ラスボス討伐
清々しい顔のエラクレスに手を振られて見送られた私達は、粛々とセレネピアに向かった。
さっさとこの場を去りたいという気持ちがあったとかでは、ない。
居たたまれなさなんて感じてない。
「ディーノさん、モテすぎ……」
ええいジャン、敢えて誰も突っ込まなかったことを口走るんじゃないっ!
「ディーノさんだからな……」
ソル君が疲れた顔で同意した。
心なしか足取りがとぼとぼと重くなっているが、そんな私達を他ならないディーノさんが叱咤した。
「先を急ぐ。さっさと歩け」
ジャンとソル君の恨みがましい目は口ほどに物を語っていた。
あなたに言われたくねぇよ、と!
セレネピアへは、ミバドゥから海岸線を道なりに北上して半日も歩けば到着する、廃墟の町だ。
20年前、月から落とされてきたルヴナンが巣くった町。
あっという間に全滅した、町。
20年の間に朽ちていった石造りの町は、中央の広場に聖女の石碑を抱いていた。
聖女アンヌの石碑には、腕部分にひび割れが入っていた。
おずおずととソル君が、石碑に近づいていく。
アンヌの石碑は、光沢のある白っぽい石でできていた。
大理石というほどな滑らかではなく、けれども砂岩ほど脆くもない、白い石像。
よく見ると透明にも見える、不思議な材質だった。
「かあ、さん……」
跪いて祈りを捧げる形に固まった聖女アンヌに、息子のソル君が話しかけた。
ソル君の目は、ジッと聖女の顔に当てられていた。
……目元が、似てる気がする。
口元も。
でも、額はちょっと違う様な気がする。
「…………」
ディーノさんも進み出て、ソル君の後ろでかつての片恋の相手を静かに見つめていた。
「……ソル。……ディーノさん」
ジャンが、苦しそうに口を開いた。
私にも分かるほどの、禍々しい妖気が石像からにじみ出ている。
それはこの数瞬でも桁違いに強く放たれ始めている。
「――……分かってる」
ソル君が、それでもそっと手を伸ばして緩く聖女像を抱きしめた。
「……ありがとう、かあさん」
私の隣で、ルーナがボロボロと涙を流していた。
ようやくお母さんと会えたソル君に対して、思う所があったのだと思う。
「もう、大丈夫だよ、かあさん」
石像の頬を優しく撫で、ソル君は最強の杖である”自在天”を構えた。
「解放しよう、ルヴナン!」
ソル君が聖女の石化を、解く。
既に息絶えたアンヌの体は、砂がサラサラ零れるように天に帰っていった。
そして訪れる、闇。
「二度目だ。しかも弱い。
さっさと倒すぞ」
ディーノさんの声を聞きながら、私は後ずさった。
私の腕には、真の”月の剣”。
ルヴナンのHpを削りきったら勇者達に渡すという重要な、もしかしたらルヴナン討伐において最も重要といえるかもしれない役割を担っているわけだ。
渡すだけだけどね!
ラスボスとはいえ裏ボスほど強くない、むしろ美脚美人のアテ嬢より弱いルヴナンなので、私もこっそり勇者達の後ろから戦いを見守っていた。
「せやっ」
半透明のゲル状の何か、であるルヴナン。
スライムではないと自信をもって言えるのは、そいつが布を被った死に神のように鎌を持っているからだ。
手……というか触手で。
よってスライム説は却下。
そんなスライムもどきに、勇者達の攻撃はことごとくヒットしていった。
……そりゃ、最強だもんね。
ルヴナンも無属性攻撃やら全体物理攻撃とかで抵抗してるんだけど、如何せん強さの土台が違う。
ジャンとルーナの多段攻撃で瀕死に追いやられたルヴナンは、やがて赤く明滅を繰り返し始めた。
「今だ、センセイッ!」
「ほら、これでござるよっ!」
事前にうるさいほど何度も言われていた通り、ソル君に手渡した。
万が一にもルーナに命の危険は及ぼさないため、らしい。
鞘部分を握って柄をソル君に向けて手渡した。
けっこう長かったから、腕がプルプルしたともさ。
「……終わらせる。
勇者は、もう要らない」
抜いた剣が眩く光る。
ソル君はその光に目を眇めもせず、光に身悶えるルヴナン向けて突き刺した――!
カッッッッ!
音のない爆発が起こったような、新星が誕生したんじゃないかっていうような光が一気に放出された。
闇が、一瞬で消え去っていく。
無風の中で行われた音のない爆発は、誰にも危害を加えないまま、何事もなかったように元の廃墟に戻っていった。
ラスボスが、倒された。
感無量である。
これから、愛するルーナと粘着質なソル君がめくるめくいちゃラブの日々を過ごし始めるわけで……。
チャラピラピラピ~ン!
『”ルヴナン”を撃退しました。経験値を獲得、進化します』
……はい?
感動に、水を差さないでくれますかねぇ?
『デザートプリンセスから プリンを超えしモノ に進化しました』
……はい?
あの、ちょっといいかな?
――凄いのか凄くないのか分かんないよっ!




