ルーナは、頬に笑みが浮かぶのを自覚した。


 生きている。

 自分も、ソルも、そして大切な友人達も。

 先祖が犯した罪は、贖う。

 だが、もうこれ以上の犠牲がこの地に出ることはない。

 だからそのことを今は喜ぼう、と。




「どうしたの、ラビーちゃん」

 落ち着いた声でルーナは友人に話しかけた。

 ラビーはパッと顔を輝かせ、シタシタと足早に歩み寄ってきた。

「な、なんか変なことになってるでござるよぅ」

 変なこと、と言われてルーナの顔は陰った。

「……なにか、困ったことなの?

 どこか、痛いの?」

 ラビーは焦ったように首を振った。

 瞬間移動してきたシーフに驚いたのかもしれなかった。


「ち、違うでござるっ!

 そうじゃなくて……なんか、進化?しちゃったかも?みたいな~……」

 へへへ、と何かを誤魔化すように笑ったラビーに一行の誰もが首を傾げた。

「センセイが進化?

 センセイ、戦闘には参加してねぇよな?」

「いつもよりは近くにいたけど……」

 ルーナも首を傾げた。

 いつもよりラビーが近くで待っていたため、余計に危険な目に合わせたくなくて瞬殺した、という事情は伏せておく。

 ジャンも共犯だし、とルーナは清らかな顔でちゃっかりしたことを考えていた。


「いや、待てよ?

 ラビーは私に月の剣を渡しただろう?

 ……あの行為が、戦闘参加と取られたのかもしれないよ……?」

 ソルはラビーを上から下まで眺め、フっと息を吐いた。

「大活躍だね?ラビー」

 フワッとラビーの毛が逆立った。

 明らかにソルの威圧に押されて怯えている。

 ルーナは慌ててラビーを抱え上げて保護した。


「ソルさんっ、ラビーちゃんだって頑張って後ろで待っててくれたんですからっ!」

 ソルがラビーに対して冷たいことにルーナは非常に遅い時点で気づいたため、ソルから庇うという行為も、今となってはかなり無駄な行為となっていた。

 満足そうな顔でルーナに抱かれているラビーの顔に、ルーナが気づくことはない。

「……まぁまぁ。

 にしても、センセイが進化ねぇ。

 なんに進化したんだ?

 もうプリンじゃないのか?」

 しごく真っ当なことをジャンが聞いてきて、ディーノがごく僅かに残念そうな顔になった。

 その真意は不明である。


「あ~……、プリンでは、あるみたいでござるよ?」

 そのラビーの言葉に、全員揃ってのお披露目会となったのだった。

 もちろん、ソルにとって神聖な場所であるこのセレネピア内で行われることは許されなかったので、郊外の雑木林に場所を移すことになったのだった。




 雑木林の木陰で服を脱ぎ、プリンに変身したラビーを見て一行は思った。

((((……チョコレートのかかった、チョコレートプリン……っ!))))

 心なしかディーノの目が輝いていた。

「――進化前に鍵取っといて良かったよな……今の姿じゃ、透けないからな……」

 真面目にシーフが呟くのを聞いて、ルーナはほっこり微笑んだ。


『透けないでござるか?なるほどぅ……』

 プリンから声とも思念ともつかない不思議な波長を感じて、ルーナは驚愕した。

「ラビーちゃんっ!その姿で喋れるの?!」

 ルーナの声にプリンはプルプル震えた後、また波長を放った。

『聞こえてるでござるか?!

 ……う~む、もしかしてこのアビリティのせいでござろうか……』

 プリンは上体をやや傾げた。

 恐らくは首を傾げたかったのだろうと思われた。


「センセイ、なんのアビリティだよ?」

 過保護なシーフがすかさず情報収集に乗り出した。

 その過保護ぶりに気づくこともなく、ラビーは気もそぞろな返事を寄越した。

『たぶんこれでござるな。

 思念波。これのせいで通じるんじゃないかと思うでござる』

「他には?どんなアビリティがあるんだ?」

 根掘り葉掘り聞き出そうとしているシーフを、勇者達は誰も止めない。

 呆れているのが一人、諦めているのが一人、よく分からないのが一人だ。

 ラビーはややためらった後、思いきったように打ち明けた。


『新しく増えたのは、思念波と人化でござる』

 そう言いながらも微妙に後ずさっているのは、鈍いラビーにも何らかの危機感が芽生えてきたということだろう。

 ルーナは悲しいような切ないような目でプリンを見つめた。

 その後、ルーナにしては驚くほど冷たい眼差しをジャンに向けた。

 いざとなったら力技で止める、そういう決意が如実に伝わる目線だった。


「人化?!

 ……なぁ、センセイ……」

 ジリジリとプリンに詰め寄る変態シーフ。

 ジリジリと後ずさるプリン。

 被害者は明らかにモンスターであるプリンだった。


「がっつくなよ変態」

 そんなシーフをさり気なくソルが止めた。

「服を着てもらわないといけないだろう?」

と思ったらソルは所詮、ジャンの味方だった。 

 ラビウサ族ではなく人類に変化できると知って、友人の変態性が薄まることを喜んだソルの思いやりだった。


「ラビーちゃん、一緒にお着替えしましょ?」

 見ていられなくなったルーナがラビーに声をかけて木陰に連れ込んだ。

 物言いたげな男性陣の目線は、背中で叩き落としていたルーナだった。

 ラビーが絡むことに関してはバーサクを発動できるルーナ。

 恐らくラビーは気づいていないにしろ、男性陣を黙らせるだけの実力は持っていた。




 人化してルーナの服を着せかけられたラビーは、それでも男性陣にお披露目することを非常に渋った。

「な、なんか逃げ場を自分で塞いじゃう気がするでござるよっ!

 やっぱりお披露目はやめといた方が……」

 ルーナは、可愛らしい黒髪の少女の手をそっと握った。

「大丈夫、ラビーちゃん。

 私が絶対に守ってあげるから……」

「え、えぇと……う、うん……?」

 有無を言わせないルーナの迫力に簡単に押し負けたラビーは、渋々と男性陣の前に姿を現した。

 

 ルーナの着ていた白いローブドレスを纏い、上衣はうさ耳フードを羽織っている。

 ちなみにこのうさ耳フードはルーナに続き二人目の、ウサギ耳のフードになっていた。

 色はルーナの白とは違い茶色であった。

 首にかかる長さの黒髪に、ぱっちりとした黒い瞳、やや幼い頬の線。

 ルーナ達にとっては14歳ぐらいにしか見えない少女の姿だった。


 そして、その姿を目にした変態(ジャン)は――

「トーコッ!」

 素晴らしい勢いでラビーに接近し、無言の威圧をかけるルーナと対峙して微笑み合った。

「悪ぃ、ちょ~っとセンセイと話したいんですケド」

「変態行為は厳に慎んでくださいね?」

 ラビーに聞こえないように素早いやり取りをした後、ジャンは改めてラビーに向き合った。


「やっぱりトーコは可愛いな」

 ジャンらしくもない、どこかはにかんだ微笑みにようやく印象が噛み合ったらしいラビーは、思わず絶叫していた。

「――……ハルト君?!」

 懐かしい名前に思わず微笑んだジャンは、続いたラビーの言葉に深く肩を落としたのだった。

「ハルト君が変態になってた?!」





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